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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第15章 魔王城
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第6話 私達は転生者

 みんなの息が落ち着いたころには、もう陽も落ちて夜の帳が下り始めていた。

 この場を明るく照らしていた夕日はずいぶん前に去って月が夜を照らし始めている。


 だから光の魔道具を使ってこの場を照らす。暗闇の中で白く結界のような空間が浮いているように見えた。


「さて、どういうことなのかそろそろ話してくれないか。レベッカ、そしてニースって言ったか?なんかお前ら訳知り顔だな。先ずはレベッカ。何か話してくれる予定だったんだろ?」


 広間の真ん中に集まった私達。車座のように円を描いて座りながら、全部話すべき時が来たと思った。

 まずギルが少し不満そうな顔をしながら私を指名。

 まあ、そうだよね。


「みんなに言っていなかったことがあるの。私は、転生者よ。前世があるの。私の前世は700年前に魔王を倒した勇者パーティーの一人よ。その時は……」


ふとニースの方を一瞥して、告げた。


「その時は、ジュリナと名乗っていたわ」


「え!?ジュリナ!?」


 みんなの顔を見渡すと、ギルとエスタは困惑の顔、カイルは何故か渋い顔。でも真っ先に転生の事実に声を上げたのは驚きの顔をしたニースだった。


「きっと貴女は、フェリナ……よね?」


 今までの事実の積み上げでこの可能性に思い至らないほど私は鈍感じゃない。

 この結界の中に入れること、無詠唱で放たれた最上位治癒の神聖魔術。

 詠唱が必要な神聖魔術を例外的に無詠唱で放つことができる術を持つ人物など二人といない。

 そして何より、フェリナは転生術を知っている。


「ええ」


「そう、やっぱり。また会えたわね」


「ええ。無事でいてくれてよかった」


歩み寄って抱きしめ合う。そこにいるのは別の人だけど、間違いなくフェリナなんだ。


「おいおい、だからどういうことだって?」


「えーっと、じゃあイチから説明するわね?」


 ギルは察しは良くないが順序だてて説明してもわからないような子じゃない。だから順序だてて話す。

 私とニースには前世があり、ジュリナやフェリナという名であって、お伽噺として伝わる勇者パーティーの一行だった。その後年老いてからここで見つけた転生術を使って今の世に来た。

 ヴェルドで目が覚めた私はカイルと出会い、旅をしながらここまでやってきたのだ。そしてニースはこの近所で目が覚めて今に至っているという。


 それを話し終えたとき、渋い顔から苦虫を嚙み潰したような顔になったカイルが口を開いた。


「まあ、そうだろうとは思っていたさ。具体的に誰だと察しがついたのは最近だけどな」


「どういうこと?」


「教えてやろうか、俺も転生者だ。そして俺は前世でお前ら二人に会ったことがある」


 ……え?


 アレクもカーターも転生術なんて知る前にこの世を去った。私達と会ったことがある?誰?

 一瞬見たフェリナも、心当たりなしという顔。


「……俺はな、前世では魔王ハルファーと呼ばれていた」


 ニヤリと顔を歪ませながらカイルはそう告げた。


 背筋が凍った。私と、フェリナは戦慄の表情。驚いた顔をしているのがエスタで、それがどうしたのという眉間に皺を寄せた顔をしたのがギル。

 

「嘘……カイルが、魔王?」


 嘘だと思いたい。だけど、これまでのカイルの言動、魔物に対する的確な分析、そしてさっきの魔物の行動を先取りして、私を助けてくれた。さっきの魔物の放った魂食いでも死ななかった。”人の魂”ではなかったのだから。

 否定する要素は、ない。


「そうだ。何なら俺がお前らに倒された時のこと、説明してやろうか?開幕でさっきのアレやられた上に剣士二人に斬りつけられて大変だったぜ。レベ……ああ、ジュリナか。お前は目立たなかったよな。最初だけ電撃かましてきた以外はさっきの身体強化魔術と俺の魔術の相殺に専念してたもんなあ」


 そう、私達は無意味に体力や魔力を使われるのを嫌い、魔王相手でも速攻をかけたのだ。

 魔王と戦闘になった即時フェリナが停魔の神聖魔術をぶつけ、続いて私が上級魔術で攻撃。さすがにいずれも魔王には効きが悪かったがそれでも10秒近く動きを止め、先程のように防御壁を損傷させたことでアレクやカーターが先制攻撃に成功したのだ。

 魔王相手にさすがに一筋縄ではいかなかったからそれで戦闘が終わることはなかったのだが。

 私の魔術はそれまでの魔族との戦いでそこまで有効ではなかったため、魔王相手には何発かさっきの上級雷魔術を使った以外は主にサポート役に徹していたのだ。私の記憶と完全に合致している。


 そんな経過はカルラ名義で出したあの本ではぼかしている。読み物としてもう少しわかりやすいように、事実をゆがめない範囲でもう少し簡潔で派手に勇敢に書かれていたりする。

 だから正確に知っているのは当事者4名と魔王だけ。そして転生術が書かれた本は魔王の持ち物。つまり魔王も転生術を知っていて不思議はない。いや、知らないはずがない。


 どうする?戦う?いや、でもカイルは今……えっと……


 それまでのカイルと過ごした記憶が、魔王と分かった私に戦うのを躊躇させていた。いや、そもそもカイルを魔王として認識することを心の底から拒絶していた。

 フェリナはもはや汗だく。ここでさらに魔王戦は無理だと顔が訴えている。前世の戦いでは彼女は相当無理をしていた。無理に慣れていた上魔王を倒せれば刺し違えて死んでもいいと本気で思っていたあの当時だからこそ戦えていた実態もある。

 おそらくそんな生活をしていない今は無理だろう。


 数瞬の沈黙。それを破ったのは、意外にも彼だった。


「なあレベッカ。俺がお前の髪型とか服のセンスとか、文句つけまくってたのこれでわかったか?」


「……はぁ!?」


 そんな間抜けな話題。そう、カイルは私の髪についてあれこれ理由をつけて「伸ばすな」と言い続けていたし、服のセンスも前世の通り買おうとしたらそれは似合わないからやめろと言われ続けて渋々別の服を買っていたのだ。

 だから、そう言われていたことの理由も今わかった。


「え、なに!?つまり前世であなたを倒した魔術師と同じ髪型とか似たような服が嫌だから私にそんな文句をつけてたわけ!?」


「そうだ。今更分かったか?せめて赤毛じゃなければ伸ばしてもよかったが」


 いつの間にかカイルは普通の22歳の青年らしいニヤケた顔になっていて、魔王の風貌はどこにもない。


「何なのよ一体!それに私達を殺そうとしてたんじゃないの?なんでそんな話をするのよ」


 そんな私にカイルは怪訝な顔をして


「お前こそ何言ってんだ?なんでお前らを殺さないといけないんだよ」


 と、心底わからないように返してきたのだ。

 私はきっとカイルと似たような顔をしたかもしれない。


「だってあんたは魔王なんでしょ?ならそうなるんじゃないの?」


 魔王は人類の敵。人類を滅ぼそうと魔族や魔物を多く従え暴れていた……はず。


「俺は見ての通り人間だぜ?魔王に転生したわけじゃないからな。なんで魔王として振舞わないといけないんだよ」


 フェリナと目を合わせる。魔王は戦う気がない?なんだか、私の魔王に対する認識が崩れていく気がする。


「じゃあ……なに?」


「なにもないだろ。正体ばらす流れだったから俺もそうしただけだぜ?お前らなら正体ばらしてもまあいっかって思ってな」


 困惑しあう私とニース。

 変な空気がしばし漂った。


「だからさあ!お前ら一体何なんだっての!!」


 停滞した時間は妙な空気に嫌気がさしたギルの叫びで打ち破られた。



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