第4話 夜の楽しみ
アレクの一言で解散。
だがアレクとフェリナは目くばせを交わしながら二人で出ていった。まあ、しばらく二人の時間はお預けが多かったし、今晩はいいか。ごゆっくり。
自然と、寝るには早いからカーターと一緒に夜の街に出る。
この街は鍛冶業が盛んだ。
鉄や銅を中心とした装備品制作や錫等も使った日用品生産等々。
この街で作られた製品は遠くまで運ばれて各地で使われる。
そんな街だからか、鉱石や純度の低い金属塊をある程度純度の高い金属塊にする、たとえばたたら製鉄業者がいくつかあり、休まず交代で稼働する工場から火の光が絶えることはない。
街の夜空は赤いぼんやりとした光で満ちている。
薪や石炭が燃える香りがそこかしこから漂い、夜の時間は今まさに剣を打っている工房を除いて静かになっているが、陽が出ている時間は耳がつんざくほどの金属音が響くのだ。
カーターは剣以外も一流の使い手だから斧だって槍だって自在に使ってのける。アレクよりも戦士としての完成度は明らかに上だし、頭もいい。性格も戦いでこそ豪胆だけどそれ以外では優しい。
体格にも恵まれた彼はパーティーの盾となり剣にもなる。
そんな男性として完璧な彼がなんでチャラさがよく顔を覗かせるアレクと親友をやっているのかよくわからないのだが、彼はアレクの夢の手伝いをしたいのだという。
その意味では、魔王を倒すという目標に邁進している彼ら3人と私の間には温度差があると思う。私なんか正直暇つぶしで付き合っている面もある。
師匠が死に、師匠の遺産をむさぼり尽くして、周辺国の魔術学校や宮廷魔術師を一通り荒らしまわって彼らの力量の低さにがっかりして、やることがないけど無駄死にもするつもりはなくて、研究こそしていたがそれ以外に特にやることがなくて途方に暮れていたところを拾われたのだ。
だから、彼らが眩しく見えるし、カーター自身は魔王を倒すこと自体にはさして興味がないものの、アレクが魔王を倒すんだと言い始めたから真剣にその協力をしているのだという。つまるところ日々の鍛練すらそのためなのだ。
親友のために日々を尽くす。そんな信じられないことを当たり前にするのがカーターという青年だ。
そんな彼と夜の街を散策している。
基本的に量産品を製造するのが中心だが、量が作れるということは相応の質を有する装備品も作れる技術あってこそだという。
「これなんかすごいよな。他所のハルバードと比べて相当強い」
武器屋の露店で指で斧の刃の部分を叩いてカーターは感嘆の息を漏らす。
「そうなの、金属のことはよくわからないけど、それでも他所の街で買うものより少し高いだけなのね」
「そうだ。きちんとした基礎技術の上に量産技術が成り立っているみたいだ。治安も安定しているし、今朝方には瓦版を子供が読んでいた。基礎教育もできている良い街だな。世界の最先端かもしれない。こんな街は他にはないだろう」
私はそんなカーターを見ながら、少し呆然とした。
数歩先に言ったカーターは私がついてこないことに気づき、戻ってきた。
「どうした?」
「いえ。その、なんだかすごいなって」
「すごい?何がだ?」
私の目の前にいるのは大男と言えるかは微妙だけど普通の男性と比べても体格に恵まれ、まさに戦うことが似合いそうな男なのだ。
「カーターは、どうして剣士なんかやっているの?」
そういえばみんなの来歴をあまり聞いていなかった。フェリナとアレクが出会い、フェリナが神の神託を受けたとかなんとかで魔王を倒すことにして、それにアレクの親友のカーターが着いてきた、これ位のことしか聞いていないのだ。
「悪いか?」
「いえ、そう言うことじゃないの。でもカーターってどこかの国で官僚か何かをやっていてもおかしくないなって、そう思っただけ」
一瞬きょとんとしたカーターだったが、次の瞬間笑い始めた。
「あははは!官僚か!それはいい考えだ!」
ひとしきり笑った彼は続けた
「官僚や騎士を目指していた時期もあったさ。だけどな、もっと大きなものを追いかけてみたいと思っていたんだ。そんな時にアレクがフェリナを連れてきた。そして言ったんだ「一緒に魔王を倒さないか」って」
「俺は衝撃を受けたさ。住んでいた中規模な国の官僚か騎士団を一生懸命目指していた俺とのスケールの違いにな。だから俺もと、そう思ったんだ」
「素敵ね」
「そうかもな」
最近、こうしてカーターと二人で夜歩くことに楽しさを覚え始めている。彼は大柄で一見がさつに見えるのに繊細で、知恵者なのだ。
「さて、今晩は何を飲むのかしら?」
「狙ってたバーがあるんだ。行こうぜ」
「もちろん♪」
そしてお酒好き。
4人の中ではお酒好きの私達。フェリナやアレクは飲むと言えば飲むけどすぐ潰れる。一度フェリナの誕生日を祝うとかの名目で酒場でエンドレスに飲みふけっていたら、生き残ったのは私と彼だったのだ。
だからか、いつの間にか、アレクとフェリナが二人の時間を過ごしている間はこうすることが定番になっていた。
二人でお酒を片手に深夜まで語り合う、この時間がとても大切なものになっていった。
カーターを、将来の夫を、はっきりと意識しだしたのはこの頃だったと思う。




