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失われた魔術を求めて  作者: ちむる
第10章 手掛かり 西へ そして渡海
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第1話 武器が欲しい!

「ん~~~~~」


 砂地と岩場が混在するザラーム砂漠の中央部から西部に至るくらいの場所を西に進む中、さっきから可愛らしいというか、そんな唸り声が響いている。


「ぐぬぬぬぬ」


「ギル?どうしたのよさっきから」


 その声の発生源は先日立ち寄ったチェルクで仲間となったギルディーネだ。ギルと呼んでと言われたからみんなギルと呼んでいる。


「武器が欲しい!」


「はあ?」


「あたしだってそんじょそこらの人族の戦士よりは戦えるんだぜ?だけどこれじゃ流石にちょっときつい……」


 ”ぐぬぬぬ”という感情がありありと見える。

 私達に余剰の武器はない。

 一応カイルがサブに持っていた料理や工作にも使う短剣を渡しているがそれだけだ。


 その短剣を見てギルは戦いでの何もできなさに困っているらしい。

 それはそうだとは思う。さっき大男くらいの大きさがある大サソリの群れと遭遇したがギルの短剣では大サソリの鋏や尾の毒針相手に分が悪すぎて、戦いのために私たち3人が地面に置いた荷物を守るだけの傍観者たることを余儀なくされたのだ。

 それがすごく彼女にとって不満だったようで。


「剣でも槍でも斧でもいい!何かでかいのが欲しい!」


 そんな風に叫んでいる。

 しかしここはザラーム中央西部。ザラームの外延地区に入ってきて少しだけ気候がマシになってきたが砂漠の真ん中。

 そんな武器が都合よく手に入るはずが…


***


「ふふふ~ん。いいなあこの斧!こうでなくっちゃ!」


 あったのだ。ご機嫌なギルは小気味よいテンポでステップを踏んでいる。


 チェルクに向かう武器商人の隊列とかち合い、その場で武器商人だと知って即商談開始。

 砂漠の中でグズグズはできないからこの中からさっさと選べと言われて、ギルは剣と斧が何本か入っていた木箱の中からこの斧を選んだのだった。斧というよりハルバードと言った方が正確だろうか。

 全体が鋼鉄製のギルの背丈に近いくらいの大きさがある非常に重い武器だが、彼女からしたら大したことないらしい。

 ちなみに私も持たせてもらったが、持てなかった。少し地面から浮かべるのが精いっぱい。こんなに小柄なのにそれを片手でひょいと持ち上げてしまうのだからドワーフというものの力の強さは想像以上だ。


 エスタもついでに矢を補充し、予備の弦も仕入れて二人とも満足な様子。


 そんな中、斧を指で叩いていたギルは「あれ?」というような顔をした。


「どうかしたのか?」


 隣にいたカイルがギルの表情を気になったようだ。


「いや、これ…うーん、多分刃の部分の内側にひびが入っているなあこれ」


 コンコンと刃の付け根に近い部分を指で叩きながら渋い顔をしている。


「本当か?表面には何もないが」


「ああ、まあ大丈夫だろ。これくらいなら。刃の部分が壊れても槍とか棒として使えるからな!」


 そんなギルとカイルの様子を見て思ったことがある。

 

 前世だって4人だった。それだけいればカバーし合えるし孤立することも少なくできる。挟み撃ちにあっても二人ずつで対処できる。

 なんとなく、安心感が増したのだった。


「ところで今更なんだが、このパーティーはどこに向かってるんだ?マイヤールに行くのはわかるが最終目的地は?」


「決めてないのよ。でも私達には知りたいことがあるの。みんなバラバラだけど」


「ふむふむ」


「ちなみに私は古代魔術が使えなくなった理由を知りたい」


「コダイマジュツ?」


 あ、知らないんだ。


「えっとね、昔はもっと強い魔術があったの。この砂漠だって一面凍り付かせておつりがくるような」


「へー、そうなのか」


「エスタが言うには、その古代魔術が失われてしまった事件が700年位前にあったらしいの。その真相を知りたくて」


「なんか難しそうだけど楽しそうじゃん!」


 にっこにこのギルは楽しそうだとは本当に思ってくれているようだが、多分中身はわかっていないだろう。細かいことは気にしないタイプなのだろうか。


「そ……そうかしら?」


「魔術って手品みたいで面白いよなー」


 ギルは魔術に対しては知識がないらしい。確かに手品みたいな使い道がある場合もあるんだけど、私がいつぞや作った障害物みたいに。そういえばチェルクで別れたミスティはそういう道を目指したいという。

 大成してくれたら嬉しいな。


「エスタは?」


「僕は世界中の遺跡や史跡を回りたいんだ。彼らとついていけば安心して旅ができそうだからね。こうして一緒にいることにしたんだ。彼らには助けられもしたしね」


「へー、で、カイルは?」


「秘密だ」


「えーなんだよそれー」


「いいだろ別に」


「まあいいじゃない。私の旅についてきてくれるっていうんだから。彼は強いわよ」


「後で手合わせしようぜ。あたしも戦いに関しちゃ少しは自信があるんだ。さっきのカイルの戦いを見てたがあたしならいい相手になるぜ」


「いいぜ。叩きのめされて泣くなよ」


「あはは、カイルがあたしより強けりゃ負けるの当たり前じゃん。そんなことで泣かないよ」



***


 その夜、砂漠から点々とした緑が増えてきたこの一帯は荒地に近くなってきて複雑な断崖や丘陵が目立つようになり、自然にできた複雑な地形が顔を出すようになっている。

 そんな中の横穴に今晩のねぐらを構え、その入り口前でカイルとギルの二人は密度のあるまっすぐに近い形状をした枯れ木を木刀のようにそれぞれ構えながら向かい合う。


「じゃあ、はじめ!」


 エスタの合図とともに二人は打ち合いを始めた。

 

 私の事前予想はカイルの勝ち。しかも圧勝。

 竜殺しやユーリィムの部下の中でも腕の立つゴッツらを一人で切り伏せた彼の強さを知っていたからだった。


 しかし、一合打ち合ったとき、余裕があったカイルの顔が一気に険しくなったのだ。

 打ち合いの質というか、剣を振るという動作においては明らかにカイルの方が洗練されている。だから速さという意味ではカイルはギルのそれを上回っている。


 でもカイルがギルの剣を受け止めるとその重心が後ろに押し込まれる。

 つまりギルの剣が重すぎてカイルが後の先を取れずにいる。もう少し言えば、カイルが重心を元に戻すために必要な、本来必要のないわずかな無駄な時間のせいでギルにその速さを生かした攻撃ができない、そういう状況だ。


 だからギルが攻めてカイルが受け止め攻撃をいなし続ける状況がしばし続き、生じた均衡が崩れたのはカイルがやや無理をして大振りになったギルの上からの攻撃を身をひねって躱した時だった。


「おわっ!?」


 突然回避を選択したカイルに木刀を空振りしてバランスを崩したギルの右肩にコツンとカイルが木刀を振り当て、勝負あり。


「まーけたー!」


 ギルはバンザイしながら倒れこんだ。


「強いなカイル!」


「いや、ギルも強いな。一振りの重さが尋常じゃない」


 ギルはさっぱりしたー!とでも言わんばかりの顔をしているがやや額に汗をしているのはカイルの方だ。多分カイルはお世辞でものを言っているわけじゃないだろう。

 

 二人が健闘を称え合う姿を見て、たぶん、これは系統が違う強さだ。比べちゃいけない性質のものだろう。そう思ったのだった。

 

 


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