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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第5章 闘争と逃走
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第5話 牢獄主

 力が入らない。

 昨晩から繰り返しガタイのいい男が鞭や棒を持ってきて「死なない程度」の拷問を浴びせられ、悲鳴を上げることすら出来なくなった私は、放置されて今に至る。


 何度も頭を打たれ、どこかの骨が折れているかもしれない。

 何せ殴られすぎて感覚があまりないのだ。


 何度も魔術が使えないか試みたが、腕輪にすべてを持っていかれて魔術が使えない。そうなってしまうと私なんかただの少女だ。


「こんなのって、ないよ」


 前世で苦戦したこともあった。相応に打撃を受けたり倒れたりという経験はあるが、こんな一方的に暴行を受けるなんて経験はなかった。

 

 ……そういえば、この状況であの転生術を使ったらどうなるのだろう


 この状況から逃れたいと考えていたら、そんなことが脳裏をよぎった。

 殺される方法は聞いていない。

 斬首か、絞首か、あるいは磔か。魔術で焼かれるかもしれない。


 静かな暗闇の空間の中、声には出さずに唇だけ動かして転生術の詠唱を確認。大丈夫。まだ暗記できてる。

 腕輪があるからできるかどうかはわからないが、助からないならやってみる価値はあるだろう。そもそもあれは通常の魔術ではないのだ。使えるかもしれない。


 でもまだ今はその時じゃない。

 腕輪を外す機会さえつかめれば…


「痛っ……!」


 収まっていた身体中の痛みがぶり返し、その痛みに歯を食いしばりながら機会を待つことにした。


***


 龍の爪の流通元はユーリィムの本家だ。

 

「さすがユーリィム様傘下の商人様だ!その龍の爪はどこから仕入れられたのですか?」


 爪を持っていた商人にそう聞いたのだ。


「兄ちゃん、わかってるな!ユーリィム様が龍殺しをした女から独自に仕入れられたとのことだ!そこでこの街で一番売り上げている俺にご褒美が回ってきたわけさ!」


 まあ、ユーリィムの傘下の連中は大抵ちょろい。ユーリィムを褒められることに無上の喜びを感じるのだ。商人としてそこまで阿漕ではないが、その団体としての性質は宗教団体に近いのだ。


「すごいな!さすがユーリィム様!龍殺しとも接点があるのか!」


「ああ!どうやら東の方から連れて来たらしい」


 レベッカからは東の方から商隊と一緒に来たと聞いている。この国の東はユーリィムのシマ。確定だ。


 そんなわけでレベッカが向かったのがユーリィムのところ、しかも恐らく直接渡しただろうからあの悪趣味な白い邸宅にいるだろう。


 もうすぐ夕刻。周囲の目を盗んで塀を乗り越え、ユーリィムの邸宅に忍び込む。

 俺に絵画処分を依頼した顧客はユーリィムのことを結構調べていた。絵を燃やすときに貰っていた情報の中に、ユーリィムの邸宅の地下に悪趣味な牢獄があることを聞かされていたのだ。

 目立つように陰湿なことはしないやつのことだから外にレベッカを出すとは考えにくい。おそらくこの地下にいるだろう。


 迷宮にいたときにレベッカから預かった剣を片手に、植木の影を縫うようにして邸宅に近づいて行く。ユーリィム本人を殺しに行ってもいいが、目的はレベッカの救出だ。余計なことをしている間に殺されるなんて悪夢は見たくない。

 庭にいた執事のような男を締めあげた結果、レベッカがこの邸宅の地下に囚われていることを知り、押し入る。


 地下への入口は一つしかないと聞いているから、最も近い正面玄関から堂々と。


 両手で大きな扉を目立つように音を立てながら開け放った。


「ん?誰だ!?」


 たまたま歩いていたであろう兵士二人と、地下への入口を守るように立っていた二人が剣と槍を構える。

 

「聞きたいんだが、赤髪の少女が捕まっていないか?」


「知るか!貴様こそ何者だ!名乗れ!」


 ユーリィムの部下たちは優秀だがその多くがユーリィムに心酔していると聞いている。おそらくまともに聞いても答えてくれないだろう。それならば痛い目を見てもらわないといけない。


「悪いな。少々本気でやらせてもらう」


 龍のようなデカブツ相手と、人間相手の本気は少々異なるが、並の兵士には何が起きたかすらわからないだろう。

 ものの数瞬で、玄関近くに詰めていた5人の兵士たちは惨殺死体と化した。

 唯一手加減をした一人の手足の腱を切断し、身動きできないようにしてから締め上げる。

 

「おい、もう一度聞く。赤毛の少女はここにいるのか?それとも殺したのか?答えろ」


「い、いる。地下に」


 だらんと垂れ下がった四肢から地を垂れ流し男はレベッカの居場所を吐いた。


「殺していないだろうな?」


「まだのはずだ……頼む、命だけは」


「そうか、ご苦労さん」


 そいつの心臓をひと突き。この大けがはどうやっても治らないだろう。マトモに動けない置物として生きていくくらいなら楽にしてやった方がこいつの為だ。

 

 血を噴き出し死体と化しつつある男を脇に放り投げ、目の前の階段を下りていった。

 地下階に入る扉はあったが、今のやり取りは聞かれているだろう。


 つまり、下にいるであろう牢獄守は手ぐすねを引いて完全武装で待ち構えている。

 

 その予感は正しく、金属製の扉を蹴り開け地下の空間に足を踏み入れた直後、スキンヘッドの男による恐るべき速度を持った鋭い一閃が振り降ろされた。

 俺はそれを受け止め、弾き返す。それでも男は幾重にも刃を浴びせようとしてくるが、それを無駄に丁寧な動作で弾き返す。


 一連の攻撃を簡単に弾き返されたことに驚愕した男だったが、こいつの顔と名前は知っている。

 ゴッツとかいうユーリィムの部下の中でもトップクラスに腕が立つやつだ。


 だからこそ、容赦などしない。


「悪いが、レベッカを返してもらう」


「やれるものならやってみろ」


 周囲の剣を構えた他の連中も同じ目をしていた。


「あっそ。じゃあ許可済みということで」


 俺は動いた。

 ここにはゴッツだけじゃない。他にも何人かいた。


 やれるならやっていいと言ってくれた相手は気持ちとしても楽だ。そんな彼ら全員を死体にするのに、10秒とかからなかった。

 俺がかつて見てきた中での最強の剣士達と比べたら、それに対抗するべく鍛え続けてきた俺から言わせれば、目の前に横たわる彼らの戦い方は児戯に等しかったからだ。

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