第4話 知っている場所
誰も奥までたどり着けていないという話を聞いて勢いで来てしまった。
立ち入り禁止区域への入口は、第3層の途中から施設の通路の横に入っていく構造になっているから扉で区切られ、そこ自体はあたかも劇場や王宮といった場所での、関係者以外立ち入り禁止な裏方への入口のようになっている。
でもその扉を潜った先の通路は武骨な岩や土に囲まれつつも木材で補強が施された構造をしていて、過去ここが坑道であったことを主張している。木材の半ば以上は朽ちかけていて年月の経過を物語っている。
つまり坑道が迷宮と化した、それがこの場所だ。さっきの係員たちもそう説明していた。
さっきの迷宮遊技場ははっきり言って物足りなかったから勢いでこちらに来てしまったのだが、その道を進みながら、ある予感がしている。
いろいろと古くなっているが、この場所には、見覚えがある気がする。
そういえば、あの時に訪れたあの街は、ポートサンセットやニールセン……いや、当時で言うベルン王国からこれくらいの距離だった気がする。
私は、多分ここに来たことがある。
「お、ここから先が次の階層だな」
ギルが通路を少し進んだ先にある通路への入口、そこに天井から釣り下がった鍾乳石のようなものが両脇にあたかも門のような形に並び、そこから下っていく通路を見て楽しそうにそう言った。
強い魔物がいて奥に進めないというその本物の迷宮。
歩を進めれば進めるほど、見覚えなんてものではなく、ここに来たことがあるという確信に変わっていく。
前世でも多くの迷宮に挑んだ。
よく覚えていないものも多い。記憶から完全に消えているものすらあるだろう。
だけど、ここは別格だ。
はっきりと、覚えている。
ここは、あの迷宮だ。
地上の地形や街があまりにも変わりすぎていて気付かなかった。あの鉱業と武具や道具の生産で賑わっていた街がこんなにも変わり果てていたなんて。
「さーて、いっちょ行くか―♬」
ギルが無造作にその門の間に足を踏み入れようとした。
「まって!」
思わず声が出てしまった。
「へ?」
3人の視線が私に集まる。ギルの足が止まる。
「レベッカ、どうした?」
無意識のうちに、ぎゅっと杖を抱きしめていた。
「……いえ、何でもない。行きましょう」
「レベッカ、大丈夫?」
「大丈夫。だけど、そうね……」
3人を見渡し、告げた。
「ここ、きっと他の迷宮とは違うから、気を付けていきましょう」
それだけを。
「何でそう思うんだ?」
そんな疑問をなげかけてきたカイルに言葉を選んで答えた。
「私は……私はここを知っているから。理由は、聞かないで」
「知ってるって、なんで?」
ここには初めて来た。こんな街の存在も知らなかった。それが私達全員の大前提だ。
なんでと言われるのも当然だ。
「聞かないで。お願い。それよりも、多分、最初に光が浮いてくるけど、それは敵じゃないから」
もし伝わっている歴史が正しいなら、神々の闘争とか呼ばれている事件の前の戦争のはずだ。前世の終盤、アレクが死去する少し前。戦争嫌いのフェリナが遠い地の戦争の情報に接して渋い顔をしていたのを覚えている。
前世で私達の前の攻略パーティーは30年以上前。そのパーティーは南大陸最高の魔術師とまで言われた大魔術師シモンを擁していた。
その前は記録が残っていなかったほどもっと遡る。
それほどの迷宮なら、上級魔術がなくなったなら、例え700年あっても攻略できたパーティーはいないはず。古代文字を読めたとしても。
それなら、それならば。




