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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第10章 手掛かり 西へ そして渡海
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第4話 手掛かりは脳裏に焼き付いていて

 報酬をもらった翌日。迷宮最深部での戦いでハルバードの刃の片方が破損してしまったギルのため、これを直す鍛冶屋を捜して街を歩く。

 報酬はAランクらしく結構な金額だったため新しいものを買うことを提案したが、武器屋を見て回った結果今あるものの方が手にしっくりきていたということで、これを直せる鍛冶屋を探している。


「斧サイズの大型のものだと、できる鍛冶屋は限られるよなあ」


「包丁とかナイフとか、そういうのなら何軒かあったけどね」


「剣はいいが斧の類はダメとかそういうところもあったが……」


「できるだけ大きなところ…」


 そんなことをぼやき合いながら街を歩くと、一軒の武器職人の話を聞いた。腕が良くあらゆる武器を作ってくれるという。

 当然お値段もするということだが今の私達にはちょっとくらい問題ない。

 簡単に壊れないいいものを作ってくれればそれが結果的に安上がりになる。


 そんなわけでたどり着いたのは街はずれの山の麓にあるとある鍛冶屋。鍛冶屋というより工場という印象を受ける。多くの人たちが働いていて規模も大きい。

 武器を直してほしいという要望をもとに鍛冶師のところに向かった。


「へー、鉄だけじゃないのね」


 錫や銅といった多彩な金属の製品がそこかしこに並んでいる。いずれも売り物や納品待ちのものらしい。


「ああ、儂らの腕は鉄だけに収まらんからな。その辺にある金属なら何でも素材にできる」


「じゃあこのハルバード、直せるか?できれば強くしてほしい」


 ギルがテーブルに斧を置いた。


「ほう、どれどれ」


 鍛冶屋の親父は置かれた斧を眺めつつ、破断した刃の部分の断面をじっと見つめる。


「ほう、この斧、刃の部分は後付けか、直したものじゃな」


「そうなのか?」


「うむ。全鋼製にもかかわらず一体化しておらん。強度が上がろうはずもない。これは刃の部分を元から全部作り直さなければならんなあ」


***


 カイルとギルが鍛冶屋の親父と話をしている中、武器に対してさしたる興味がないエスタと私は親父さんに許しを得た上で鍛冶屋の施設を見て回っている。

 エスタは展示してあったこの鍛冶屋の歴史に関する資料を読み耽っていて、私は真っ赤な火が入っていて職人達が汗をかきながら火や材料の管理を続けている炉の建屋を覗いて歩く。

 そして目に入ったのは、雑金属とでもいうのだろうか。金属類が雑然と積まれている空樽が並ぶ隣の倉庫。

 どれも作業効率のためだろう、扉はなく外からでもよく見えたし気軽に入ることができる。

 作業の邪魔はしちゃいけないと思い倉庫にあるものを見て回っていると、そこで目に入ったのが空樽に積まれた雑多な金属の山だ。


「これってどうするの?」


 付近にいた弟子の人に聞いてみたが


「これは後から分類したり溶かしたりして素材にするんですよ」


 とのことだ。


「素材に?どうやって?溶かしたら混ざってしまわないかしら?」


「金属って溶ける温度が違うんですよ。例えば銅と鉄は銅の方が低い温度で溶け始めます。だから銅と鉄がまざったものを溶かしても温度さえきちんと管理できたら銅だけ溶かすことができるので金属を分離できます」


「ああ、そういえばそうだったわね」


「だからそこにある金属類、ある程度分かる大きめのものは目視と手作業で分類しちゃいますけど、まとまった量がある金属は後から溶かして製錬して純粋な素材にしちゃいますね」


「へー、すごいわね」


 そう感嘆の声を漏らしながら、細かい金属が腰くらいの高さまで積みあがるいくつもの山に視線を流し、次に視線を移そうとしたとき、ふと何かに気が付いて視線を戻した。


「……?」


 自分でも何に気が付いたのかわからない。

 ただ、その細かい金属の山に何かを見つけた気がしたのだ。

 近づいてよく見てみる。

 そこにあった一枚の私の親指の先より少し大きいコインらしき金属片。


 半分だけ顔を出していたそれを、山を崩さないように慎重に引き抜いて手に取った。


 錆が茶色くこびりつき、満月の前後の時期のように一部が欠けたコインだ。

 だが、このコインには見覚えがある。


「……アレク」


「はい?何か言いました?」


 汚れと錆をできるだけふきとり、袖に錆がこびりつくのも気にせずできるだけ磨いて、確信した。コインにはとある人物を横から見た肖像が描かれていて、その人は、いや、その横顔は記憶に焼き付いて離れない勇者の姿。


「………間違いない、アレクだ」


 前世で見た。魔王討伐を記念して発行されたとある国のコインだ。そしてそのコインにはアレクを模した横顔の肖像が浮き彫りにされている。

 たしか、これを勝手に作られたアレクがカーターやフェリナ、私も含めて爆笑の対象になったのは魔王を倒してからそう間もない時期にあった出来事だから鮮明に覚えている。


「はい?」


「ねえ!これ、どこから入手したの?」


 怪訝な顔をしたお弟子さんに突然テンション高めにそんなことを聞いたものだから驚かせてしまったかもしれない。でも転生してきてこれほど高揚するなんて初めてだったのだから仕方ない。


「え?知りませんよ。金属一山いくらで適当に仕入れるんですから」


「じゃあ誰から仕入れたの?」


「西の港町マゼルにあるモス商会ですよ。あそこ何でも屋なんで金属だって取り扱ってるんです」


 モス商会、今まで何度か聞いた名前だ。そこに行けばひょっとして何かがわかるかもしれない。


「西にあるマゼルって港町のモスって商会ね。わかったわ。ありがとう!後このコインみたいな金属ほしいんだけどくれない?」


「えーっと、確かさっき斧か何かを持ち込んだ方のお連れ様ですよね?それは請けたのかな……?」


 彼が事務所の方に視線を送ると、ちょうど仲間の3人が出てきたところだった。


「あー、いたいたレベッカ探したぞ。修理してくれるってさ!14日待ちらしいからしばらくこの町でのんびりするぜ!」


「ははは、ギルはランクも上げるんだぞ」


「代わりの剣も借りられたから出費の分働かないとね」


「わかってるよ。あたしに任しといて」


 仲良くそんな話をしながら3人が歩いてきた。


「ならいいですよ。銅のかけらくらいなら差し上げます」


「ありがとう!」


 錆びたコインを懐にしまい込んでみんなのところに走る。


「なんだ?嬉しそうだな」


「そんなことないわ。それよりも斧を受け取ったら西の港街に向かわない?大きな街って言うから見てみたいわ」


「お、いいな!」


「西の港町ってマゼルだよね!この大陸一番の港街で最大の都市なんだ。街に近づいたらびっくりするよ」


「そんな街があるのか!楽しみだな!」


***


 その夜。

 ギルが単独でいくつかの魔物狩り依頼をまとめて受けた。

 これを事実上私達が手伝って悪い道理はないので、みんなで頑張ってこまごまとした魔物を倒し続けて夜が更けた。

 今夜はここで夜営だ。


 4交代になったおかげで睡眠時間もより多く取れるし、ギルの加入は本当に助かる。


 そんな中、今日の私はくじ引きの結果あえなく2番目の見張り順を引き、仮眠の後眠い目をこすりながら見張りに起きている。


 皆が寝静まっていることを確認して、懐からあのコインを出して焚き火の光に当てる。

あれから隙を見て頑張って磨いた結果多少は綺麗になったけど奇麗にするのはそろそろ限界かな。でも、そこに描かれるアレクの姿がとても懐かしいのだ。

 老いていく姿をゆっくりとみていた彼の若かりし頃の姿。

 もう二度と見ることはないと思っていたのに。


 レベッカに転生して、辛いことも痛いこともあった。それを癒してくれるような、こみあげてくる嬉しさを感じながらも同時に、やっぱり彼らともう一度会いたいなと、心の隅にそんな願いが芽生えたのを自覚していた。

 

 叶うはずもない願いを。


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