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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第15章 魔王城
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第5話 光の鳳

 もう終わりだと理解するしかなかった。

 大聖女もいない、上位魔術もない。

 そんな状況で勝てるわけがない。

 カイルは死んだ。エスタもギルも、動けない。

 敵が再び作り出した魂食いで貫かれるのを待つばかり。

 そう思っていた矢先。


「……現出し魔を留めよ!」


 耳に入ってきた詠唱の終わりと共に白銀に輝く鳳のような光が突如背後から現れ、瞬時に頭上を駆け抜けたそれが敵に直撃。

 敵は動きを止めた。同時に、そのぼんやりとした掌で作りかけの魂食いも消え去る。


 その神秘ともいえる光景には見覚えがあった。今世じゃない。前世で幾度も見た。

 これは、停魔の神聖魔術!


「相手の動きを止めました!すぐに後退してください!」


 そんな声がかけられると同時にに私達に”無詠唱で”かけられたのは聖女が使う最上位の治癒神聖魔術。優しく暖かな光に包まれるとともにたちまち体中のあらゆるものが治っていく。


 意味が分からずその声の主を捜し振り返ると、街の聖女が。確かニースと言ったはずだ。

 何が起きたか理解した。


「みんな!一度あの子のところまで下がって!」


 私は入口付近へと走り出す。後の3人もそれに続いた。そこにはカイルもいた。


「カイル!生きていてくれたのね!」


 思わず抱き着いてしまった。視界がぼやける。喉の奥が熱くなる。その体温を感じられること、その声を聴けることが、たまらなくうれしい。


「よかった……よかったよぉ」


「あれくらいで死なねえよ。ほら、敵はまだいるぞ」


「ええ、そうね」


 ぽんと彼に促されてこぼれかけた涙をぬぐい、敵に向き直る。


 聖女の上位治癒神聖魔術は体力の消耗も完全に回復される。完全な状態に戻った私達は聖女を中心に陣形を組みなおす。

 同時に、敵が活動を再開し始めた。


「逃げるっていう選択肢はないわよね」


「多分逃げ切れないな。あいつは早い」


「なら、戦うしかないな!」


 その敵は一時活動を止めただけ。そう、停魔の神聖魔術は十数秒強制的に魔の者の動きを止めるだけだからだ。勇者パーティー時代はそれだけで魔王以外のほぼ全部の魔族を問題なく仕留められていたからそれだけでもよかったのだが。


 再び迫りつつある敵を前に何が起きたか詳しい説明を求める暇はない。

 だが、ニースがエスタに放った一言は状況を好転させるに十分だった。


「貴方はエルフですよね?それなら古代魔術、使えますか?この結界の中は古代魔術も含めて”何でもアリ”です!普通の魔術じゃ攻撃が通らなくても古代魔術なら!」


「え?本当に?」


 そんな問いかけに、思わず声が出た。

 反応したのが私であるのに一瞬「え?」という顔をしながらニースはすぐに返答。


「はい!」


 杖を振りかぶる。思う存分の魔力を込めて!


「それなら……行くわよ!ライトニングウェーブ!!!!」


 そして振り下ろす!

 放ったのは最上位電撃魔術。

 氷や水、土と言った実体や温度変化を伴う物理攻撃に近い魔術より、魔族に対して効きが良かった電撃魔術最上位のそれを、全開で叩き込んだ。

 電撃、いや、極太の光線ともいうべきそれは、前世のそれと遜色ない威力で敵の数段構えの防御を食い破り、本体に直撃。


「グオオオオオオオ!!!!」


 雷の滝に焼き尽くされ悲鳴のような咆哮が響く。

 これまで初級魔術を放ってきていただけの相手から突如全開で放たれた最上位魔術に、瞬時に追加で数段構えの魔法防御を展開した相手もさるものだが、私のこれは火力が違う。

 ”並の”上級魔術ではないのだ。

 光線が収束したそこには、ぼろぼろに焼け焦げた姿を晒している敵の姿があった。


「貴女、それは……!?」


 上級魔術を放った私にニースが何か言っているが説明している暇はないと言わんばかりにカイルが動き始める。


「レベッカ!俺とギルに身体強化!ギル!続け!」


 精霊銀の剣を手に突っ込んでいく。


「わかった!」


「おう!でも身体強化ってなんだそれ?」


 言われたギルも続いた。


 あれ?そういえばこっそり使ってたのバレてたの?


 そう思いながらも瞬時に思考を切り替えて遠慮なく前衛の二人に身体強化魔術を使い、ついでに雷属性を二人の剣とハルバードに付与した。この身体強化魔術も今まで使っていたような、ばれないように出力を絞ったものじゃないし、属性付与魔術も初級ではなく上級格の魔力を付与した。

 二人の武器が精霊銀で作られたものじゃなければ耐えられず破裂するだろう。


「よっしゃ行くぞギル!」


「体軽っ!なんだこれ?まあいいか!」


 カイルもギルも相当強い戦士だ。それに対して全開でかけた身体強化魔術は彼らの力をそれこそアレクやカーター並みに引き上げただろう。

 速度と重さ、手数、そして反射神経全てが何乗にも強化された二人は魔物に猛然と襲い掛かり、圧倒した。


「グオオオオ!!」


 個々では相手の方が上手かもしれないが、ギルとカイルは既に年単位で戦いを共にしている。稽古もし合っている。その強化された連携は圧巻だった。

 次々と叩きつけられる剣と斧の刃に対処しきれない魔物は深手を負い続け、その動きは鈍っていく。


 それでも魔族は青黒い闇の力を四方八方に飛ばし二人を背後から攻撃しようとする。

 しかしそれらは、エスタの矢が撃ちぬいた。

 空間の天井や反対側に散らばったそれらもエスタの矢が射かけられていく。


「そういうのは任せておいてよ!」


 ニースがエスタの矢に祝福の神聖魔術を唱えている。

 かつてアレクの剣にフェリナがやっていたような。私の使う付与魔術と同様に、神聖魔術の力をとどめておく困難さから実質的に上級神聖魔術と分類されていたもの。

 聖なる矢は魔物が撃ちだした闇の球を次々と打ち抜き霧散させ、カイルやギルへの攻撃を許さない。


 しかしそれでも魔物は突如発光しだし、強化されたはずの二人と互角以上に渡り合おうとする。幾度か見たことのある、魔族が自らの命を代償に能力を爆上げする魔族にとって禁忌に属する魔術だ。

 再び形勢逆転かと思われたが、ニースからふっと視線が送られた。この子はなにかをする気だ!


「我は光を纏い闇を打ち破る者なり。大いなる加護の下神の威を現出し、魔を留めよ!」


 ニースにより放たれた停魔の神聖魔術による鳳の光が再び直撃。

 魔物は動きを止めた。


「はあああああああ!!!!!ライトニング……ウェーブ!!!!」


 ニースが詠唱を始めようとした瞬間から準備し溜めに溜めていた最上級雷魔術を鳳が直撃するのに間髪入れず叩き込む。これで硬直した敵の防御を完全に破壊し、新たな防御を構築させない。

 これで敵は二人の攻撃に対して完全に無防備だ。


「はあっはあっ。これが最後です!とどめを!」


 滝のような汗を滴らせたニース。


「わかった!うおおおおおおおお!!!!!!」

「があああああああああああああ!!!!!!」


 今度は数秒で再度動き出した魔物だったが、時すでに遅し。二人の刃は魔物を断ち斬った。ギルが薙ぎに敵を上下に分断し、カイルは頭から剣を振り下ろして左右に分断。


 だが、魔物はそれでも再び一つになろうとし、光を放ち始める。


「かの力に清浄を!闇を打ち砕く力を!真の正義を与えん!」


 フェリナはカイルが差していたもう一本の剣に聖属性を付与し、それに気づいたカイルがもう一本の剣を一つになりかけた魔物に突き立て、それがトドメになった。


 それはエスタが矢を討ち尽くしたのとほぼ同時。魔物は断末魔の声を上げ溶けるように消失し、戦いは収束した。


 魔物が完全に消失したのを見届け、5人一同目を見合わせ無事を確認したら、力が抜けた。


 ガランガラン、カラン


 武器や杖が手から滑り落ち、それぞれが石畳に音を立て、私達もその場に倒れ込んでしまった。

 切れた緊張の糸。


「はぁ……はぁ……」


 静寂。


 私達をこうしているのは肉体的なものではなく、精神的な疲労だ。ハルファーに酷似した魔物を倒した。アレクもカーターもフェリナもいなかったのだ。

 半ば絶望して、絶望の通り敗北して、トドメが刺される寸前に助けられた。


 それにしても、上級魔術ってこんなに疲れるものだったかしら。いつ以来?前世最後にここで魔物を倒したときは中級魔術までで事足りていたから、最後に上級魔術を放ったのがいつだかすらわからない。

 ただ爽快感に似た気持ちいい疲労であることも確かだった。


 そしてこの短い間に起きたこと。

 それは私を見つからなかった答えへと連れていってくれる最後の鍵だと確信していた。

 

 皆の息遣いだけが聞こえる中、仰向けに倒れたまま天井を見上げる。

 ああ、あの時もこうしたっけ。


 魔王を倒した時と同じ天井がそこにあった。



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