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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
幕間2 光の迷宮
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第3話 反省会と迷宮の謎

「ジュリナはどう思う?あれ」


 ドーサの街に撤退して宿に泊まった翌日。私達は、特にフェリナが肉体強化魔術と停魔の神聖魔術での合わせ技による疲労が激しいため今日は一日宿で過ごすことにしていた。

 話題に上るのは当然あの迷宮のこと。私とフェリナは相部屋で隣り合うベッドでごろごろしながら話をしている。


「んー、今の疑問点は主に二つ。一つ目、あの光は何なのか。二つ目。あの魔物は何で倒せなかったのか」


「そうね」


 そんなことはみんなわかってる。カーターがさっき伝えてきたが、彼がいろいろ調べたら4層に踏み込み生還したパーティー達もその二つの疑問点を持ち解消できないまま再度足を踏み入れ全滅するか、あるいは攻略を諦めていた。


「何の意味もないっていうことはないと思うの。あの光。フェリナは何も感じなかった?」


 相手の正体を読み解く能力はフェリナが優れている。フェリナが魔素と勝手に呼んでいる魔力とも違う何かを感じ取れるのだ。それは魔物が発している気配のようなものだという。


「あの光に関しては何も感じない。霊体か何かの一種なのかとも思っていたのだけど、思い返せば思い返すほどむしろ霊体というよりも人臭さを感じるわ。あれは魔物じゃない。それは断言できる」


「あの光が、人?」


 フェリナは仰向けに天井を見たまま遠目に透かすように、あの日の記憶を呼び起こしている。


「ええ。そうね、目隠しをされてあの光の前に連れていかれたとして、目の前にいるのは何だって聞かれたら何の迷いもなく人だって答えると思う。もちろん人じゃないでしょうけど」


 大聖女である彼女がそこまで言うのか。でもあれは現実に人じゃない。


「私はああいう魔術は使えないけど、神聖魔術でああいうものは作りだせないの?」


 戦闘に直接役に立つものは私が専門だが、それ以外は多くが神聖魔術の領域だ。傷の治癒と一部の病気や不調については理屈が異なるがそこだけ互いに似たような効果のある魔術を使うことができる。


「それも考えていたのだけど、心当たりがない。あれは神聖魔術じゃないわ」


 フェリナができないものは神聖魔術ではない。そう言い切れる。


「なら何なの、あれは…」


 私も師匠が残した魔術の資料をあらかた頭に叩き込んでいるが、あんな魔術は該当がない。一言一句残らず暗記しているわけではないが、あんな不思議な魔術は一度読んだら忘れないはず。


「まあ、光はいいわ。途中で消えちゃったし。でもあの魔物は何なのよ。反則じゃないあんなの」


 ダメージは確かに通る。腕を飛ばされ、腹部に深手を負った魔物は確かに悲鳴を上げていた。血を吹き出し痛みに体をよじったのだ。だがダメージを負わせても治癒されてしまう。


「魔物に目に見えないヒーラーがいるわけでもなさそうだし、もしそんなのがいたらジュリナの最初の魔術で凍り付いているはずだし」


 私が最初に放った絶対零度は、指定した一帯を強制的に凍り付かせる強烈な魔術だ。私達の視界をごまかしどこかにいたとしても私の魔術からは逃れられない。


「それそれ。おかしいのよ。一瞬確かに凍らせたと思ったの。だけどその後は何事もなかったかのように動いていたから、てっきり氷に対する強い耐性があると思ったの。でもそれならその後火だるまになっても平気で突っ込んでくるの、おかしくない?」


 氷魔術は、水魔術の派生に当たる。つまり火属性の魔術と対極に位置する。

 両極耐性の魔物なんてそんな簡単にいてたまるか。そもそも魔術が効かない相手なのか?特定の属性への耐性というより魔術全体への耐性。その方が説明がつきやすいが、その場合治癒魔術をどこからか受けていたとしたらそれも弾いてしまうはず。

 その上戦闘で私が放つ火球は初級魔術の火球ではないのだ。

 中級魔術の溶岩流を圧縮して球体にして放っているから威力の桁が違う。そんなものにやられたら並大抵の耐性では意味がない。


 その後も二人で仮説を並べていったが、どうもどれも説明がつかない。

 そんなもやもやした気持ちを抱えながら夕方となり、アレクとカーターを交えた夕食で方針を決めることにした。


「アレク、悪いけど私は撤退を提案するわ。時間の無駄よ。多少いい剣買ってあげるからそれで我慢しない?」


 と、フェリナ


「賛成。私も一度見たのにわからないものに関わる利益はないと思う。それにあの魔物は危険すぎるわ」


 という私。

 女性陣は反対。アレクはしょんぼりした顔を隠さない。

 しかしカーターも含めた男性陣は別の意見を持っていた。


「俺はもう一度行ってからでもいいと思うな」


「え、意外」


 カーターのそんな発言に、フェリナは目を丸くした。隣にいたアレクは思わぬ援軍に目を光らせてしょんぼりしていたのが嘘のように嬉しそうにしている。


「だってよ、正体はわからなくても俺は現実にあいつの爪を受けたんだよ。しっかりした重さもあったし。斬ったあいつの腹の感触も確かに現実だ。その時噴き出した血もほら、こうして跡になって残ってる」


 カーターは肩当てに残る黒いシミを指さした。


「だからな、あれは幻じゃない。何かの仕掛けがあるはずなんだ。それを見破れるかどうか、試してみてからでも遅くはないんじゃないのか?」


「カーター、心の友よ」


 仲間を得たアレクは調子に乗っている。お調子者なのがアレクのいいところでもあり悪いところでもあり、それに心が軽くなることもあればイラっとすることもある。


「だけど何度か挑戦してダメなら諦めだからな」


カーターは”心の友”であるアレクに一応釘を刺した。


「わかった。俺達なら大丈夫だ」


満足げに頷くアレクだったが、果たして本当にわかったのだろうか。心配だ。




4 実験


 翌々日、私達は再び迷宮に潜り、比較的安全な短絡通路が開拓されている3層目までを抜け、第4層に入った。 そして第4層の”門”の前に立つ。


「よし、いくぞ」


 前と同じように、横並びで足を踏み入れる。

 実は調べているうちに、二回目の挑戦だとしても前回と同様に光が発生するということを突き止めていたから、今回も前回と全く同じように3つの光が発生したことには驚かなかった。

 右往左往した光は奥へと進みだす。先日私が追撃を断つためにやった岩石の跡はなくなっていたから、情報通りこの迷宮は全員が離脱すれば全てが元通りになる再構築型の迷宮だともわかった。

 攻略しようとした者が撤退すればすべてやり直しになる代物だ。アレク達と行動を共にするようになり最初に挑んだ迷宮がこの手のものだったはず。


 だから同じように進み、同じ最奥の広間で魔物が出現した。

 光は同じように魔物と戦闘を始める。


 ふと、気になったことがあった。とある可能性に思い至ったから、戦っている光と魔物の近くに歩を進める。


「おいジュリナ、何を?」


 間には入らなかった。

 光と魔物が正対するのをすぐ横で見る場所に。


 正対した両者は戦闘を継続するが、私には目もくれない。

 双方で交わされている刃や魔術は本物だ。今光の一つから飛ばされた炎の魔術は並のものじゃない。すごくレベルが高い。いや、私が放つ火魔術と同じ溶岩流を球体にした魔術だ。強烈な熱さに自然と顔が歪んでしまう。私と同じ使い方をするなんて…


 だがやはり両者は私に目もくれない。

 一つの仮説が立った。ただこの仮説を説明するにはこの魔物と戦いながらではだめだ。昨日と同じ展開を辿っているように見える目の前の光と魔物の戦闘はあと十数秒ほどで終わるはず。

 その時に再び現れる魔物は仮説が正しければ絶対に倒せない。

 

 仮説を補強するため、魔物に氷の刃を飛ばした。

 それは魔物に命中したが弾かれ、だが魔物はやはり私など見えていないかのようにまとわりつく光に劣勢となりながら揉みあう。


 ああ、やっぱり。

 周囲を見渡す。あるものが目に留まり、仮説は、一つの確信を得た。


「みんな!」


 3人に声をかけながら走り出す。


「何かわかった気がする!一度撤退しよう!」


 有無を言わせぬため私とフェリナに身体強化魔術をかけた。

 鍛え方が足りない私とフェリナはこれが切れた時に疲労困憊になる例の代物。


「ちょっと!いきなり!」


フェリナは文句を言おうとしたが、こうなると彼女は撤退せざるを得ない。


「ちくしょう!走れ!」


 あと数秒で光が魔物を打ち倒し、さらに数秒後例の魔物が出現し直す。私達に襲い掛かってくるやつだ。

 走り出して5秒も経ったとき、背後から魔物の叫び声が聞こえた。光が魔物を倒したのだ。数秒後、地面が地響きに近い振動を響かせる。奴が追ってきたのだ。


 だが今回は最初から距離が開いている。

 撤退は容易だった。奴は第4層から出た私達を追いかけてはこなかった。


***


その夜。


「で、何が分かったの?」


 ドーサに戻り整体屋を見つけ疲労回復に努めて夕食に集った私達。当然彼らの視線は私に注がれている。


「先ず結論だけど、あの魔物は倒してはいけない」


 そう告げた。きょとんとした3人を見ながら続ける。

 

「正確には、あの魔物を倒す必要がない。みんな、あの光は魔物を足止めしてくれていると理解してほしい。あの光が魔物と戦っている間は私達の攻撃は通らないけど魔物も私達を気にしないから」


「なるほど、それで?」


「あの空間、よく見たら奥の壁に特徴的な部分があったの。模様みたいなものが描いてあった。おそらくそれが何かの仕掛け。何かをすればきっと道が開けると思う。あの光が魔物とやりあっている間が制限時間、その間に何かをする。それがあの迷宮のあの場所でするべきことだと思うの」


 そして続けた。


「そういえばお師匠様が言っていたことを思い出すわ。一つのことに囚われるなって。あの光と魔物の戦いにばかリ目を向けてきていてはいけないと思う。答えはきっと周囲にある」


 なるほどという目をした3人は各々頷く。


 だけどフェリナは同時に不思議そうな顔をしながら


「でもジュリナってお師匠様のこと嫌いじゃなかったっけ?出会った頃散々お師匠様の悪口を聞いていた気がするんだけど」


 と首をかしげる。


 うっ…


「確かにそうだったな」


「口を開けば師匠の悪口、それが最初のジュリナの印象だったなあ。見かけによらず根に持つ方なんだと逆に感心してたが」


 カーターがニヤニヤしながらパーティーの一員になった数年前のことを掘り返してくる。正直勘弁してほしい。


「まあそれはあれよ。究極魔術だか何だか知らないけどすごい魔術を教えてやる!なんて言っておきながらコロリと死んじゃった師匠への恨みつらみ。言ったことをやらずに死ぬ師匠なんて大っ嫌い」


「究極魔術?」


「そう、お師匠様はまだ教えていないことがある!なんて言っていたの。まあ、今から思えば多分うそだけど。だってお師匠様の持ってた本からメモから全部読みつくしたし、他に何かないかってお師匠様と住んでた家の天井裏や壁中や柱に床下地下から全部ほじくり返したんだから」


 そして何もなかった。


「あー、だからお前掘っ立て小屋みたいなのに住んでたのか」


「あれで十分よ。研究スペースだけはきちんとしてたでしょ?雨風は魔術で制御してたし」


「掘っ立て小屋に住む大魔術師。最初は別の人だと思ったな」


「どうでもいいでしょ。話が逸れたから元に戻すけど、遠目から見た壁の一部分、あれはきっと魔力を流すか何かをすれば発動する仕組みよ。多分そういうのフェリナより私の方が慣れてると思うから、私がやる」


「じゃあ俺達はどうすればいい?」


「万が一当てが外れた時に守ってほしいのと、撤退路の確保。仕掛けらしい場所は少し奥にあったから、仮説通り光が魔物と戦っている間が制限時間だとしたら、当てが外れれば安全に撤退する時間はきっとない。そしたら魔物を突破して撤退しなければならなくなる」


「なるほどな。合図は?」


「追加の魔物が出現するか、私がみんなに身体強化をかけた時点で無条件撤退」


「了解」


「よし、じゃあ今晩は休んでまた明日」

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