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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
幕間2 光の迷宮
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第1話 アレクの我儘

 私がフェリナとアレク、そしてカーターの魔王を倒す旅に加わりもう4年。魔王城があるとされる地域までの道のりの過半を終え、滞在していたとある街。

 アレクの思い付きにも近い提案が私達に投げかけられ、その日の夕食を囲む酒場のテーブルはやや紛糾の色合いを強めていた。


「で、剣が欲しいと」


「ああ。ダメか?」


「ダメ」


「この間の貴族様におねだりしてくればよかったじゃない」


 ベルン王国から1か月。私達はドーサという街にいる。

 盆地に流れる川によってもたらされた扇状地に形成されたこの街は太古の昔から鉱業が盛んで、そこで採れた金属鉱石をもとにした装備品の製造・輸出が主要産業なのだという。

 枯れない鉱山とさえ呼ばれる多彩な金属の鉱山を周囲に抱え、広めの盆地に豊かな街並みを形成している。

 ところが、本来この街はもっと豊かで素晴らしい街だったらしい。

 らしいというのは、数百年前とも千年前とも昔に遡る話だが、この街の周囲で採れるとある希少な金属の鉱山が突如として迷宮と化してしまったとのこと。

 そのため、魔物や罠に阻まれ希少な金属の採取をすることができなくなりこの街の勢いは低下。

 当時の君主が聡明でなければこの街はバラバラになって衰退していたであろうというのがこの街の歴史で語られる史実だ。


 その希少金属は精霊銀という。

 精霊銀は硬く、それでいて粘りがあり、加工しやすく、強いという矛盾した要素を抱える最高の金属だ。鉄を扱うのと同等の技術水準で加工できるため素材として扱いやすく、製品としてもそれで作られた武具や道具は並の職人の手をもってしても最高のものになると。

 それほどの素材のため神話に出てくる精霊の加護を受けた金属とさえ言われている。

 この街では世界で唯一安定生産できていたということだから、実は過去の時代に造られた精霊銀製の装備はこの街や周辺国にそれなりの数が点在していた。


 しかしそれらも何らかの理由で少しずつ失われていき、今精霊銀製の装備は各国の王族や名だたる戦士が追い求める幻の装備となっている。


 そんなアレクにカーターが聞き返す。


「で、もう一回聞くが精霊銀の剣が欲しいと?」


「ああ。だめ?」


 とアレク。


「だめ」


 とフェリナ。


「代わりは他にあるでしょ」


 と私。


 さっきしたような会話を繰り返す。

 アレクが使い古した剣ではなく別のものを欲しいということなのだ。確かに、彼の剣は手入れこそ行き届いているものの修繕を繰り返し、限界が来ているように思われた。

 でも剣の状態が悪くなっていたならこの間共に戦った貴族様からいい剣をもらって来ればよかったのにと思う。おねだりすれば名のある剣の一本や二本、喜んで譲ってもらえただろうに。


 だから新しいのが欲しいというのはわかるが、だからといって精霊銀製の剣を所望する必要はないだろう。パーティーのお財布担当のフェリナは座った眼をしながらアレクのお願いを却下し続けている。売りに出されている精霊銀製の剣がないわけではないのだ。ものすごく高いが。

 ちなみに私も反対だ。そんなお金はどこにもない。

 今回のアレクのわがままはこれで棄却だと、アレク以外の3人が思ったところだったがアレクは第二案を用意していた。


「ならこうしよう」


「なに?」


 名案を思い付いたと言わんばかりのアレクは立ち上がった。


「採りに行けばいい」


 何を言っているのかわからなかった。怪訝な顔をしたフェリナが目線を上げて当人の目を見ながら当然の疑問を呈する。


「採りに行く?何を?」


「精霊銀を」


 アレクの返答にフェリナは私やカーターと目を見合わせた後、視線をアレクに戻して再び聞いた。


「どこに?」


「旧精霊銀鉱山の迷宮に」


 笑顔でそんな提案をしてきた彼に、私達3人は頭を抱えた。


「待って、その迷宮、難攻不落って話じゃない」


「そうだぞ。前の完走者って30年以上前って話じゃねえか!」


 アレクの親友であるカーターもさすがに異論を呈さざるを得ない。完走者がこれだけの長い期間出ていないということは、単に魔物が強いというだけでは説明不能な危険極まる要素が必ずあるからだ。


 そんな迷宮があることはこの街、ドーサに来て情報収集を始めてから早々に入ってきた情報だ。奥に精霊銀鉱石を秘めた迷宮があると。しかし少なくない数の者が挑み、精霊銀を持ちだせたのはわずかな者達。直近でも30年以上前だという。

 それから現在まで、多くの者たちが挑み、敗退するか帰還できず命を落としたこともわかっている。


「だから行くんだ。俺達は魔王を倒すんだ。かつて完走者がいる迷宮一つ攻略できなくてどうする?」


「時間と手間暇に危険性を考えなさいよ。ただでさえもわき道にそれすぎなのよ、私達」


 フェリナと言い合っていたアレクはこっちを見ながら


「そのおかげでジュリナと出会えた!そのジュリナのおかげで俺達はここまで来られた!違うか?」


「いや、確かにそうだけどさ、魔術師は当時是非とも仲間にほしいって言ってたし実際そうだったから……」


「その通り!俺は今是非精霊銀の剣が欲しい!だからこの脇道は脇道じゃないんだ!」


 カーターは”まーたはじまったよアレクの屁理屈”といった顔をしているし、フェリナも交際相手の悪いところがまた出たと崩れるようにがっくりと肩を落とした。

 私としてはその辺はどうでもいいのだが、幾度かアレクのわがままな場面には遭遇していてその結果はいつも同じだから、今回もああなるんだなと思いながら眺めていた。


「やるならさっさと済ませましょ」


 そう言ったフェリナはそれはそれは面倒くさそうな顔をしながら顔を上げ、カーターも呆れながら同意した。


「私は二人がいいというなら」


 私は皆についてきている身だから、彼らが行くというなら構わない。


「よし、決まりだな!」


 キラッとした笑顔のアレク。どう処理しているのかわからないが真っ白な歯が光っている。


 うんざりした二人と張り切っている一人と内心そんなお約束展開を楽しんでいる私はそんなやり取りをしながら、難攻不落と噂されている迷宮へと足を踏み入れる事に決定したのだった。


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