プロローグ4 神との対面
「フェリナよ、久しいな。貴様に魔王討伐を命じて以来ではないか」
精神世界とでもいうのだろうか。何度体験しても不思議な世界だ。ここでは私は魂か、精神か、いずれかの形で存在している。肉体はない。
「神よ、ご報告を怠った罪については謝罪します。しかし、神のお導きの通り仲間たちと共に魔王を打倒し、その上念のために魔王城を封印いたしました。思し召しには沿うものと心得ております」
神の実体は見えない。いや、見るという行為自体がここでは意味を持たない。そこに神がいる、それだけで十分であり、それ以上は必要がない。
「もちろんだ。我らは貴様の働きに満足している。して、なぜ今になって我々の所に現れたのだ。死を迎えてからでもよかったのではないか?」
「……真相を、知ったためです」
「真相だと?」
「はい。人類が用いるあらゆる魔術の根源について」
「ほう」
「魔術とは元々精霊の持ち物。神はそれらを人類に与え、精霊を封印し、その力を独占したのではないのですか?」
「ほほう、懐かしい話を聞いた。魔王が話しておったのか?いや、魔王の若造は当事者ではなかったはずだが」
「魔王の……いえ、魔神の残した記録を見ました」
「なるほど。そういうものがあったのか。それで、そんなことを今更知ってなんとする」
「私は、無意味な争いを好みません」
「なに?」
「私の幼い頃の記憶は戦争に塗れていました。国同士が争い、宮廷魔術師同士が上級魔術を撃ちあい、多くの兵士や民衆が死んでいきました。今でもそれは続いています。むしろ魔王が滅び、人類が結束して戦う必要がなくなった今、悪化の一途をたどりつつあります」
「人類の都合などどうでもよい。早く本題に入れ。何をしてほしい」
「……なれば申し上げます。人類から初級魔術以外の魔術と無用の魔力の剝奪を」
「ほう」
「人に過ぎたる魔術は、いずれ人を滅ぼします。初級魔術すら使い手によっては相当な威力を発揮するのにこのまま上級魔術が発展すれば、一撃で国すら滅ぼすに足りる威力の魔術が出現しましょう。現に我が友は既にその領域に達しておりました」
「なるほどな。我らも人類には自然に生ずる魔物を倒すに足りる程度の魔術を与えていればよいのではと思っておったところだ。それもいいかもしれぬな」
「それでは……!」
「だが、全人類からそれらを剥奪するとなれば一部世の理を変えねばならぬ。そのためには相応の力が必要だ。貴様はそのための贄となれ。不足は多いが大聖女たる貴様が自ら贄となるならば、我らは協力を惜しまぬだろう」
「元より承知。この”身”を捧げます」
「よくぞ申した。ところで身辺整理とやらはいいのか?もし望むなら後日にしてやっても良いぞ」
「我が子や孫には既にこのことを伝えております。思い残すことは何もありません。今、このまま執り行っていただきたく」
「承知した。では、参るぞ」
「神の思し召しのままに」
私は、自らの”身”を捧げ、人類から中・上級魔術と無用の魔力を剥奪した。
同時に、ストックしていたあの転生術を発動した。
この結末を、見てみたいから。