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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第13章 ニールセン帝国、繰り返されたもの
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第9話 前世の記憶7 魔術には魔術を

「陛下!」


 やや縦長に広い玉座の間。その玉座には王が座っていて、その両脇に王妃や王太子、そして第二、第三王子と第一王女がいやらしい笑みをたたえながら立ち並び、一際きらびやかな装束を身に纏った王のみが無表情で肘掛けに頬杖をつき足を組みながらこちらを見ている

 玉座へ直線的に赤い絨毯が敷かれていて、式典でもあればその両脇に武官と文官が勢ぞろいするだろう。

 だが、今ここには私達と王族しかいない。本来王達を守るべき親衛隊すらいないのだ。いびつな空間が広がる。


 レオンは玉座にいる彼らを認識し、王の間の赤い絨毯の中ほどまで進み、膝をつき礼をとった。私たちは後ろに続く。


「レオン、よくぞ参った」


「はっ、遅参の儀、平にご容赦くださいませ」


 レオンに続き歩みを進めた空間の中ほど。やや遠めに見た王様の顔は、湿度があるねとりとまとわりつくような笑みをこぼしていた。

 人が絶対にすることができないような、そんな嫌な笑顔。


「よい。ところでその後ろに続く者たちは誰か」


「はっ、この者たちは勇者一行と街の聖女長、そして臣の従者、そして臣の妹にございます」


 王は立ち上がり、数段高くなっている玉座の置かれた段をゆっくりと降りる。王妃らもそれに続く。


「そうか。何故勇者一行がここにおる」


「はっ、我が国の王室に巣くう魔を滅するためにございます」


「なるほどな。しかし思えば迂遠なことをしてしまった」


 王はレオンから20歩ほどの距離まで近づき、止まった。

 

「最初からこうしておればよかったものをのう」


 その両手には火球が。そして王だった姿は消え失せ、黒に紫色が混じったような肌の色をした魔族が現れた。


 それと同時に王妃らも武器を構えながら魔族の姿に変わる。


「死ぬがよい」


 その両手から放たれたのは中級魔術の火炎流。

 何もしなければ私たちは瞬時に黒焦げになり骨すらまともに残らない代物だ。

 だがその炎は距離半ばにして突如として出現した水の壁により全てが目標に到達することもなく消失した。

 

「なにっ!?」


「少しはやるようね」


 立ちはだかったのは私。この魔族は魔術師型だ。ならば私が叩き潰す。


「ぬうっ!」


 次はショックウェーブ。さらにかまいたち。

 等々五系統の中級魔術が次々と放たれるが、私はそれを次々と相殺。


「なんだと?」


 五系統使う魔術師はほとんどいない。ましてやどれも中級クラスともなれば!そんな常識にとらわれていたであろう相手は驚愕の目を隠さない。王の魔族は恐るべき速度で魔術を連射してきた。並の魔術師相手ならそれでよかったのだろう。


「面白いじゃない。いくらでも付き合ってあげるわ。来なさい」


 だが残念なことに相手は私だ。

 さらに放たれた魔術を次々と相殺し、そして杖を向け挑発した。一撃で皆を全滅させるに足りる危険な魔術を全てこちらに向けさせるために。


「小娘が!」


 一方、私と王の魔族が魔術を撃ち合っているその横で、その配下たちとレオン達が剣戟を交え始めていた。

 レオンの従者二人、アレクにカーター。そして城に入ってから付き従う衛兵3人。

 相手も魔族として相当腕が立つようだ。アレクやカーターも優勢に戦いを進めるが瞬時にとどめを刺すまでには至らず、逆に劣勢の従者二人をサポートしながらの戦いを強いられる。

 それは魔物側も同じことで、従者と斬り合う優勢な魔族が劣勢な魔族をサポートし合う。

 フェリナはレオンとハンナ、テレーゼの前に立ち、衛兵と共に王女の魔族とにらみ合いを続けている。一瞬の剣のやりとりで衛兵3人でなんとか王女の魔族と渡り合える程度と分かり、そのような状況でにらみ合いに転じていたのだ。

 組織的に戦える双方の力の差はない。さながら拮抗した戦いが続いた。


 私は王の魔族が次々と放つ魔術を”慎重に”相殺しながらそんな戦況を確認。

 私と王の魔族の戦いは一見すると互角に見えるだろう。しかし私としては大いに余裕がある。しかしバランスが取れてしまった戦いを崩そうとしたらたとえ優位であったとしても、一歩間違うとこちらにも犠牲が出てしまう。

 そして余裕があるのは私に限ったことではないかもしれない。

 目の前にいる王の魔族もそう思っているかもしれないからだ。ここを間違うようなことがあれば瞬時に全滅してしまう。


 だから敵を観察し続けた。特に魔術の形成速度、完成形、両手以外から魔術が撃てるのか、同時に複数の魔術を使えるのか、予測される魔力量等々。


 たっぷり1分もそうしていただろうか。結論は出た。魔力は相応に大きいが、魔術の完全同時行使はできない可能性があり、さらに異系統同時行使はより困難だろうと。それらももしできたとした場合に想定される強さの最悪は……

 その疑問に予測はついた。従者や衛兵に疲労の色が見え始めたとき、動くことにした。


 魔族により放たれた火炎流を相殺した水壁を維持しそのまま数十本の氷槍に転換。右手でその魔力制御をしながら左手で溶岩流を圧縮した火球を形成。


「なんだと?」


 瞬時の間も開けない異系統魔術の同時制御。おそらくこのクラスの魔族ならわかるだろう。私の火球が初級魔術のそれではなく中級魔術溶岩流が無理やり圧縮されているものであることを。

 だからこの魔物なら対策ができるし、対策をする。

 でも氷と炎、異系統魔術への同時対処は簡単ではないはず。これらを同時にすべて放った。


 しかし魔族はそれを相殺するに足りる魔術を瞬時に形成。

 炎には氷、氷には炎の中級魔術。異系統中級魔術の同時行使による相殺。

 魔族の強さは想定の上限に達していた。その制御は極めて的確で、照準が外れることもなくすべてが相殺された……はずだった。


「ぐあっ!?」


 相殺しきったはずの火球の中から光弾が出現し魔族に直撃。

 2系統しか同時に使えないなんて一言も言っていない。溶岩流を圧縮した火球の中には中級雷属性攻撃魔術ショックウェーブをより小さく高密度に圧縮した光弾を忍ばせていたのだ。

 氷では雷弾を相殺できない。同等以上の雷、あるいは頑丈で電流を通さない岩弾を作り出せる土系統魔術が必要だ。


 さっきから対立属性の魔術で相殺し合っていた流れを利用したのだ。同時に、3系統同時行使という隠していた手札を開いたことになる。


「死になさい!」


 魔族との幾度かの戦いで彼らには炎や水の系統より雷が効きやすい傾向があることが分かっていた。だから中級雷魔術をもろに食らって隙をさらけ出した王の魔族に叩き込んだ。最上級雷魔術のライトニングウェーブを。


 杖に全開で込めた魔力は極太の光線を生み出し、それでもとっさに生み出されていた防御壁を苦も無く破砕して王の魔族に直撃。

 光線が収まったときには背後にあった玉座や壁もろとも完全に消し飛んでいた。


 他の魔族はそんな信じられないという光景を目にし逃亡に移ろうとしたがそれによって生じた隙を仲間たちが見逃すはずがなく、全てが5秒も経たずに討たれた。

 

 振り返れば全員無事だ。

 私たちは、勝利した。


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