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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第15章 魔王城
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第4話 玉座にいたモノ

 魔王ハルファーがいたその場所。

 現れた魔物をなぎ倒しながらたどり着いたそこにはかつてあの時、魔王がいた。


 最後の階段を昇ればそこから先は灰色の石畳がまっすぐに伸びて、材質はわからないが戦いでも傷がつかなかった魔王の玉座がある。中央だけやや色が濃いレンガが使われていて、あたかも紺の絨毯を中央に敷いているように見える。かつてアレク達と戦い、そして魔王を倒したあの時のままだ。戦いの跡があちらこちらに見える。

 地下をうろうろしているうちに時間がたっていたらしい。いつのまにか濃い夕日が差し込んでいて、真横から差し込む光が一回り高くなっている玉座とその周辺を照らし出している。


「あれが、魔王の玉座」


 エスタが感嘆の声を漏らす。

 彼にゆっくり見せてあげるのと私の素性を話すこととどちらを先にしよう、なんてふんわり考えながら久しぶりの玉座の間を眺めつつ玉座に向かって進んでいたが、それはギルの警戒心が含まれた警告に中断を余儀なくされた。


「あ……?何かいるぞ」


「え?」


 脇目を振っていた視線を玉座に向けなおし凝視する魔王城の実質最上階のこの大広間。

 正面の最奥に玉座がある。

 玉座に、黒い何かがいる。さっきまではいなかった。突然現れた…?そしてそこに座ることが許されている魔族など一人しかいない。


「まさか、魔王?」


 知らない間に魔王が復活していた可能性にすぐに思い至り、緊張が走る。そして、ぼんやりしたシルエットは、過去アレク達と倒した魔王と酷似している。


「そんなバカな話があるか」


 ここまで静かだったカイルが剣を構える。


「でも見た目は……!」


 その姿は頭や四肢に当たる部分はぼやけていて、表情はうかがい知れず、胴体から頭や四肢に見えるぼやけた何かが生えている異様さ。

 その姿はひどく似ていた。かつて倒したハルファーと。

 ひょっとして、結界内で既に復活していたけど結界のせいで出られなかっただけ…?

 その可能性に気づき、背筋が凍り、杖を向ける。


 剣と杖を構えたカイルと私に続いてエスタとギルも戦闘態勢。

 もしも、本当にこいつが魔王なら…勝てるのか?アレクもカーターもフェリナもいない。私だって初級魔術くらいしか使えない。付与魔術や身体強化はオマケにすぎない。


 ……無理だ。


 逃げよう、そう叫ぼうとしたときには遅かった。

 黒い靄を全身に纏いながら宙を回転するように突進してきた魔物にエスタが反射的に矢を放ち過たず突き刺さるがそんなものなかったかのように私達に襲い掛かり、同時に魔物から発せられた青黒い球体が空間全体に散らばってゆく。


 まずい!これは!


 みんな間一髪突進の攻撃をかわして距離を取れたが私達の体の傍を通過していった青黒い球体は、急速に戻ってきた。ただし戻った先は魔物ではなく私達。


 敵の攻撃を避けたと思ったのだろう。敵に意識を集中していたギルとエスタはそれをもろに背中から食らい地面に叩きつけられる。先に気づく事が出来ていたカイルは避けられた。

 私はこれを知っていたから、ずぅっと背後から意識を切らさずなんとか回避に成功。

 黙っていたってなにも改善しない。

 だから敵に全力で雷属性を付与した氷槍や火球に礫を叩きつけた。乱射したと言っていいだろう。


 だがやつには効かない。避けもしない。

 次々と突き刺さり、あるいは炎を上げ消え去る初級魔術はあまりにも非力だった。情けないほど意味がなかった。

 やつには複数の対魔術防壁がある。その1枚目すら突破できない。


 敵の四肢は先がなくゴーストに近いかもしれないが実体はありそうだ。とにかく人型でハルファーに酷似した魔物が音もなくゆっくりとこちらに近づき始める。


「無理!みんな、逃げよう!」


 属性付与の魔術すら何の意味もなかったのだ。できることは何もない私は戦意を完全に喪失。

 だけど何とか体を起こしたエスタとギルは、とても走れるようには見えなかった。


「レベッカ、カイル、お前たちだけでも逃げろ。……あたしは無理だ」

「僕もだ。二人とも、逃げて……動けない……」


 フェリナの加護をあらかじめ受けずにあの青黒い球弾を受けたらこうなるのか…!

 たった数発を受けただけで動けなくなって絞り出すように枯れた声を出すのがやっとな二人の状態に絶望しながら、何とか二人を引きずっていこうとする。

 

 二人をこんな危険な目に遭わせたのは私のせいだ。私のせいだ!!

 もったいぶらずに話しておけば!最初から正体を明かしていれば!こんなことにはならなかったのに!



「あああああああ!!!!」


 叫びながら二人を何とか連れていくことしかできない。頭の中はぐちゃぐちゃだ。どうしてこんなことに、そればかりが思考を埋め尽くす。


「レベッカ!」


「へ……?」


 突然私に覆いかぶさったカイルと、その刹那の直後に魔物の腕から伸びてきた真っ黒な、さっきまでとははっきり違うとわかる球体。


「あっ……!?」


 それは、前世でベルン王国で見たもの。通称魂食い。人間の魂を即時消すか体から引き離し飛ばしてしまうそれを受けてしまった者は、もはやフェリナですらどうにもならなかった即死攻撃。

 多分さっきまでの青黒い球を四方八方に飛ばすものとは違い細かい動きはできないのだろう。だから、それは敵からまっすぐ私に飛んできた。エスタとギルを引きずろうとしていた無防備で隙だらけな私に。

 避けることもできなかった私を、カイルは庇った。


 そして、直撃を受け、落ちるように倒れた。


「え……、うそ、カイル?」


 カイルは動かない。


「嫌、いやだよ……」


 その姿には、見覚えがあった。

 そう、ハンナだ。前世でレオンを庇って死んだあの老聖女。あの姿が脳裏をよぎり何度も反芻する。カイルは死んだ。フェリナすらどうにもならなかったそれは、私にはどうすることもできない。


 さらにゆっくり近づいてくるその敵は、私にとってはもう魔王そのものだった。私たちは弱い。勇者パーティーじゃない。

 

 何もできない。何をしても意味がない。

 結界は、他者を寄せつけない。

 助けが来ようはずもない。

 助けが来ても、助からない。


 もう、物言わぬカイルの体を抱きしめながら死を待つばかりだった。



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