第6話 お返し
翌日。
晴れ渡る空のように、エスタの病気という懸念事項がすっきりした上に、私にとっては前世を知る人と初めて話ができたことで何か開放感のようなものを感じていた。
「本当にありがとう。おかげでずいぶんよくなったよ」
すっかり元気になったエスタが荷物を背負いながら魔女にお礼を告げる。
「いいのよ。でも3日は無理しちゃだめよ。夕方になる前に休みなさい」
薬師としては魔女はきちんとしているのだろう。きちんとしているというと語弊があるのかもしれないが、そこにいた彼女は快癒を喜ぶ医者や聖女と同じ顔をしていたのだから。
「うん。そうするよ」
「なああんた」
「何?」
ギルが恐縮したように前に出た。
「最初は生意気なことを言って申し訳なかった!」
深々と頭を下げた。
「俺もだ。すまなかった」
カイルも。ただし角度は会釈といった程度で少し浅めだ。
魔女は謝罪があるとは思ってもいなかったのだろう。少し驚いた顔をしつつも、やんわりとした表情に戻った。
「いいのよ。大切な仲間がああなっちゃえば気も立っちゃうわ」
「本当にありがとう。じゃあ、僕たちはこれで」
エスタは再度お礼を告げて、別れを告げる。
「ええ。貴方たちならいつでも歓迎よ。遊びにいらっしゃい」
「おう!」
ぞろぞろと3人は出て行った。最後に残ったのは私。私も出よう。
「じゃあ。ありがとう。貴女にできるお礼なんて思いつかないけど、感謝の気持ちは本当よ」
魔女は肩をすくめるように
「もう十分対価はもらってるわ。私こそごめんなさいね。勝手にお話を変えちゃって」
「ならそれでおあいこね」
「そうね」
クスクスと笑いあった。
「じゃあ、これで」
私も軽く頭を下げて出ていこうとした。
「レベッカ」
呼び止められたから振り向く。
「なに?」
「きっと、私なんかに聞きに来なくても貴女が知りたい答えはきっと見つかるわ。頑張りなさい」
「ふふっ、言われなくても」
外に出たら、エスタが街道はあっちの方だとエルフの特性を生かしてもう方向をつかんでいたらしい。
「あっちのほうだ。じゃあいこう」
「ええ」
そうして外で待っていた3人と街道に向けて歩き出した。
「なあ、最後に何話してたんだ?」
ギルが首だけこちらに振り返る。
「え?……あのケーキ美味しかったわってお礼言われちゃった」
「おお!そうだったな!また作ってくれよな!」
「いいわよ。でも手間がかかるからたまにね」
「やったね!」
魔女の家の庭を出て一同数十歩歩いたとき、あの時と同じように背後から魔女の家の気配が消えた。
「あれ?おかしいな」
森の民エスタは異変に気が付いたらしい。振り返って数歩戻って、薬師の家が感じ取れないことに動揺しているように見える。
「どうしたんだ?」
カイルもそんなエスタを不思議に思ったらしい。
「いや、薬師さんの家、どこだっけって思って。森の中なのにわからなくなるなんて初めてで……」
カイルも言われてみればという顔をして後ろを見つめる。
エスタは木々の間を見通すように背伸びをしていたが、戻られたら魔女にとっても厄介だろう。そうだ、たまにはお返しをしてやろう。
「やあねえエスタ。あの女が気になっちゃった?」
まあ正直、魔女の顔はいいと思うからそう言ってやった。何かあるごとにカイルと私がどうのこうのと言ってくれるお返しだ。
「え!?エスタ!それはないよな?」
ギルが慌てだす。ああ、やっぱりそうなのか。
「いやいやいや!そんなことないよ!でもやっぱり気になって」
「ほらエスタいくぞ!夕方までに街道に出る!ほら!」
「はいはい!わかったわかった!」
ギルに手を引っ張られエスタは連行されていった。
勢いよく引っ張っていったギルの勢いにやや置いて行かれた私とカイルは同じことを考えていたらしい。
ニヤリと笑みをこぼしあった後、森の中ではぐれるようなことになれば一大事とやや慌てながら二人の後を追いかけたのだった。




