第0話 最期の記憶
第1章に該当する部分についてはまとめて一括公開として、第2章から分量によりますが大体1日1話くらいのペースで投稿していく予定です。
全部書き終えていますので完結はします。
年末年始くらいに完結予定です。よろしくお願いします!
もうだめだ。
とにかく走る。
走るったら走る!
山脈の中を鬱蒼と広がる森の中をひたすら走る。躓きかけながら、あるいは枝に衣服や肌を傷つけられながらも走り続け、上がった息を整える必要性に迫られ、立ち止まり、膝に手をつく。
乾いた息があがり喉はもうからからだ。反面汗が体中からあふれ出し、額から頬を伝って
顎から落ちる。
魔物なんていないって言ったじゃない!
この森深い山中の峠道に差し掛かる前に立ち寄った宿場町でそんな大ぼらを吹いた老人を殺してやりたい。
お前のせいで仲間たちが。
そして私も殺されようとしている。
唐突に、背後から枝がもぎ取られるような音が聞こえる。
反射的に背後を振り返る。
……!!!
きちんと魔物は追いかけてきていた。
図体の大きな、鹿のような姿かたちをしている癖してその好物は人間も含む動物の肉。
追われていないと思ったのに!撒いたと思ったのに!そいつは私を直視しながら猛烈な速度で追いすがってくる。もう再び走り出すしかなかった。
嫌だ、死にたくない。
こんなことになるなら、家を飛び出さなければよかった。
泣きたくなりながらもう一度後ろに送った視線を前に戻した時、私は宙に浮いていた。
時の流れが緩慢になった気がした。
はるか下方に広がる景色は川により削られた段々の地形が渓谷を形成し、それが十数段に及んで全体としては切り立った峡谷を形成していた。
そんな地形の遥か下に落ちていく。
家を飛び出して、ようやくやりたいことができるようになったのに。もうすぐ一人前だって、言ってもらえたのに。
絶望と未練。それが最期の記憶。
1秒でも自由であったことにしがみ付いていたくて、地面が目の前に迫るその瞬間まで、目は見開いていた。