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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第13章 ニールセン帝国、繰り返されたもの
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第18話 任務完了

 それからしばらくの間、私たちは帝都に滞在していた。

 帝都はこの大陸最大の国家であることを象徴するかのように圧倒的な賑わいを見せており、東大陸の港町マゼルを思い起こさせるほどだ。

 そんな中、レオンに呼ばれてクリスタルブルクを訪れた私達。

 先日とは違い、各方面から戻ってきた諸将や官吏で賑わっている城内は大国の王城の姿を少しながらも取り戻しているように見えた。


 通された気品を持つ一室にはレオンとクリシュナ、そして数名の見知らぬ将軍格と思われる装いの武人や高級官僚と思われる文官が数名。ここは会議室なのだろう。レオンとクリシュナを中央にして円卓に半月のように座り、文官の前の机上には赤色の包みが置かれている。


「皆様、改めて今回の件、ご厚意に感謝します」


 レオンから最初に出てきた言葉は礼だった。


「いや、礼の言葉は先日もらったからいい。それで、用件は?」


「はい、まずはこちらを」


 クリシュナに目配せを受けた文官から机上に置かれていた包みが手渡される。

 一番近くにいたエスタが金属音がするそれを受け取るが受け取った両腕がズシリと下がった。これは少し重そうだ。

 それを見たギルがささっと受け取っていたが、ギルには軽そうだ。エスタをにんまりとした目で見るギルと、ちょっとだけ不本意そうなエスタの対比が面白い。


「これは?」


 ギルに袋を渡したエスタが中身を問う。


「はい、ルーダ金貨500枚になります」


 ……えっ!?


 一同衝撃が走る。

 これはおそらく下手な中堅領主の税収1年分に匹敵するだろう。

 

「この度、我が帝国の存亡の危機をお救い下さった礼となります。まだ不足でしょうか?そうであればさらに用意があるのですが、さすがに物理的に重すぎるのではと思いその額とさせていただきましたが…」


 知らない顔もいるがこの場で最も格が上なのはおそらくクリシュナだ。彼女が申し訳なさそうにしているのだから本当なのだろう。


「なあどうするんだ?あたしからしたらこんな額もらったって使いきれないぞ」


「僕もそう思うな。でもたぶんこの件の一番の功労者はレベッカだからレベッカが決めればいいと思うな」


「え、私?」


「ああそうだな。お前が決めろ」


 3人のみならずこの場の視線全てが私に集まってしまった。うーん、どうしよう。


 そんなときに脳裏をよぎったのはマールでの光景だった。最も苦しんだのはあの人達だし……そうだよね。


「なら、私たちの今後の資金として30枚、有難く頂戴します。残りはお返ししますが使い道をこちらで指定させてください」


 レオンとクリシュナは目を見合わせる。


「ああ、言ってみろ」


「では申し上げます。マール王国の復興資金に。まだ準備があるとのことでしたのでその倍額を」


 少し目を見開いたかに見えたレオンとクリシュナ。

 だがそれは驚きではなく、わが意を得たりという気持ちの表れだったようだ。

 二人は目を合わせ合ってふっと笑いあった後こちらを向いた。


「素晴らしい。ではそうしましょうか。帝国は貴方がたのような存在を得たことが無上の幸運でした。ところでどうでしょう?皆様の武勇と功績なら全員に爵位と領地を与えて召し抱えたいと思うのですが、いかがでしょう?特にレベッカさん、貴女なら宮廷魔術師に今すぐにでも迎え入れたく思いますが」


「嫌です」


 思わず即答してしまった。


「くすっ」


 即答がツボに入ったのかクリシュナが噴き出す。


「ゴホン」


 武官の一人がこちらを睨みつけながら咳払い。


「おっと、これは失礼を。私たちは旅の者にて、そんな高貴な場所は居心地が悪くてかないませんので」


 肩をすくめて見せた。前世の時代も、住んでいたアーベルンと言う国から幾度も宮廷魔術師になってほしいと言われたが断り続けたことが思い出される。


「ふふふ、そうでしょうね。わかりました。ただ、金貨をもう5枚ほど追加しますので一つ依頼を受けていただけませんか?」


 ルーダ金貨5枚。それはSランクの依頼の上澄みくらいの額に相当する高額だ。


「それくらいならいいでしょう。どのような?」


「依頼内容は……」


***


 ニールセン帝都を出て20日。マール王国に入ってさらに5日。

 戦いが終わった街道はいまだに戦いの跡が残るがそれも終わった今は通行に不自由はなく復興への歩みを進め始めていた。


 目的地の村に到着。戦いに取られていた男たちが戻ってきていて活気が満ちていた。

 

「まるで別の場所みたいね」


「ああ、これが本来の姿なんだろうな」


 ウィルヘルムがいるであろう詰所を目指す。

 そこには戻ってきた男達と街道の整備計画を話すウィルヘルムの姿があった。


「ウィルヘルムさんこんにちは」


「ん?おお!お主らか!無事じゃったか!」


「ウィルヘルムさんが俺らに依頼していた件、確かに遂行したぜ。レオンを焚きつけたら動いてくれた。俺らも最後まで付き合わされたけどな」


「おお!そうであったか!ではおぬしらはサルステットに向かうというのにわざわざそれを伝えに来てくれたのか?」


「いやー。何もなくても伝えに来たと思うけどな、あたしたちはクリシュナやレオンから依頼されてきてるんだ」


「ほう!クリシュナとは懐かしい名じゃのう。あのちんまい娘が美女に育ったと聞く」


「はい、これ」


手紙を手渡す。


「これは?」


「クリシュナとレオンからの手紙だ」


「おお、お主らクリシュナとも繋いでくれたのか、やりおるな」


「いえ、レオンさんの判断ですよ」


「レオンもクリシュナも爺さんのことウィル爺さんって呼んで尊敬してたぜ」


「ほほほ、二人には儂が軍学や兵学を教えたからのう、懐かしいわい」


 そう言いながらウィルヘルムさんは手元の手紙を開き、数枚のそれに目を通した。


「……ほうほう、そうか」


「レオンさんたちはなんて?」


「…お主らを送ってくれた礼とできれば直接礼をしたいと書いてあるのう。儂はもうマールの人間じゃというのに」


「そういえばウィルヘルムさんって元々ニールセン帝国の人なんだよね?どうしてマールに来たの?」


「むぅ…そうじゃな。今は亡き妻がマールの出でのう、妻が最期は国でというから付いてきたんじゃ。この戦乱の前に逝ってしもうたがこんなマールを見ることなく最期を迎えられたのは幸福じゃったろう」


「そうだったんですか」


「うむ。儂は帝国の人間じゃがそれ以上に妻を大事に思っておった。だから妻が愛したこの地を守りたかったんじゃよ」


 つまり帝国で高級貴族に教えるほどの立場にいて、しかもかつての王族の係累だという老人がこんなところにいたのは妻への愛だった。

 

 老人の妻がどんな人だったかはわからない。でも、過去を見通しているような目を見て、きっと仲睦まじい夫婦だったのだろうと思えて、私も前世の夫カーターを懐かしく思ったのだった。

 もしお墓が残っていたりしたら必ず行こう。多分、何も変わっていなければ魔王城の手前にあるはずだから。




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