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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第12章 魔女との邂逅
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第3話 お菓子作り

 私達とて、疲れていた。何といっても全員に身体強化魔術をかけたのだ。薬師こと魔女にエスタを預けて、気合いで作った即席のスープを口に流し込んだら全員が倒れるように眠りについてしまった。


 目が覚めたのは翌日太陽が既に上ったときだ。


 それに気づいたギルは今すぐにでもエスタの様子を見に行きたいとそわそわし続け、そんな逸るギルを二人がかりで押さえつけながら太陽が真上まで来るのを待った。


 それから少し経って、足元の影がほぼ丸い形に収まり大きさも最小限になったと思われた。正午だ。


「もういいよな!いくぞ!」


 100歩程の距離を昨日の数分の一の時間で踏破し、ギルはノックもせず扉を開けた。


「あ!こら!いきなり!」


「エスタ!」


 扉を開け中の様子を確認した瞬間、ギルは中に飛んでいった。


 私とカイルも後に続くと、そこにはギルから抱き着かれているエスタの姿が。エスタは椅子に座っていて少し疲れた顔はしていたが顔色はよく、先ほど食べたと思われるスープの残りがまだ傍のテーブルの上に残っている。


「みんな、心配かけちゃったね」


「もういいの?」


「うん。すごく疲れたけど、もう大丈夫だと思う。すごく体が軽いんだ」


 体が軽いというように、もう顔色も良く発熱もないみたいだ。


「そう、よかった」


「しかしよかったな。一時はどうなることかと思ったぞ」


 カイルも安堵の顔。


「あら、気が早いわね。もう来ちゃったの?」


 奥の部屋から魔女が出てきた。


「ああ、太陽が真上に来たらって言っただろ?」


「厳密には今なんだけどねえ。まあいいわ。エスタって言ったわね、貴方、調子はどう?」


「うん。貴女が治してくれたんだね。ありがとう」


「いいわ。これは対価みたいなものだから」


 そういえば治療費はどうなるのだろう。


「ねえ、薬師なら何を払えばいいのかしら?」


「そうねえ、考えておくわ。あと面会も自由だけど、今晩はここにいてもらうわ。今外に出たら疲労ですぐに倒れるわよ。そうなりたくなかったら貴方達もここに泊って行きなさい。とりあえず食事は外から取ってきてね。私の分も」


「もちろんだ!エスタ!何が食べたい?」


 ギルは嬉しさを隠せない。


「うーん、そうだねえ。それじゃあ…」


 エスタが所望したのはなんと甘い果実を用いたケーキ。甘いのが食べたいとのこと。

 聞いたら小麦粉くらいはあるから使っていいとのことだったが、果実の類は切らしているということで、とにかく甘い果実を採りに、私達は森の中を駆け回ることとなった。



***



「いやー、美味しいなあ」


 エスタがさっき作って魔術で冷やしたそれを美味しそうに食べている。

 正直、我ながらよくできたと思う。なんたってカーターや子供達、あるいはたまに遊びに来るアレクとフェリナ夫妻やその子供達に美味しく食べさせるために前世の私が研鑽を積んだものだからだ。お菓子作りは大得意だ。不味いわけがない。


 ギルも食べた瞬間「うまっ!」と言っていたし、カイルも「お?これはいけるぞ?」という顔をしてみんな完食。

 ちなみに魔女は


「なにこれ、美味しいじゃない。対価の一つは決定ね。このレシピを書いて置いておきなさい」


 とのこと。お気に召したようだ。もうレシピを書いたメモは渡している。


 そんなこんなで、食事も終わった頃だ。魔女が口を開いた。


「ところであんたたちは何のために旅をしているの?これはどういう集団?ドワーフとエルフが一緒にいるっていうのも珍しい」


「特に切羽詰まった目的があるわけじゃないが、概ねレベッカが知りたいことがあるんだってさ」


 カイルが私に視線を送る。


「ええ、私は古代魔術が失われた理由を知りたいの」


「古代魔術……」


 魔女は怪訝な顔をする。


「ちなみにお姉さんは古代魔術は知ってる?」


「ええ、知っているわ。700年くらい前に突如この世から消えたっていう強力な魔術のことよね?」


「そうそう。お姉さんは物知りだなあ」


 エスタは自分が病を治してもらった恩もあるのだろうけど、感心したように魔女のことを見ている。私からしたら前世でその古代魔術を撃ち合った相手の知らんぷりに吹き出しそうになっていた。


「そんなことを調べてどうしようっていうの?」


 怪訝な視線が私に向く。


「……わからない。でも古代魔術のことがわかるなら、今ある魔術がどれだけ弱くなってしまったのかわかるでしょう?魔術師の地位も落ちている。聖女だってそう。だから魔術はこんなものじゃないって、そう思っているから。うまく言えないけど、だから知りたい。その理由を」


「へぇ……私は少しは魔術の歴史も知っているつもりだけど、それは当時多くの研究者が生涯をかけて答えを追い求めながら何の成果もなく死んでいったことよ。きっと、その答えは見つからない」


「その話は僕も知っているよ。知り合いの魔術師だってその答えを知り得ぬまま死んでいった」


「そう……だけどそれでもいいわ。わからないなら、それでいい。今は同じくらい、皆と一緒に世界のいろいろなところを見て回りたいと思っているの」


「あははっ、そうだよな。あたしもお前らとの旅、楽しいぜ」


 そう、改めて今の旅を考えると、楽しいのだ。前世と違い魔王を倒すなんて大目標に囚われることなく、勇者と称えられた人物と共にいてそれにふさわしいことをする必要もなく、ただ日々の糧を得ながら世界を回る。

 そんな日々は正直楽しい。だからみんなと共に歩むこともいつの間にか旅の大きな目的になっていたのだ。

 前世で経験した旅なんて全部アレク達と一緒にいたのだから、そうでない旅は今なお新鮮に感じている。


「あら、素敵じゃない」


 笑顔を見せながら呟いた魔女がどこまで本心なのかわからない。

 ただ、魔女から見た今の私は、前世で会った時とは少し違って見えているのだろうなと思ったのだった。



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