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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第14章 久しぶり、私
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第8話 休息と多頭龍再び

 ここは第8層。

 真っすぐな通路の横にぽっかりと空いた小部屋で6時間ほど休息することにした。これは私の提案でもある。多分、過去の攻略パーティー全部がここで休息をしているはずだ。

 皆も疲れていたから、賛同してくれた。

 ぶっ続けで攻略を続けながらも前回の攻略パーティーから遅れることはおそらく許されないのだから、ここで休まなければ休む暇がない。

 そう考えれば、最初の攻略パーティーは事前情報も何もないままここまで走り抜けてきたということになる。それに付き合わされる2番目以降のパーティーとしてはもう少し休んでほしかったという気持ちを持っただろう。


 その休息中、くじ引きの結果、今回は最初の見張り順を引き当てた。

 前世のあの時とは違い、4交代制。

 前は2時間ずつ3交代だったから4時間と少しは寝られるだろう。 


 入口の右側に陣取り、壁に背中を預けて腰を下ろす。

 左側には一足先に位置についていた赤い光。前世も同じようにしていたはずだ。


 部屋をのぞき込んで、みんな横になっていることを確認して、呟いた。


「久しぶり、私」


 入り口の左側に陣取る形の赤い光。

 そこにいるのは、魔王を打倒する少し前の私だ。

 後に夫となるカーターをはっきりと意識し始めた頃でもある。


 見張りには出ているけど、この辺には魔物の気配はない。

 多分居眠りしていても大丈夫な程だ。


 もう一度、今度はカイルたちが横になっている場所とは逆側を見る。

 光が三つ。

 カーターと、アレクと、フェリナと。


 主観的には50年ほど前になるのだろうか。

 それでもあの日、体を休めていた彼らの姿が目に浮かぶようだ。

 

 そして予感はするのだが、ここに魔物は来ない。

 師匠が攻略した時もそうだったろうし、前世の時も、そして今にいたっても魔物が襲撃してくる気配はない。いわば安全地帯。


 だから杖は地面に置いたまま、たまに赤い光を横目で見つつ、前世でこの迷宮を踏破したあのときを記憶から呼び起こしている。

 ここまでを皆で走り抜けてきたこと。

 そして最奥にいるあの魔物。


 多くの首を持つ多頭龍。多属性の頭を持つ他では見ないその魔物。


 あれをどう倒すのか、ずっと考えていた。

 先程休む前から、ここで出る迷宮守護者をどう倒すべきなのか、ずっと考えていた。

 しかし、迷宮内の仕掛けのようなあたかも正解に合わせるようなものであればいざ知らず、同じ敵を倒すということについての仕組みについての疑問も生じている。


 もっと言えば、「2パーティーで攻略しなければならないならば最初に攻略したパーティーはどうやったのだ」と言うことだ。

 前世の私達はもちろん、その前の師匠のパーティーもパーティーとしては単独行であり2パーティーで行ったわけじゃない。

 そして今回私達がしていることは師匠のパーティーがしていたことと同じはずだ。


 とはいえ、師匠のパーティーが前世の私達の30年前。その前は記録が正確に残らないほど大昔に遡るらしい。

 どうやったのかを知る術は前世でもなかっただろう。


 だから推測するしかない。

 でも、到底想像できない。神話に出てくるような分身術でもあればわからないが、フェリナの口からすらそんな魔術があるなどと聞いたことはない。


 そもそも大昔は坑道として使われていたここが突然迷宮と化したという歴史が事実ならば、その理由すらわからないのだ。

 精霊銀という希少な金属が出るのだから何か特別な意味があるのかもしれないが、やはりそれを知る術はない。


 この迷宮の奥にいる、迷宮守護者は倒せる相手だ。

 初級魔術しか使えないのは厳しいが、カイルとギルの二人の攻撃ならば通じてくれるだろうし。


「あれ?倒した後って、確か……」 


 ここで気づいた。思い出したのだ。

 もし、無事に最奥の魔物を倒すことができたなら、そうなったならば……



***


 迷宮の最奥。光に続き私達もその空間へと入る。円形の空間で、奥側に通路がありその手前は祭壇のようになっていて、両脇の燭台から青い炎が上がっている。

 光達は入って左側、私達は右側へ。


「さて、今度はどうするのかなっ」


 ギルはこの迷宮に慣れたようで起きることを楽しみにしているようだ。

 それはカイルもエスタも言えることだ。


「なるほど、ここはボスの部屋か」


「そうらしいね。で、レベッカ、ここはどういう……」


 エスタが私にそんなことを聞こうとしたとき、動きがあった。何かの気配を察して足を止める。

 同時に、祭壇の両脇から煌めく青い炎が燃え上がり、祭壇に浮かびあがった大きな影は靄のような姿から徐々にその実体を現し、6つの首を持つ龍の姿を形作った。


「こいつは!?」


 カイルは剣を抜きながら驚きを隠さない。

 それはそうだろう。こんな魔物は滅多にいない。

 カイルと出会った時に遭遇した龍とは全く別の異形の龍。


「ここの守護者よ。この6つの頭からそれぞれ別々の属性のブレスを吐き出すはず。1本は毒の息よ」


「馬鹿な!そんな魔物いるわけが……!」


 カイルも驚きの声を隠せない。


「議論している暇はないわ。来るわよ」


 首の一本から吐き出された強力な火炎のブレスに対して全員分の水壁を構築してこれを防ぐ。

 念のためにと数段構えにしていて正解だった。初級魔術で構築された水壁は1枚目は破られ2枚目も蒸発し、3枚目でようやくブレスを受け止めたのだ。

 反対側では上級魔術で構築された氷壁がたやすくブレスを受け止め、同じ首に対して氷の矢が飛ぶ。

 そうか、光達は中級や上級魔術相当のことがやはりできるのか!

 その事実に歯噛みしながらもないものねだりはできない。


 それにおそらく私はここでは防御に徹するしかない。

 隣の光達に向けたブレス以外のどれが来るかわからないからだ。片手で上級魔術で防御を構築してもう片手で攻撃していたような半端なことを初級魔術でやろうとしたらブレスに食い破られる。


 火炎が収まり、一瞬の静寂。多頭龍にとってはあいさつ代わりの一発と言うところだったのだろう。


 前世でのこの戦いで最初の一発目が双方に対する強力な火炎のブレスであったことは覚えているけど、それ以後はどの順番にブレスが来たかまで覚えていない。だから首を注視し、そのうち一つがこちらを向いて大きく口を開き、水色の光が見えた瞬間、私は全員分の炎の壁を作り出し、前面に展開。

 壁を作るだけでなく、吐き出された水属性のブレスに目いっぱいの火球をぶつけながら、やはり数枚重ねの火炎の壁で何とか相殺。先程よりも分厚く作った。初級格の魔力で作るものとしては最大限度で。

 一方反対側では分厚く硬い氷の壁1枚で炎のブレスを相殺していた。前世の私がしていたこと。上級魔術格の魔力による見た目は似ていても硬度強度が段違いのそれ。 


 そんな強い事が出来ない分丁寧に防御していくしかない。

 もう一度放たれた氷のブレスに目いっぱいの火球をぶつけながら炎の壁を作り出す二段構えで再び何とか相殺。


「みんな!私は防御で手一杯だから攻撃は頼むわ!」


 前世では防御を展開してもまだ攻撃をする余裕があったが今回は無理だろう。防御と援護に徹する!


「おうよ!行くぜ!」


 カイルとギルが私達に氷のブレスを吐き終わった頭に襲い掛かる。

 襲い掛かった二人に対して氷のブレスを吐いた首とは違う首が横から食いかかり、間一髪避けながらも二人は氷の首に迫ろうとする。

  

 私はその口先から前に出ている二人の間を遮るように土壁を出現させて多頭龍をけん制しようとした。しかし多頭龍の首は次々と水と土属性の球状のブレスを連発し、しかも壁の構築は単発の魔術の相殺とは異なり一瞬魔術を投げればそれで終わりでは済まない。

 二つの属性のブレスの連発に私の防御も間に合わず、カイルとギルの二人はなかなか進む事が出来ない。結局二人は最初の場所へと後退を余儀なくされていた。

 だから、こうする。そういえば久しぶりに使うなあこれ。


「フレイムエンチャント!」


 左手で二人の援護をしながら、右手はエスタの方に。

 手持ち無沙汰にしているエスタが背負っている矢にそれとはっきりわかるように風と氷の属性を付与した。


「エスタ!水属性の頭の対処お願い!」


 エスタの顔が明るくなる。


「うん!わかった!」


 仕事ができたエスタは嬉しそうだ。

 エスタのいる場所から多頭龍の口内に矢を放てるタイミングを見計らいながら、放つ!エスタは弓矢二つを同時に構えられるからそれぞれ矢を番えて放てる頃合いを逃さないし、放った矢は外さない。


 私とエスタがそれぞれ首一つのブレスを抑えられているのだから、ブレスを出そうとしていた多頭龍の動きは瞬時の中断を重ねて余儀なくされ、その分カイルとギルは再度前進を果たし、ついにその間合いに捉えた。


「はああああああ!!!」


 二人の刃が首を捉える。しかしカイルの剣は弾かれ、ギルのハルバードは鱗を傷つけたものの、それは鱗の防御に弾かれ効果がない。ギルの怪力でも通じない。やはり二人にも使わないとダメか!


「フレイムエンチャント!」


 二人が標的にしているのは氷を吐き出した首。おそらく首単位で属性を持つはずだ。だからあの首を落とすには炎属性!

 

「助かる!だが近づけねえ!」


 事態の変化を察したのか、もう一つの首が接近を拒否するように滝のように土砂のブレスを吐き出す。

 それは大きめの岩石をも含み、岩石はとっさに構築した水流と水壁を合わせた防御を突破しこちらに飛来。

 私達は防壁を突破してきたそれを避けるしかなかったし、足元に土砂が堆積。

 足元がとられそうになったかと思うと赤い光が発動した魔術でそれらが押し流され、これまで沈黙していた残りの一つ、つまり雷属性の首がブレスを吐こうとした刹那、硬質の砂で敷き詰められその雷属性のブレスは硬質の岩壁により拡散され、地面に到達した電流もそのまま消えた。


 前世の私、やるじゃない!

 

 これで全部の首の属性が判明した!対策が打てる!


 全属性の魔術を形成し弱点に応じた首に叩き込む。それは前世で私がやったことと同じ。

 土属性の首に対しては攻撃する術は持たなかったが、代わりにギルの武器に土の対極属性である風属性を付与。


 これで行けるはず!


「カイルは水を!ギルは土の首を狙って!」


「「了解!!」」


 水の首には火球を叩き込み、土の壁には風属性の攻撃魔法がない代わりに目いっぱい大きく作った氷弾を叩き込み物理的に動きを鈍らせる。


「おらあああああああああ!!!!!」

「だああああああああああ!!!!!」


 二人の刃が水の首と土の首をほぼ同時に斬り落とした。

 一方、光達も炎と風の首、そして雷の首を斬り落とす。


 そのとき、最後に残った一つの首が息を大きく吸った。

 

 毒の息がくる!


 身構えかけたが、前世のこの戦いのことが記憶をよぎり、風と水魔術による防御に向きかけていた行動を、攻撃に切り替えた。 

 相手が毒なら全部の属性が通るはず!

 少し前、ニールセンの王城で使ったような全属性の攻撃魔術を準備する。毒のブレスが終わったらその開いた口が閉じる前に叩き込めるように。


 濁流のような音と共にまき散らされたどす黒い紫色をした猛毒の息。本来それは私達を数秒で絶命させるに足りる恐るべき攻撃のはず。

 だが、それは私達には通じなかった。


 傍らで戦う白い光から発せられた奇跡の光は私達の側にも及んでいたのだ。

 前世でフェリナは共に行動する光達を人だと見做していた。

 それ故に、前世の私達だけではなく光達の方にも用いていた強力な防毒の神聖魔術。


 毒の息は私達と多頭龍の中間あたりで不可視の壁に阻まれるように消失。

 半ば呆然としたように口を開けたまま行動が弛緩した多頭龍に、私と、赤い光から瞬時に魔術が叩きこまれた。


 同時に、光の一つ。あれはアレクだ。

 青い光が龍の頭の傍まで目にもとまらぬ速さで肉薄し、魔術が突き刺さり狼狽したかのように隙をさらけ出したその首を落とす。

 それでもどうやっているのかわからないが頭を失った龍が暴れようとしたところを、カイルが片脚を切断。これは偶然なのだろうか、師匠のパーティーがしていたであろう行動と全く同じ。

 バランスを失った多頭龍はそのまま倒れ動かなくなり、絶命した。

 そしてどくどくと流れ出した血がその横たえた体と同じくらい広がったとき、粒子となって姿を消した。

 

 それは前世でも見た光景。

 こうして、再びこの龍に勝利した。


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