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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第13章 ニールセン帝国、繰り返されたもの
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第7話 前世の記憶5 秘密通路の結界

 この聖堂の管理をゆだねられている聖女だけが、代々この通路の存在を知らされる。

 外敵が攻め込んできて王城が危機に瀕した時に王族を助けよと。代々口伝で伝えられるものらしい。


 今その立場にあるハンナを先頭に通路を進む。


「止まって」


 フェリナが小声で皆を制した。


「敵か?」


「違う。すぐ先に侵入者を検知する結界がある」


 私にも見えない…いや、目を細めて注意を最大限払うと何かがある気がする。存在を知らされた上で注視しなければ絶対に見逃してしまうほど。私ですらそうなのだ。アレクやカーターを含めほかのみんなは全く認識できていないだろう。ハンナだけは何かしら雰囲気の違いだけは感じたようだが。


「これは気にされないようにするアレじゃダメなの?」


「駄目ね。物質の通過を検知する類のものよ。認知妨害じゃどうにもならない」


「なら気づかれてしまうな」


「いえ、大丈夫」


ー我らは矮小なる者なり。この姿は必ずしも真ならず。近かりしものも遠きものなれば自ずから大なるを拒まん


 フェリナが祈るように手を組み唱えた神聖魔術。何も起きていないように見えるが……


「フェリナ、何をした?」


「行きましょう。30秒以内に向こうの曲がり角まで急いで」


「あん!?」


「説明はあとで。行くわよ。あと25秒」


 フェリナは全力疾走を始めた。それに私たちも続く。足元の悪いハンナさんはカーターが抱えて走る。


「一体何なんだ?」


 全員が無事曲がり角に到達した後アレクがフェリナに聞いた。


「あの走っている間の一時だけ、私たちはネズミになっていたわ」


 ネズミ?


「そう。群れで走るネズミよ。あの結界は質量探知だから、それをごまかした。ネズミの家族が通過したくらいにしか探知されていないはず」


 ハンナさんは呆然とフェリナを見ている。


「貴女は本当に同じ聖女なのですか?貴女は神のように何でもお出来になる」


「……ええ。でもハンナさんも他の聖女にはできないことができるでしょう?最初の魔物探知、貴女はできたはず」


「っ…!」


「よくぞ何もない状況からそんな高みまで上り詰められました。ハンナさんのその向上心に敬意を表します」


「私は……私は、この度のこと、存じておりました…エルザがある日を境に変わり果ててしまったことも、お城に魔の気配が満ちておりますことも。それなのに私は何もせぬまま今まで……あああ……」


 涙ながらにハンナは後悔を語る。


「でも、こうして少しでもお役に立てるのですから誠心誠意務めさせていただきます」


「うん、ハンナ、頼りにしている。ここの構造を知っているのはハンナだけなのだ。ハンナは今このために耐え忍んできたのだ。恥じることはない」


「はい……さ、もう少しでございます」


 ハンナに続いて通路を進む。その先、城の裏庭に出るまで妨害はなかった。



 通路は、裏庭に立ち並ぶ歴代の王の銅像の中で6代前の王の銅像の足元に続いていた。

 カーターがゆっくりと石扉を開ける中、私は杖を向けて出口が包囲されていた場合に備える。もし魔物が囲んでいるなら有無を言わせず魔術で制圧するためだ。


 キシキシキシキシ…


 少しずつ、ゆっくりと開き外の風景が見えてくるがそこには何もいなかった。出口は城から見て反対側を向いているらしい。

 フェリナがふっと何かを口ずさみ、アレクを見て頷く。


「大丈夫そうだ。出よう」


 アレクを先頭に、念には念をと出口から顔を出し周囲を警戒しながら外に出る。

 通常通りの警備であれば裏庭であっても定期的な巡回が行われているはずだ。それに見つかると面倒なことになる。

 先ずは人にさえ見つかってはいけないのだ。


 もう一度出口から左右を見たアレクは静かに城から見た隣の銅像の陰に走りこむ。

 カーターも逆側の銅像の陰に。


 私も出ると、銅像は城側を向いていて、出口は城と逆側。銅像の背中側の足元の土台に出口が口を開けている。

 私はカーターの背中に、フェリナはアレクの背中に回り、レオンとハンナが出たことを確認した後、石造りの城の壁に張付く。レオンと従者やハンナも同様に続いた。

 城の窓はやや高い。

 カーターが壁を背に手を組む。アレクは間髪入れずにその組まれた手を足場に2階の床ほどもある高さの窓枠にとりつき、内部を一瞥。下にいる私たちに目配せした上で中へ。


 十数秒後にカーテンを斬った丈夫な布を何かに固定したのだろうか。これを窓から下げて登れるようにする。

 それに続いて私とフェリナがカーターの足場を使って手を伸ばし、布と上から手を伸ばすアレクの助力を得ながら内部へ侵入。

 アレクがレオン達の侵入支援をしている間にフェリナと私は部屋の外の警戒に移る。

 油をこの部屋の扉の蝶番に塗り少しなじんでからゆっくりと内開きの扉を細い筋のように少しだけ開け、外の様子を伺う。

 一方向しか見えないが、見張りはいない。そして鍵もかかっていなかったからこの部屋は重要な部屋ではないように見える。ここはそれなりの広さはあるが、内部にあるものを見ても整理もそこそこの雑貨ばかり。

 要するにこの一帯は倉庫だ。


「私もこの城には何度も来たことがあるがこの辺は知らないな」


 とのレオンの記憶もあることだから貴族が来るような場所ではないのだろう。


 背後を見ると、最後にはハンナを背負ったカーターが入ってきた。これで全員無事に侵入できたことになる。


「逆に言えばこの一帯は魔族がなり替わっていそうな人はいない?」


「その可能性もあるが油断はできないね。フェリナ、何か感じる?」


フェリナは目を瞑って何かしら呟き、目を開けた。


「大丈夫。付近に悪いものは感じない。だけどもっと先には何かいそう」


「よし、いくぞ」


 私たちは、部屋を静かに出て音もなく滑るように進んでいった。



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