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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第13章 ニールセン帝国、繰り返されたもの
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第13話 困惑の諸将

 帝国軍第12軍、幕閣


「レオン閣下、帝都の参謀総長からの書状の件ですが」


「内容は?」


 先ほど挨拶だけした使者が持ってきた書状だ。

 受け取った書状に対する返答は吟味した上でするとして、こちらから使者を改めて遣わせるから、その旨を先に軍部に伝えるように言い聞かせて書状を持参した使者は先に返している。


「マール王都めがけて進撃せよと。後はマール相手に遅々として進まない軍に陛下が苛立っすているとのお叱りの内容です」


 レオンと呼ばれた金髪の偉丈夫は陣屋に構えた自席で腕組み足組みしながら困惑した顔を隠さない。

 予想通りの内容に、腕を組み天を仰ぐ。


「何なのだこの出兵は。俺も最近知ったんだがウチの陛下は無茶苦茶な要求をマールに突きつけていたらしい。隣のクリシュナが言ってこなかったら騙されていたところだ。どおりで先着していたフェルトやシュタイナーが前に出ていかないわけだと」


 手元には隣の第7軍を率いる幼馴染である女将軍クリシュナから先日届いたばかりの極秘扱いの信書があった。それによれば、当初マールが帝国に身の程知らずにも武力でちょっかいをかけてきたから懲罰を行うという話だったのだ。それが真相は宣戦布告同然の要求を帝国の方からマールに突きつけていたというのだ。

 それはクリシュナの親戚筋のマール貴族が伝えてきたらしい。

 つまり喧嘩を売られたから買ったのではなく、喧嘩を売りつけたのはこちらだという。


「マールの士気の高さも頷ける。そんなくそったれた要求をされたら俺でも武器を取るぞ。それに引き換えどうだウチは。俺ら将軍が何のための出兵なのかもわけがわからん有様だからな」


 おそらく第7軍を挟んで向こう側にいる第8軍のフェルトや第11軍のシュタイナーも同じ気持ちでいるだろう。彼らは個性はあるものの有能な男たちだ。この程度わからないやつらではない。


「閣下、出兵の理由を説明しないにしても限度があります。そもそも、義を第一になさる閣下がこれまで何も説明していないという点で多くの兵たちが異変を察知しつつあり、そろそろ限界が来ております」


 それはレオンとて重々承知しているところだった。

 だから打開策を探る必要があった。


「話をしに隣のクリシュナのところにでも行くか。俺は一軍を率いる立場としては下っ端だからな。何かしようもんならおかしくなった陛下や軍部に睨まれてしまう。クリシュナを巻き込まなければ。あっちは侯爵家だからな。邪険にはされんだろう」


 クリシュナは現皇帝のはとこにあたり、帝国内でも相応の地位を有し将来の宰相候補とすら言われているのだ。帝室の分家同士の婚姻で生まれた濃い皇族の血筋を持ち、皇帝も彼女を無視はできないだろう。


「やむを得ませんか」


 そう二人が行動に移そうとしていた時だった。


「お話し中失礼いたします」


 衛兵の一人が入ってきた。レオンらは衛兵達の仕事について敬意を持っている。したがって、この軍のナンバー1と2が話をしていても、あらかじめ禁止を申し伝えていなければ報告を持ってくることは妨げられない。


「なにか?」

  

 参謀長が問うと、衛兵は困惑した顔で続けた。


「はっ、先ほど陣に不審な女が訪ねて参りました。レオン様に目通りを願っており、追い返そうとしましたがこの手紙をみてくれればわかる、小官に判断権があるのかと強硬に主張するものですから……」


「手紙?」


 参謀長を介して手渡された手紙を開け、目を通すとそこには懐かしい筆跡とかつて兵法を学んだ人物の署名が記されていた。


「閣下、この署名は!」


 その手紙の署名を見たレオンは、隣から目を通していた参謀長と共に久しぶりのいい話題に歓喜した。


「……ウィルヘルムの爺さんか!その女を通せ」


「は?よろしいのですか?」


 すぐれない顔をしていた上官が明るい表情を見せるに至った豹変ぶりに衛兵は怪訝な顔をした。


「かまわん、通せ」


「はっ」


 衛兵は出て行った。参謀長は納得したという顔をしている。


「あの方ですか。私もかつて兵学を学びました。行方不明と聞いていましたがいったいどこにいらっしゃったのでしょう」


「わからん。だが、これは間違いなくあの爺さんのものだ。懐かしいな。ご存命だったか」


 それから数分。読み直した手紙には要するに、儂は動けない故、使いとして送った者たちを儂だと思って話をしてほしい。手紙に変なことを書いたらレオン殿の立場にかかわる故、伝言をよく聞いてほしいと書かれていた。


「客人をお連れしました」


 幕の中に現れたのは、一人の少女。成人はしているだろうが赤毛の女で長物を持っている。これは槍ではなく杖だろう。

 神妙な面持ちをして入ってきたその女はレオンの顔を見て刹那の瞬間だけ表情を変えたが、すぐに元に戻り膝をついて礼を取り口を開いた。


「突然のご無礼、お許しください。私はレベッカと申します。レオン閣下にウィルヘルム様からの使いとして参りました」


「レオンだ。役目大義である。顔を上げよ。さて、手紙を読んだ。確かにこれはあの爺さんのものだ。まずレベッカと言ったな。お前はあの爺さんとどういう関係だ」


 顔を上げたレベッカはキョトンとした顔をしてどう答えたもんかと悩んでいるような顔をしながら答えた。


「どんな関係でもありません。しいて言えば、通りすがりの冒険者であり旅人です。ウィルヘルム様から雇われてここにきております。何分ウィルヘルム様は一つの村を任せられておりますので軽々しく身動きが取れないものですから」


「ほう、村長でもされているのか。静かな生活を望まれていたからな。して、どこの村だ?」


「……マール王国領内東部にある村です」


「マールだと?」


 レオンは思いもよらぬ恩人の現在に驚きと困惑が混じった顔をする。


「つまりお前は敵方からの使者だと?」


「さあ?私は流れ者でして、マールの人間ではありませんので」


 レオンから見て、どうもこれまで出会ったことのある者のいずれとも違う気配を持つこの赤毛の女は、どうも底が知れぬように見えた。




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