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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第12章 魔女との邂逅
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第4話 真夜中の対談1

 夜、目を覚ました私は、客間として宛がわれた部屋で皆寝静まっていることを横目に見ながら抜け出して外に出た。

 呼ばれている、そう思ったからだ。

 月明かりに照らされた庭は普通よりも明るく見えて、玄関から20歩ほど歩いた距離にある並んだ切り株の一つに魔女は座っていた。


「ふふ、素直に呼ばれてくれたのね。貴女なら拒めたでしょうに」


 夜の闇に溶けるような黒い髪。それと対照的に月明かりに映える白い肌。頬杖をつくようにしたその口元は笑みを湛えているように見える。


「……拒む理由もないからね」


 つまり起こされたのも、ここに来たのも、この魔女のしたことだ。魔女の言う通り一応、それと気づいたときには抵抗する選択肢もあった。でも一度二人だけで話をしてみたかったから、ちょうどいい。望むところだ。

 隣り合うようにしている切り株に腰かけ向かい合う。


「次に会ったら始末してくれるんですって?」


 魔女が唐突に言った威勢のいい言葉。それは前世の記憶。魔女と別れる際の私の捨て台詞みたいなもの。私自身忘れていたのに……!


「……ああ、そんなことも言ったわね。無理よ無理。負けた人間の遠吠えよ」


 さっそくおちょくられた。まあ、仕方がない。前世のあの頃の私は若かったし、目の前にいるのは人知が及ばない存在なのだから。

 でもそんなのはどうでもいい。くすくすと笑う魔女には色々聞きたいことがある。


「ねえ、あんたは……あんたのままずっと生きてるのね」


 魔女は見た目もほとんど変わらないのだ。あれから700年も経っているのに。


「そうね。ジュリナって言ったかしら?貴女の名前」


 足を組みながら値踏みするような目をして私の奥を見通そうとする。前もそうだったが、この女は何者なのだろう。そして、何を見て私をジュリナだと断定したのだろう。


「ええ。そう呼ばれるのは懐かしいわ。あんたは変わらないわね。あんたも、転生術を使った転生者なの?」


「まさか!あんな下衆い魔術なんて使わないわよ。私はずっと、変わらず、私のまま生きているわ。いろいろあって少しトシが進んだ姿になっているけれど」


 確かに。言われてみれば少女ともいえる姿だった前回と比べ少々大人びて見える。


「転生術を知っているのね」


「ええ、当然じゃない。私が知らない魔術はないわ」


「つまり人じゃないのね」


 魔女は「おや?心外な」といった顔をする。


「あら、これでも人として生を受けたのよ。そしてそのまま変わってないわ。だから私は人間よ、間違いなくね。なんならあんたの彼氏でも寝取って子供でも作って見せてあげようかしら?魅惑の魔術だってあるのよ?」


 魔女はカイルも寝ている家を指さし、くすくすと笑う。


「馬鹿なこと言わないで。それにそんな人間いるわけがないでしょ。あれからだけでも700年経ってるのよ。あとカイルは彼氏じゃないので勘違いなさらぬよう」


「あら、誰もあの男だなんて言ってないじゃない」


「だからカイルとはそういうのじゃないわ。はぁ、知っているかしら?私は前世であの時一緒にいたカーターと結ばれもしたのよ。子供もいたわ。だからもう今は恋も結婚も何もそんな願望はない」


 エスタもそうだが長寿の相手はどうも私とカイルをそういう位置づけにしたがる。困ったものだと思いながらため息をついた。


「くすっ、ごめんごめん。昔は私みたいなのが何人もいたわ。だけどみんな1000年も生きたら飽きたらしくてね。1500年も経った頃には私だけになってしまった」


 笑みの中に浮かぶその目は果てしなく遠くを見ているようだ。おそらくエルフが昔を懐かしむよりも、ずっと前のことだろう。そこにあるのは、かすれ果てた寂しさだ。


「下手なエルフよりも長生きなのね」


「そうね……何百年ぶりかで面白かった御礼に特別に一つだけ教えてあげる」


「なに?」


「貴女が追い求める魔術は失われたわけではないわ。失われたのではなくこの世に存在し得なくなった、そういうこと。何が起きたか察しは付いているけどね」


「意味が分からない。何が起きたの?それを知りたい」


この世に存在し得ないけど失われていない?どういうこと?


「ダメよ。自分で探しなさい。楽をしようとしちゃダメ。そうね、年老いるまで手段を尽くしてもわからなくて、冥途の土産に知りたいって思えたなら聞きに来なさいな。もう50年くらいはこの辺にいてあげる。普段は誰も入って来られないようにしているけど、貴女ならいつでも歓迎よ」


「なんでよ。ケチね」


 魔女は足を逆に組みなおし、一息置いてから続けた。


「魔術に関して私が知らないことはないわ。でも今でいう古代魔術が消えた件については正直なところ、正確なことはわからない。こうだろうと察しを付けただけ。そんな曖昧なものを安易に他人に話すわけがないでしょう?」


「じゃあ私が転生術を使ったことは……関係あるの?まさかこれが原因じゃないわよね?」


「それは違うわ。転生術はただの転生術。こんな副作用みたいなものは存在しないわ。そんな副作用があるなら何度も起きてないとおかしいもの」


「なら、他にも転生している人がいるの?」


「さあ?でも確立した魔術としてあるんだもの。過去に複数人が実行して成功しているからこそじゃないの?」


「言われてみればそうね……」


 よかった。私が原因じゃなかったことが確定した。魔女が本当のことを話しているとは限らないけど、こと魔術の件に関してはこの魔女は信用できると思っている。そして魔女にとっても不必要に嘘をつく理由はないはずだ。


「今度は私が質問する番」


「何?」


「転生術、どこで知ったの?もう滅んだ魔術のはずなんだけど」


「魔王城の書庫に隠されていたわ」


「ああ、あの連中、そんなものを残していたのね。どおりで……」


「なに?」


「いえ、こっちの話よ。それよりも、貴女の話が聞きたいわ。あれからどう過ごしてきたの?薬師としてではなく、魔術師、いえ、魔女として同じ人間に会うなんて滅多にないんですもの。あれからここに至るまでを、聞かせて?」


 それから話をしたのは、前世で魔女と別れてからの冒険の話と、転生術を行使するに至った理由、そして転生したのは別の大陸の山の中で死んだはずのレベッカを乗っ取る形だったこと、カイル達とであったこと、転生してから今まで前世の痕跡を追ってきたことだ。


「どうせ死ぬなら魔術で死にたいって何よそれ!!あははは!おっかしい!」


 と魔女には笑われてしまったが。確かに今から考えたらなんだそれと思わないではないのが悔しかった。カーターを亡くして行先を求めた気持ちの勢いがあればこそだろう。


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