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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第5章 闘争と逃走
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第1話 龍の魔石

 龍を倒したのはいいものの、道中の消費も含めて相当量の魔力を使った私は結構疲れていた。魔力的なものだけではなく肉体的な疲労もある。

 ただ迷宮の主を倒して迷宮の今後について脅威度を低下させたとしても今既にこの迷宮内に発生している魔物がいなくなるわけではないのだ。

 帰り道も相応の戦闘が予想される。


「じゃあ休むか」


「はぁ?」


「疲れてるだろ?休もう」


 ちょっと疲れたわねと呟いたらカイルからそんな提案をされた。


 歩き出したカイルについて行ったそこは龍が出てきた空間。そこはさながら巣穴のような状況になっていた。

 魔物や人間の骨が積み重なり、さながら鳥の巣のような形状をしていた。龍はあそこで寝ていたのだろう。

 すべてが焼かれた跡があったから、魔物として蘇ることはない。


***


 それから数時間。


 そんなすごい量の骸骨が空間の一角を占める中、私とカイルは休息をとっている。

 一人3時間の仮眠。

 私は先に仮眠を取り、今はカイルが横になっている。


 光の魔道具によるぼんやりとした灯りが周囲を包む中、出口から外に目を光らせつつ少しだけ前世のことを思い出す。


 主観的には50年近く前の話になるだろう。それでも、こうして迷宮の奥で休んでいると、振り返ったら彼ら3人がいるような気がする。

 もう彼らと会うことはない。未練があるというわけでもない。私は自ら選んでこうしているんだ。だけど、かつて彼らと旅をして魔王を倒した思い出は常に宝物のような光を放っているし、誇りでもある。


 実際に振り返っても、当然彼らはいない。一人カイルが寝息を立てているだけだ。

 彼と出会ってパーティーを組んでまだ何日も経っていない。先に仮眠をとったのは早いところ彼への評価を定めたかったからだ。

 視界の中には龍の死骸もある。カイルが起きたら解体作業を再開して、持てる限りのものを持って外に向かうことになる。

 

 龍の死骸というものは前世もそうだったし、今でも圧倒的価値があるようだ。

 それを、パーティーの相方が無防備にも寝ているところを襲って殺してしまえば独占できる。龍が相手なのだ。相方が死んだときの言い訳なんか簡単だ。

 だから巨額の富を独占できる。

 その機会を目の前にちらつかせてやった。

 彼がもし強欲なだけの小さい男だったら、私が寝ている間に私を殺そうとしただろう。だけど彼はそんなそぶりは全く見せなかった。


 こんなことは、私が二度目の人生でもなければできない試し方だと思う。

 二度目の人生は、一度きりのものと比べたら、そこまで必死にしがみ付きたくなるものではないと思っているのかもしれない。

 

 でもそのおかげで、私は彼を少なくとも仕事をするということに限れば信用に値する男だと既に看做している。

 この後の金勘定とか細かいところはまだあるけど、大筋として信用していい男だ。そして戦いにおいては背中を預けたり、とどめを任せたりするに値する信頼できる力を持っている。ユーリィムの配下にいた戦士たちにも優秀な者は何人もいたが、カイルの足元にも及ばないだろう。


 それに加えて、仲間としていることに何となく根拠のない安心感もあるのだ。


「しばらくは、カイルと組むか」


 私はこの時、カイルがよければカイルと組み続けることを決めた。彼といれば、大丈夫だと、そう思ったのだ。


---


「倒すより大変ね、この作業」


「ああ。とてもじゃないが時間がかかりすぎるな」


 カイルが起きてから数時間。死骸と化した龍から持ち出せるものを持ち出すべく先ほどから奮闘している。


 鱗や牙、爪、角もそうだ。頭を持ち帰らないといけないから頭についているパーツはそのままだが、それ以外でも持ち帰れるものは持ち帰る。


「あとから人雇って採りに来ましょうか」


「そうだな」


 龍の鱗は硬くて丈夫だ。

 地面を引きずって行っても問題ないだろう。



 結局、依頼達成の要件である龍の頭を火葬して得た頭蓋骨と、爪全部と、鱗数枚。

 これを持ち帰ることにした。頭蓋骨は結構な大きさがあるからカイルはバランスが悪そうに背負いながら持ち帰る。

 そして首を落とした以上この死骸がアンデッドのドラゴンゾンビみたいなものになることはない。だからその巨体を燃やす作業は一時後回しだ。

 

 あともう一つ。

 

「あった、これだ」


 さっきからカイルは龍の死骸の内臓を漁っていたのだが、何かを見つけたカイルは剣を差し入れ何かを切断したかと思うと、少々の血と肉に塗れた輝性を多分に有する手のひらより少し大きなサイズの石を取り出した。


「それは?」


「魔石だ」


「魔石……」


 そういえば魔物の中にそんなものもあったっけ。

 魔物が体内に作り出す魔力のこもった石だ。低ランクの魔物はこれを持たない個体が多いが、龍のような上位の魔物になるとほぼ持っていると言ってもいいだろう。


 前世の頃は、これを求めて龍をはじめとした強い魔物を狩りにいく魔術師もいたほどだ。杖の力は魔術師の力を引き上げてくれる。リスクは大きいがそれ相応のリターンをもたらしてくれていたのだ。

 ちなみに前世の私は師匠からもらった杖で満足していたから魔物狩りなんて面倒なことはしていない。

 そんな魔石を水魔術で洗って荷物にしまい込む。


 魔石も含め、取り急ぎ持てそうな比較的小型軽量のものは持ち去ることとし、直ぐに人を連れて戻ってくることにして、ひとまずこの場を後にした。

 迷宮の帰り道はとにかく魔術を撃ちまくり、荷物持ちで手一杯な中ではあったけど魔物を寄せ付けることはなかった。カイルの両手がふさがっているのだから仕方ない。

 

 ちなみに、食べたことがなかったから龍の肉を少々切り出して持ち出し、迷宮から出た森の中で休憩がてら食べてみた。

 正直、美味しくなかった。


***



 龍殺し。そもそも龍が滅多に出現しないこの地域では龍殺しの称号を得た強者は歴史上数えるほどしかいないらしい。

 その歴史のページに、私とカイルの二人の名前が加わったのだ。


 そのせいか、私のランクは一気にBへ、カイルはAに上がってしまった。パーティーとしては、私とカイルの組み合わせはAランク扱いに。

 これはどういうことかというと、ギルドが過去の記録を調べ上げ、大分昔に龍殺しをした中位ランクパーティーを一挙にAランクに昇格させたというものが見つかったからだ。ランク制度が甘かった時代の話らしい。

 前例主義は好きではないが、龍殺しをしたパーティーのランクが低いのはあんまりだというのと、上位ランクパーティーがいくつも消えてしまった穴埋めが必要だったとのこと。

 だからといって直接的な利益はないから貰えるものは貰っておこう、その程度の気持ちで今Bランクと書かれた冒険者カードを手にしている。

 カイルがAで私がBなのは一応カイルが先任である事を示しながらも同一パーティーを組み続けられるようにという配慮だ。


 それともう一つ、冒険者カードの職業欄。魔法剣士から魔術師に変わった。

 カイルと組み続けるならば剣にこだわる必要はないし、何よりやはり剣は得手じゃない。今できる魔術で何とか戦っていこうという割り切りができた。

 もっとも、何かあった時のために短剣は腰に差しているが。

 同時に、カイルと話し合い、今後当分の間は組むことを決めた。

 彼は頼りになるし、彼も私を頼りに思ってくれる。

 

 そして、筋も通さなければと思った。

 ユーリィムに、お断りの挨拶をしに行こう。この街に無事に来られたのは彼らのおかげだし、道中いろいろなことを教えてくれたことでこの街で不自由なく最初の一歩を踏み出せたのだ。お礼も必要だがそれはもう準備している。

 

 街に帰還した翌日、一度いくつかの中堅冒険者パーティーを雇い迷宮に戻り、龍の死骸から持てそうなものを持てるだけ持ち余った龍の死骸を完全に焼却。

 戻ってきてからそれらの換金処分を行い龍退治は完全に終了。

 ちなみに中堅冒険者パーティーの彼ら、私達が換金処分のために持ち出す分(それでも全体からしたら2割程度だ)を除いて、もれなく鱗は取り放題だったことが彼らを大いに喜ばせたのは言うまでもない。

 龍の鱗で作る防具は価値も高く、それでいて相当高い防御力を持つからだ。彼らは雇われたお金をもらいつつただで防具の最高の素材を入手したと言っても過言ではなく、この街で一番得をしただろう。


 道中帰り道、やはり興味があったのか、私達はもう食べなかったが冒険者の一人が食べたいと言ったので雇った一同に龍の肉を振舞った。

 一同渋い顔をしてもう二度と食べないと宣言したのは当然のことと言えよう。


 そして死骸の整理を終えた翌日。


「じゃあカイル、ちょっと用事があるから今日は出るわね」


「ああ、また明日お昼にここでいいか?」


「いいわよ。じゃあまた」


「ああ」


 お昼まで一緒にいた私達は手を振りあって一度別れ、私は一人ユーリィムの邸宅に足を向けることになった。


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