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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第10章 手掛かり 西へ そして渡海
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第3話 見つけたそれは

 あれからも群がってくる魔物を倒し続けて第6層を攻略。潜って丸二日経っているがここにも手掛かりはなし。


「なあ、もういいんじゃないか?」


 カイルがそんなことを言っているが、確かに本来ならここで撤退して6層まで手掛かりなしと報告しても一定割合のお金はもらえたはずだ。

 第7層は他ではまず見られない大きさの水晶のような鉱石がやたらと床や天井、そして壁から映えているある意味幻想的な雰囲気の階層だから、ここ一帯にある大き目の鉱石を抱えて持っていけば6層深部到達の証拠となるからだ。


「さーてここが最後だ。あん?何かあるぞ?」


 だからそれでもいいやこの曲がり角が最後だと思っていたところ、下の階層への入口を見つけてしまったのだ。

 見つけたくもなかったのに見つけてしまったがっかり感がすごくある。


「あー、なるほど、ここはそういうことなんだ」


 真新しい崩れた壁にぽっかりと口を開けた下に延びる下り坂。

 そしてそこには真新しい足跡が。


「つまり、戻ってこない貴族の次男坊君達は、ここを見つけてしまったんだろうな」


「そりゃあ、覗いてみたくなるよね。誰も知らない第7層なんて」


「見つけた以上、行くしかないわよね」


「そうだねえ」


 終わったと思った依頼にオマケがついてきたというのはあまりいい気持ではないが、私達は下へと潜っていった。

 ただ、見方を変えれば悪くない。


 迷宮で未開拓の階層や未開拓の部分があれば、それは財宝の類が存在している可能性が高いからだ。

 一方、未知の魔物がいる場合もある。

 ハイリスクハイリターン。


「ま、稼げるときには稼ぐ、それが冒険者だからな。やばくなったら回れ右で全力で撤退するぞ。ノルマは第6層までだ。仕事は本来終わっている」


「そうね」


 路銀はこれからも入用だ。

 よくよく考えたら私にはまだ付与魔術や隠しているが身体強化魔術もある。奥の手もあるのだし、余裕はあるから大丈夫だろう。


 そう思いながら歩く第7層は、第6層のように水晶があらゆるところから生えている構造という点で変わらない。最初は拍子抜けするほど何もなかった。魔物が出ない。

 一方宝箱のようなものが開けられた形跡があるからおそらく行方不明のパーティーが開けて回ったのだろうと思われる。

 開けっ放しの箱内部にはまだ塵や埃はあまり積もっておらず開けられてからさほど時が経過していないことを示していた。


「これだけ何もないのに行方不明になるって、罠の存在を疑った方がいいのかしら」


「あり得るな。油断させておいて罠で一網打尽。いくら戦えても罠にはまっちゃどうしようもないからな。警戒しよう」


 第6層のように鉱石がむき出しで並ぶ光景が続いている中、慎重に奥へ奥へと進んでゆく。


 結論から言って、罠はなかった。

 しかし、罠のようなものだった。


「……げっ、おい、みんな。探し物を見つけたぞ。あと全周警戒だ」


 この階層に潜って数十分と言ったところか。この階層のやや奥まった場所。慎重に曲がり角から顔を出して先を確認したギルがそう呼びかける。


「死体みたいなものがあるな。3~40歩くらい先。複数ある。何かの部屋か通路への入口前だ」


 カイルも顔を出して確認し、剣や装備を確認し始める。


 私やエスタ、ギルも周囲を警戒しつつ順番に改めて装備確認。刃こぼれの有無、靴紐から道具の所在、個数等々。こんな奥まで進出した強いパーティーが死体となっているならそれなりの危険が存在するということだ。

 万全の備えをしなければならない。


「よし、いいか?」


 そう確認するカイルに準備を終えた私達3人は頷きを返し、続いてカイルと目くばせし合ったギルが足元にあった石をその死体の周囲に幾つか放り投げる。


 カツンカツンと地面に当たり、そのうち一つは死体が着ていた鎧に当たり、キーンと高い音を立てた。


「……」


 金属音の後の静寂。金属音を鳴らしたかったわけではない私達は冷や汗をかきながら武器を握りしめたが特に何も起こらないし、魔物が近づいてくるような気配もない。


 静かにゆっくりと角を曲がって前進。足元、壁、天井にも神経をとがらせながら死体のところまで到着。


「こいつだな。貴族の次男坊」


 一部が損壊しているものの、少しいい鎧を着ているとわかる男の死体があり、その首元には捜している貴族の人間であることを示す首飾りがあった。


 念のため剣の先でつつき、アンデッドと化していないことを確認して首飾りを外す。その間私は杖を向け、もしそれでも魔物として動き出した時には直ちに燃やせる構えをとったが心配は杞憂だったようだ。


「よし、もう用は済んだ。長居は無用だ。死体を燃やしたら撤退するぞ」


 カイルが首飾りを懐に仕舞う。

 同時に、私は火魔術を死体全てに浴びせて焼却する。これで彼らはアンデッドの類になることはもうない。


「ええ」


 撤退すると思ったはいいものの、彼らが全滅していた理由が突如として明らかになった。


「敵襲!」


 周囲を警戒していたエスタが急を告げる。

 え?どこに?


 魔物の気配なんかしなかったこの階層。

 だが実際は魔物はそこら中にいたのだ。

 壁に埋まっているように見えていた水晶の塊が動き出す。

 そう、ここは水晶鉱石が魔物化したものの巣窟だったのだ。


 いつだか見たサラマンダーの鱗が水晶鉱石でできているような、そんな白光りした魔物がうじゃうじゃと。全長は私の身長くらいで水晶のような鱗も合わせると高さは私の腰くらい。


「ったく、こういうことかよ!いくぜ!」


 ギルが元来た道を封鎖しつつあった魔物の群れに踊りかかり、私達もそれに続く。


ーガンッ!バキッ!


 ギルやカイルから繰り出される斧と剣で生じる音は本来のそれではない。


「ったく!かってえぞこいつら!」


 普通の魔物なら両断してしまうギルの攻撃が途中で止まってしまう。

 無理に断ち切ろうとすればきっと武器がはまって取れなくなってしまうだろう。


「まともにやったら刃がダメになるぞ!水晶が生えてない関節部を狙え」


「簡単に言うな!」


 前衛の二人が苦戦する中、私は後ろから来る魔物の処理に忙殺されていた。


「ファイヤーボール!アイスランス!」


 そして困っていた。

 いつも攻撃に使う火球や氷鎗の魔術がまるで効かない。そりゃそうだ。岩石に炎や氷を叩きつけるようなもの。

 怠慢と言われたらそうかもしれないが一体全体何ができて何ができないのか、突き詰めていないのだ。カイルやエスタもそこそこに戦えてしまうため、無数にある魔術のなかでもこれさえあれば大抵どうにかなるというようなものが使えた時点で満足してしまっていた。

 そのツケがここにきている。魔術を使ってこれは使えませんなんてことになったら無意味で無防備な時間が発生することになるからこの状況でそれはできない。


 さらに畳みかけるように、ツケ払いの代償に利息を加えたものが突如として襲い掛かってきたのだ。


「えいやっ!」


 そう気合を入れて振り下ろされたギルのハルバード。

 そのハルバードは狙いを外し堅い魔物の水晶のような外皮に正面から当たり…砕けた。


「はぁっ!?」


 片刃を失った武器を信じられないように見つめるギル。

 そういえば内部にひびがどうとか言っていた気がする。

 もうこれは戦うとか撤退というより逃げの段階だ。


「こうなったら!」


 可能な限り大きな水球をたくさん出現させて敵の群れに間断なく叩きつける。倒すのが無理だから接近そのものを拒否しながら退路を開拓するしかない。

 するとエスタは水球で飛ばされた魔物に対し、宙を飛び私たちに腹を見せた瞬間を射抜いている。射抜かれた魔物は叫び声をあげ、ちょうど顎から食らった魔物はそのまま絶命した。

 そうか、こいつら腹には水晶の鱗がないんだ!


「それなら……!」


 剣を収めて杖を地面に向けて全開で魔力を込めた。

 範囲は後ろ一帯全部!


「アースランサー!」

 

 地面を這うような動きをする魔物に対しては的も大きくて効果覿面だ。かつて鹿の魔物の多くを磔にしてやった光景が蘇る。

 可能な限り硬質化させた石の槍が魔物の群れを腹から串刺しにする。背中の堅い外皮に内側から引っ掛かり、悲鳴を上げながら突き持ち上げられる魔物の群れ。

 あの日のように魔物達は磔刑に処された。


「おお、すげえな」


 一転して優勢になった私たちはそのまま退路を塞ごうとする魔物を排除しながら第6層へと急ぐ。同じ魔物が引き続き湧き出してきたが、先ほどのように一斉に多数が襲ってきたわけでもない。

 撤退する妨げになることはなかった。


***


 その後迷宮を脱出した私たちは、ギルドに遺品を添えて依頼完了の報告をし、この遺品が本人のものと確認された翌日、結構な金額の報酬を得た。


「大分いい感じだな」


「何がだ?」


「ギルのおかげで前衛が2枚になって俺の脇を魔物がすり抜けていくことがなくなった」


「ああ、それ僕も思った。幅に限りがあるところで戦っていても前衛が一人だけだとどうしても魔物の数によってはすり抜けられちゃうからね。少なければ僕達でも対処できるけど大勢抜けてきたら難儀しちゃうし」


「そうね。狭い通路で前後から挟まれたりしても二人いれば前後を固められるから一番後ろにいる私としても安心だわ。剣を使わなくて済むもの」


 剣はその辺の一般人よりは使えるつもりだ。だけどやっぱり得意だとは思っていないからできれば使いたくないのだ。でもエスタを後衛にしておくわけにもいかず、これまでもしそういう状況になったら私が後ろ側の前衛をやることになっていたところだ。


 正直、カイルの言う通り現状はいい感じだと思う。ただ、私とエスタの役割が少々被っているし聖女がいない。そもそも今の時代にも聖女はいるが街の外に出ている前世のフェリナみたいな聖女は滅多に見かけない。

 聖女全体の数も減っているし、王族や大貴族の傍で働く聖女を除いては大きな街の聖堂で働くのが普通になってしまっている。


 要するに、聖女は私達みたいな冒険者パーティーにはいないのが当たり前。

 そんな時代になっている。

 聖女は冒険者の女神、そうとすら言われていたのに。

 

 私の知らないところで、世界は変わっているのだろう。何百年も経っているのだから当然か。それとも神々の闘争と言われる事件の影響か。

 前世の世界では、聖女を連れたパーティーとすれ違うことも多かった。そんなもう記憶の中にしかない光景に思いを馳せながら、マゼルを目指して進む。


 しかし一人渋い顔をしている人物がいる。


「武器。また探さなきゃいけないのか?これじゃあ棒術みたいなもんじゃないか。気に入ってたんだけどなあこれ」


 大きいほうの刃を失ったそれは一応槍としては機能するが、刺したはいいものの壊れた部分が引っかかって抜けにくくなる。

 そのせいで帰りの道中、引っかかって抜けなくなった魔物を旗を振るように振り回す羽目になったギルはちゃんとしたのが欲しいとぼやいていた。

 武器屋に行ってもいいものは見つからず、これを修理できないかと考え始めていた。


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