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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第14章 久しぶり、私
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第7話 手の込んだ仕掛け

 左右に分かれた内の右に光が進んだ。だから私たちは左に進む。


 その途中。やはりかつて見た通りの文章があった。


「レベッカ、なんて書いてあるんだ?読めるんだろ?これ」


 カイルも流石に気づいていたようだ。


「だよね。ねえ、僕はこの文字を何度か見たことがあるけど、大分古い遺跡にしかない文字だよ?読めるの?本当に?」


「へえ、これそんなに珍しい字なのか?」


 とギル。


「珍しいどころか多分世界のどこを見ても使える人いないんじゃないかな。少なくともあっちの大陸にはいないよ」


 エスタがギルに説明しているが、私はそれに答える気はない。うまく答えられる言葉を、私は持っていない。だから話すのは中身だけだ。


「えっと……”共に進む仲間を信ぜよ。信ずれば裂かれる道は必ずや一つに合する。一度の別れは永きの別れを意味せず”だって」


「……何が言いたいんだ?」


「要するに私達もあの光も、進むには互いに協力してねってことだと思う」


 前世でもその実際に解釈で問題なかったのだからそうなのだろう。


「大丈夫なのか?」


「まあ大丈夫よ」

 

 私達が進む道は私自身が拓いた。だから大丈夫。問題はこちらの私達が何をすればいいのかということだ。

 とはいえ前世で私達が通過できた結果を踏まえれば想像は付く。


 通路を進んだ奥。円柱状の広い空間の側面に口を開いた部分に出た。

 反対側にぽっかりと口を開けている坑道がある。

 その坑道まで私達を渡してくれるものはない。そして下は真っ暗闇。この下に何があるのかはわからないが、落ちた結果が芳しいものだとは到底思えなかった。

 だって何かが聞こえてくるのだから。おそらく、真下の暗闇の底には魔物が大量に巣くっている。


「行き止まりか」


「ええ」


「あっち側に入り口があるがどうすりゃいいんだ?」


 とてもじゃないけど飛び越えることなどできない距離にある対岸の坑道から頭上に視線を向ける。

 すると反対側の通路まで直線があるとしたらそこに右手から垂直に交わるような角度で突き出した部分がある。あそこに前世の私達がいるはずだ。

 

 先頭にいた私は振り返った。


「みんな、足元は大丈夫?靴ひもは緩んでない?これから走り抜けるから。集中して」


「走れるところなんかねえぞ。どこを走るんだ?」


 カイルがそんな疑問を呈するのも仕方ないことだと思う。だけど、頭上から魔物達の声が響いてきたからもうそろそろだとわかる。


「もうすぐ。多分30秒も待たないで走り出すことになるわ」


 そこまで言いかけて、唐突に空間の真ん中に重低音と共に床が生まれた。


「何だいきなり?」


「来るわよ。みんな、準備して」


 みんなの頷きを確認し、前を向きなおした刹那だった。

 つま先のすぐ先で発生した重低音と共に、目の前に走れば数秒という大きさの床が発生した。


「行くわよ!走って!」


 走り出す。みんなも続く。しかし数秒も走れば床はもうない。だけど走るのをやめない。だってそこには…!


 床がなくなる部分まで数歩の距離に来たとき、その先に床が生まれた。最初に生じた床と続きで広い面が出来たように見えた。

 しかし次の瞬間、最初に生まれた床が消える。円形空間の真ん中が再び空洞になり、通貨が不可能に。

 だから次は左に折れた。


 同じテンポで左側に床が生まれる。そして次は右だ。その時、私達が最初に踏み入れた足場が消える。続いて左に生じた床から右に曲がり再びあと数歩のところで床が生まれる。


「ちっくしょう!なんなんだこれは!」


「遅れないで!遅れたらきっと死ぬわ!」


 そして生まれた床に乗った時には向こう側まで道半ばを過ぎたところ。次は壁まで一直線だ。次々生まれた床を走りながら壁を目指し、壁に到達したら次は右。するとそこはもう入口だ。


 全員が入口に飛び込んで数秒後、最後の床が消滅した。

 もう戻ることはできない。


「はあ、はあ、なんとか、来れたな」


「ああ。ったく、こっちの方が遊技場だぜ。なんだこの命がけの仕掛けは」


 走った距離自体は大したことはない。

 だけどいつ床がなくなるかの恐怖と戦いながら走ってきたから疲労感がすごい。

 そして私は知っている。次は私達の番だと。


 入った通路の先を見ればそこには階段が。


「悪いけど休んでいる暇はきっとないわ。急ぎましょう」


「マジか……」


 カイルが文句を垂れるが息つく間もなく階段を駆け上がる。


 階段は7階分は高さがあった。さっきの空間を沿うように上っていく。さっき短距離走をした足腰でこの高さの階段を上るのは非常に堪えたが、私達も遅れないように働かなければきっと詰みになる。

 登り切った先はさっきの空間がみられる穴が開いた構造になっていて、私達が最初にこの空間に出たところの真上に当たるだろう。そこからは少し見上げるような形で空間に突き出た高い部分が見える。

 そこでは、光達が追い込まれていた。

 魔物がいるのだ。第4層で見た魔物も含めて厄介な連中が。もう突き出した足場の先端近くまで押し込まれていて、もう少し追い込まれたら穴に転落してしまうところだ。


 だからあの光達を救わないといけない。


 だけど私達がやるべきことは簡単だった。

 何かよくわからないが、第4層であったような文章を読めばよかったのだから。

 手を触れながら読む。


『意思を繋げ、果てを見定めるまで』


 短い詠唱を読みあげ掘られた文字が淡い光を放った時、空間に突き出した部分、光達が魔物に追い込まれている場所の背後の空中に通路が出現。

 同時に、今私達がいる空間にも新たな階段が出現して通路が拓けた。

 拓けた先に光達が足早に移動していく。

 停滞していたかのように見えた魔物は一足遅れて追撃をかけるが、渡り終えた光から放たれた爆発系の魔術が足場を粉砕。

 魔物は奈落に堕ちた。


「よっしゃ、次か」


「手の込んだ迷宮だねえ本当に。こんなの初めて見たよ」


「俺もだ」


「それもそうだがまた階段かよ勘弁してくれ!」


 光の移動を見届けた私たちも移動を始める。

 もう彼らも慣れたのだろう。

 そうして3階分ほどの高さを上り、通路を進んだ先は通路が合流するようになっていて、私達がそこに差し掛かると前後して4つの光が合流した。


 互いにそれを確認したのか、一度傍で立ち止まり、歩き出し、光達も進みだす。


 次は第7層。あと2層だ。


***


 第7層は第6層であったものと似ているが、もう少し面白みがある。

 面白みというと語弊があるかもしれないが、長い空間を少し大きめの足場に乗って”浮いて”行くのだ。


 ただその挙動は相互のパーティーがそれぞれ行わなければならない。それぞれが用意された足場に乗ると足場が空中を少し距離を取りながら進み、ある地点まで来たら相互に石板にかかれた古代文字を読まなければならない。

 こちらが読めばあちらが進み、あちらが進んであちらが石板に到達したら私達も進む。あちらがミスをしないのはわかっているからこちらも私がきちんと読めば問題なく進める。


 相互の距離感かなり遠く、今の私では完全に射程外、そんな距離だ。最初が一番きついはずだ。

 狭い足場で先行する光達が古代文字を読んでくれるまでここで耐えなければならない。

 でも今回は一応全員戦える。代わりに援護はないが、手数で何とか!


「みんな、ここでは無理しないで」


「なんで?」


「時間を稼げば大丈夫だから!暫く粘って!」


「粘れって言ってもなあ!」


 次々と飛び掛かってくる有翼の魔物達。

 足場の真下の死角から突然来られると身構える間もそこそこに接近戦となってしまうためここでは途中から私は杖ではなく短剣を使っている。

 杖なんて取り回しの悪いものは使えないし短い間なら杖なしでも全然問題ないからこっちの方が安全だ。


 エスタはまだ遠くから襲ってくる魔物を次々と射落とし、私達はとにかく接近戦が苦手なエスタを守るように目の前の魔物を切って捨て、私は余裕が出来たら魔術で多くをまとめて倒す、これを繰り返した。


 するとふっと足場が浮いた感覚が。


「みんな!足場が動くわ!備えて!」


「「「……!!」」」

 

 みな膝をつき体勢を低くする。

 次の瞬間足場は加速を開始し、光達が乗った足場を完全に追い抜きだいぶ距離が離れたところで止まった。


 所定の場所に到達。もうやることはわかってる。

 壁面に刻まれた石板に書かれている文字を読む。ここの文は短い。


『行くべきは柱なき世』


 すると光達の足場が動き出し、私達が乗っていた足場と同じように私達を追い抜き、大分先で止まった。

 

 遅れて追いついてきた魔物達だったが、魔術で遠くから叩き落している間に足場は動き出し、以後魔物とのまとまった戦闘はなかった。


 次の石板を読む。


『光と闇の均衡を』

 

 この階層でやるべきことは前世と全く同じだ。そして文面も。


『全てを無に帰せ』


 最後の古代文字を読み終えた。最後の移動を終えた足場が終着点に到着する。


 たどり着いたのは、最下層への階段。

 皆が足場から降りたことを確認して歩き出す。


 もうこの時には、光が誰なのかもはっきりしていた。赤が私、青がアレク、緑がカーター、そして白いのがフェリナだ。


 そんな彼らと、そして今の仲間達と共に第8層へ。次が最後だ。


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