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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第4章 迷宮探索
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第1話 迷宮へ

 季節はこれから夏に向かうらしい。

 私とカイルは人も使うようになった獣道を進んでいる。時折飛び出している根に足を取られないよう気を付けながら、山間を進んでいく。迷宮までは丸1日の距離だ。大して離れていないから迷宮の入り口付近で夜を明かして翌日の朝に迷宮へと言う話を聞いている。

 

 楽にしていれば気持ちのいい気温と言って差し支えないのだが、山道を進み続けた額には汗が滴り落ちる。


「一応魔物が出る山道なんだが、流石に気配は薄いな」


 そう呟きながら、カイルは真新しい焚火の跡を調べ始める。


「先行パーティのやつ?」


「多分な」


 もう熱は残っていないが、何日も前のものというわけではない。

 もしこの辺りに魔物が出没していたとしても、先行パーティが蹴散らしているはずだ。


「焚火の大きさとか野営の後からみると2パーティはいたみたいだな。一緒に行動しているのか?迷宮では大所帯は必ずしも得とは限らないんだが」


 私達は、ギルドの緊急特別依頼を見て山奥にある迷宮に向かっている。

 

 迷宮というものは、私の感覚では物理的に迷路になっていたりする複雑な構造物に、魔力で生じる罠や仕掛けがあって、多くの場合奥のほうには迷宮守護者と呼ばれる迷宮で最も強い魔物が鎮座している、そういうパターンが多い印象だ。今の時代にどうなのかはわからないが。

 もちろん迷路だけとか、罠がないけど魔物が多い、あるいはその逆。迷宮と言いつつ一本道とか、そして天然の洞窟や森林それ自体が迷宮になっていることもあるが、何かの拍子に突如として迷宮が出現すること、あるいは人が造った建造物が迷宮と化すこともある。

 一番奥の魔物を倒すと、大抵は迷宮の魔力が弱体化し難易度が落ちる。何度も迷宮守護者や内部構造が復活する再構築型という例外もあるが。


 その中で天然の洞窟から派生したこの迷宮は既に最奥まで制覇された実績のある、”枯れた”迷宮らしい。本来迷宮守護者が復活するようないわゆる再構築型の迷宮でもない。

 それでもそこで出現する魔物は地表に出現する魔物とは違い貴重な素材になったりすることもあるため、未だに依頼を受けた冒険者パーティーが踏み込むことが多いそうだ。

 カイルも途中までは潜ったことがあるそうで、その時はとある魔物が稀に保有している魔石を探し求めていたそうだ。


「で、今回その最奥の魔物がいた場所に唐突に新たな迷宮守護者が出現したという話だ」


カイルが自身の伝手を回って情報を集めた結果だ。


「それに伴ってかはわからないが迷宮内部の魔物の構成が一変しあたかも制覇前に”復元”されてしまったかのような状況らしいな。こんな事例はこの迷宮じゃ初めてのことだが面倒なことだ」

 

「放っておけばいいんじゃないの?」


「そうすると迷宮内で溢れたり生存競争に負けた魔物が地上に出てくるからな。間引きは必要なんだ」 


 この迷宮は元気に魔物を湧き出し続けているため、このままいくとこの辺一帯が魔物で手が付けられなくなる。その前に奥地の魔物を倒しておきたい、そういうことらしい。


 そんな経緯だから内部の地図はかなり詳細なものが出回っている。カイル自身も全体地図をしっかりと所有している。

 いくら新しく強力な魔物が出現したとしても迷宮の構造までそう簡単に変わることはないそうだ。

 8層ほどにもなる迷宮の地形が描かれた冊子を手に、足元がいい道ではじっくり目を通し頭に叩き込む。


「先行パーティの中にはこの国で3本の指に入るパーティが含まれているらしい。そいつらがボスを倒したら俺達は落穂ひろいかもな」


「その場合はどうなるの?」


「依頼は俺たちにとってはなかったことになる。まあ魔物の構成が一変したなら新種の魔物の素材は高く売れる。緊急特別依頼だから達成しなくてもマイナス評価は受けないし、損にはならないさ」


「でもそれだと冒険者としての評価が上がらないわね」


「そりゃそうだ。金にはなるが、依頼の消化じゃないからな」


***


 迷宮までの山道があと半分というところまで到達したとき、ついに魔物と遭遇した。


「流石に出るわよね」


「まあな。甘くはないってことだ」


 相手は街への道中何度も見かけたダークベンソンとコボルドが2体ずつ。

 カイルの力を見たい。しかしもし期待外れだった場合には事故があり得る。


 だからまず先制して数を減らすことにした。


「ダークベンソンをまず落とすわね」


「頼む」


 火球を一体に二つずつ。

 距離があるから足の速いダークベンソンから。コボルドは後回しだ。


 ダークベンソンはこちらに突っ込んで来ようとしていたところに火球を連続で受け、どちらもあっという間に焼け死んだ。


 さてコボルドはどうしようか、そう意識をそちらに向けたら、既にカイルがどちらも斬り捨てていた。


「え……?」


 私はダークベンソンを注視していたから気付かなかったが、コボルドには距離があったはず。

 それを一気に詰めたってこと?


「ん、どうかしたか?」


 カイルは何事もなかったかのようにコボルトが着ていた布切れを使って剣についた血をふき取り、鞘に納めているところだった。


「いえ……貴方、速いのね」


「そうか?まあ、ありがとな。だがレベッカもいい魔術の腕じゃないか。きちんと2体に高威力の火球を収束させるのは簡単じゃない」


 まあ、前世でも初級魔術師と中級魔術師の一つの分かれ目が連続魔術の収束だった。だから簡単ではないのは確かかもしれない。


「ふふ、ありがと」


 今回は素直に褒められておこう。


 こういった幾つかの魔物との遭遇を繰り返しながら山道を進み続け、ついに迷宮の入口に到達した。

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