第2話 大陸の地図
それからギルドにやってきた。
ギルドに掲げられていたもの。それは大陸の地図だ。
大陸の略図と、そこにどんな国があるかがその範囲と共に記載され主要街道が描かれている。
真っ先に目が行ったのは、前世の居住国アーベルンがあった場所。大陸北西部
しかしそこにはアーベルンの名前はなく、サルステット王国という国があると描かれている。
知っている名前は…ん?ニールセン…帝国?そしてあの位置…
大陸ほぼ中央部。ポートサンセットから1年ほど歩いたところだろうか。
そこに少しだけ知っている名前と同じ名前があった。
かつてあの名は一伯爵領に過ぎなかったはず。
北西から押し寄せる魔王軍と戦っていたニールセン伯爵家が、当時属していたベルンという国が魔族に乗っ取られたことを知り、その魔族を討伐した。
実はその過程で、私達勇者パーティーの関与があった。
カーターとまとめた書物の中では旧ベルン王家の名誉のこともあり多少なりともぼかしたりしているが、ベルン王国の王家はすでに魔族に乗っ取られており、これを退治したのがレオン・ニールセン伯爵と私達だった。
その後ニールセン家は全ての貴族をまとめて改めて統一王国を作り、王朝として始まったのだ。
おそらくニールセンはその流れをくむ国なのだろう。今や大陸最大の国になっている。
あとは、あの当時最も規模も大きく魔王軍に対して人類の一つの中心として反抗を続けていた大陸東部のモンバートル帝国は既に存在せず、その領土は細分化されてバラバラになっている。
前世の時代、魔王軍に蹂躙されていた西部諸国は大小の国が林立しているように見えた。あの分だとこの略図では省略されてしまっている国々も多いに違いない。
「あの頃の痕跡は少しだけか」
わかってはいたことだけど、関わったそれらの多くが無くなっているのは少しだけ寂しかった。
***
その夜。宿を取り寝床を確保した上でそんな地図を見られる位置にあるテーブルにお酒を片手に集まっていた。
「で、これからどう動くんだ?せっかくこんなところまで来たんだからいろんなところを見て回りたいぜ!」
「僕も!ところで地図の端……えーっと、サルステットっていうところまで行くのにどれくらいかかるんだろう」
「さっき聞いてきたが、急いでまっすぐ行っても2年近くはかかるそうだ」
確かに。1年ほどかかるニールセンからアーベルンまでは半年ちょっとだった気がする。道草を食いながらだと下手をすれば3年かかるだろう。
「うわー。やっぱり広いなあ。知ってるかい?この世界には大きな大陸が3つある。そのうち最大のものがこの大陸なんだってさ」
「そうなんだ。そういえばエスタはこっちには来たことなかったのよね。知識としては知ってたの?」
「そりゃ知ってるよ。世界中を旅したエルフだっていたし、彼らの土産話は里に行けば多く聞けるよ。皆からしたら大分古いものも含まれているけど」
「あたしはせっかくだからいけるところまで行ってみたいぜ。また元居たところに戻るのにもカネがかかるだろ?そんな出費をするくらいならいけるところまで行きたいぜ。もちろん寿命の短いカイルとレベッカに任せるけどな」
「あはは、そうだね。僕とギルは100年旅をしても問題ないけど二人はそうはいかないからね。二人で決めていいよ」
今後の方針を二人に振られた私とカイル。
「俺もいけるところまで行ってみたいな」
カイルは即答だった。私もそうしない理由はない。
「私もよ。じゃあ基本的にはサルステットまで道草を食いながら旅をするってことでいいかしら?」
「おう!やったぜ」
目的はあるにはあるが、どこに行けばいいというものがわからない旅路だ。私の大目標は答えがあるのかすらわからない。
ただそれでも、一度歩いた道をもう一度歩くのも悪くないんじゃないかなと、そう思った。




