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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第15章 魔王城
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エピローグ 旅の区切りと新たな旅立ち

 その後さらにたっぷり3か月も滞在しただろうか。

 少しは泊りがけで周囲に遠出したりもしたが、この街を拠点として長い期間が過ぎた。宿はお金がかかるからと1件の家を借りて住まいとしていたから夜にニース夫妻を招いたこともある。

 一か所に留まり続けた長さとしては最長だ。

 夏も半ばを過ぎて、早朝なんかには秋の気配が漂いはじめる日がでてきたある日のこと。


「なあ、そろそろ他所に移動しないか?」


 そんなカイルの一言で私たちは動き始めることになったのだ。


「そうだね、魔王城も、街の周りも大体見て回ったし。そろそろ動かないと冬になっちゃうよね。次は東か、西か。せっかくだからこの大陸の端っこも見てみたいね」


「お、いいなそれ。次は西か。実はあたし、東の大陸の南東の端を見たことあるんだ。世界でも二人といないんじゃないかそんなやつ」


「え、いつ?僕も100年くらい前にその南東の端は見てるんだ」


「30年くらい前さ。人もあんまり住んでいなかったし、きっと同じ風景を見られたんだろうな」


「時を超えて同じものを、か。素敵だね」


「ああ!」


 そんないちゃつきを見せる二人を横目に、寂しさを感じていた。

 前世で暮らしていたころの面影はほぼなかったこの街だけど、そうだね、動かないといけないよね。

 少し長居しすぎたのかもしれない。フェリナと前世のように仲良くしていたし、地域の特産は変わっていなかったから好物だったものも何度も食べた。

 でも今はレベッカとして生きているんだ。だから、動くべきだね。


「じゃあそうしましょうか。でも長旅の支度なんてしてなかったし、3日くらいかけて準備して、4日後位をめどに出立できるようにする、それでいいかしら?」


「賛成!冬にもなるしいろいろ買い足さないとな。服はエスタが選んでくれよ」


「もちろんだよ」


「……じゃあカイル、私の服は選んでね」


「ったく、いいぜ」


 最近、少しずつ髪を伸ばしている。あれから髪を切っていない。

 そんな私を見ても、もう彼は渋い顔はしない。

 だからきっと、カイルは私が好きなものを選んでくれる気がしていた。


***


「えっ、旅立っちゃうの?」


 翌日のランチの時間。

 昼食に呼び出したニースにもうじき旅立つと告げた時の彼女の顔は残念そうだった。悲しい顔をさせてしまったのは申し訳なく思う。


「うん。みんないろんなところを見て回りたいんだって。私もみんなに付いていきたいの」


「そっか、寂しくなるわね。あーあ、せっかく子供の顔見てほしいなって思ってたんだけど」


「あれ?ニース?」


 ニースはお腹を擦っていた。あれからおめでたが判明したらしい。


「おめでとう。この大陸から出るかはわからないけど、遠くない将来一度は顔を見せるようにするわ。その時は成長した子供を見せてね」


「ふふ、そうね。でもそっかー。うん、2度目の人生だものね。お互い好きに生きればいいのよね。実は前世の時から少しだけ思ってたんだ。気ままに暮らしていた貴女を、魔王との戦いなんてものに引っ張り出して悪かったって」


「ううん。それには感謝してるの。素敵な人生を与えてもらえたって。そうでもなければあの辺でやることもなくて、張り合いもなくて、不良魔術師としてあの魔女みたいな存在になっていたかもしれないし」


「くすっ、そうだったわね。確か貴女が付いていくって決めたきっかけって、カーターが暇だったら来いよって言ったことだったかしら?」


「そうそう!その一言でなんとなく付いていこうと思ったのよ」

 

「懐かしいわね……貴女の仲間の3人、みんな強そうだし。心配はない……か」


「ええ。私もそこは心配してない。ニースの旦那さんも優しそうないい人だから私も安心して任せておけるわ」


「そうよ。私の男を見る目は確かなんだから」


「アレクだって外ではあんなにチャラかったのに家庭に入ったらいい男だったもんね。外から見ていても驚いたわ」


「でしょ?」


 クスクスと、もはやお互いしか知ることのない人のことで笑いあった。



二日後


「じゃあ、またね」


「ええ、またね」


 サルステット王国の西に向けて旅立った。ここは大陸の北西部。陸地の端を見てから今度は季節の許す限り、北の海沿いを回っていくことにしている。

 正直寂しさもある。

 ただ、私は本当の意味で自由に旅ができるんだ。


 街が見えなくなる街道の曲がりの最後にもう一度振り返ると、ニースがまだ城門にいた。

 遠くなった彼女に大きく手を振り、彼女が同じように手を振ってくれたのを確認してから、小さくまた手を振って、歩き出した。

 もう振り返ってもニースの姿を見る事はできない。子供の顔を見に来るとは言ったから、5年か、10年か、それくらいしたらまたこの街に来るだろう。

 それまで、元気でね。


「なあレベッカ」


「何?」


「俺たちはまずこの大陸の端は見に行くとして、その後どうするんだ?」


「どうしようかしら。ああそうだ、前世の時代にこの国の北のどこかに魔族が拠点にしていた古い神殿があるって聞いたことがあるわ。貴方が倒されて姿を消したっていうから行かなかったけど」


「へえ、神殿か。興味深いね」


「あの文字読めるようになったからそういうの、楽しみだぜ」


 みんなあの古代文字の勉強は大分進んだ。見つかるかわからないけど、古代の魔道具なんかがあればギルも使えてしまうだろう。武器をふるうだけじゃなくてそれもできればギルはもっと強くなれるし危険に備えることもできる。


「それもいいがそういうのじゃなくてな」


「え?」


「大目標みたいなやつだ。俺もレベッカももうないだろ?そういうの」


「ああ、そうね」


「”僕達”は歴史の姿を見たいんだ。そのためにいろんなところを回ってる。そういう大目標があればいいんじゃないのかな?」


 口を挟んできたのはエスタだ。


「もう、二人とも本当に仲良しね」


 私の指摘にクスっと笑い合う長寿の二人。

 私も何か目標を見つけないとね。そうだな…

 

「そうね、じゃあ……」


 視線の先、山の高いほうの木々は色づいている。大陸の端につく頃にはあれが麓まで下りてきて、追いかけるように白い化粧を纏うようになるだろう。

 こうして、私たちの旅は続いていく。魔王を倒すとかそんなものにも、そして自らの由来にも縛られない自由な旅が。


FIN


あとがき


 これにてこのお話は完結となります。最後までお読みいただいた読者の皆様に御礼申し上げます。


 いろいろ謎は残した形になったように思いますが、タイトルはきちんと回収したつもりです。

 その謎の一つ古代文字ですが、大本は魔女です。魔女に師匠のシモンが古代文字を教えてくれと駆け込んだことでその弟子のジュリナに知識が伝わりました。魔女は古代文字を実際に使っていた時代から生きているためですね。


 この先のお話は目次とかおおざっぱな筋道だけ書いていて、最後の結末だけ決めていますが需要があったら書くということにしようと思っています。


 二次創作は書いていた中初めて書いた一次創作小説、書いていて楽しかったです。またどこかで自作をお読みいただけたら嬉しいです。

 重ねまして、ここまで読んでいただきありがとうございました!

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