第六話:友から見た関係性
前回のあらすじ
ユニークパートナー交流会から帰った疾風陣営は、思い思いに夜の穏やかな時間を過ごす。
疾風は己のチョーカーを見つめ、二体を迎えると決意した日を振り返った。
そんな中、疾風の友人である大熊・獅子川に互いのAIパートナーを見せ合う食事会に誘われる。
ごくごく一般的な「スタンダード」三体の大熊に、役割を特化させた「カスタマイズ」を六体所持している獅子川。そして、「ユニーク」二体の疾風。彼らの友情は変わらないが、彼らのAIからは何が見えるのだろうか。
~12月19日・夜 東京都・ファミレス~
「ん、もう六時か」
「早かったな」
「ボチボチ、解散だね」
そして、夕飯時少し前。俺たちは解散準備を始める。
最近は就活とかで忙しかったし、二人と久々に話した気がする。
「あ、そういえばさ?」
「ん?」
「そのユニークAIについてだけど、もう一つ質問していい?」
「ああ、良いぞ大熊」
解散前、ふと気になったのだろう。何でも聞きやがれください。
「このAIってさ。元はゲームのキャラなんでしょ?」
「ああ、そうだけど」
「じゃあ、ゲームでの記憶も持ってるって感じ?」
「ゲームでの、記憶?」
首をかしげる。
「例えばさ、ほら。お前のやってるゲームってストーリーあるでしょ?」
「あるよ」
「じゃあ、そのストーリーの記憶とかさ。持ってるの?」
ああ、そういうこと。
「うん、持ってるよ。ゲームの劇中の出来事は、プログラムにセットされてるみたい」
「じゃあさ」
大熊が、グイっと前に来る。
「そのゲームのキャラがプレイヤーが主人公に恋してたら、AIだとどうなるの?」
「どうなるの、か。まあ、そのまんまじゃないの?」
財布を取り出しながら、俺は答える。まあ、その辺もAIパートナーは充実してんじゃないのか。
「じゃあ、ちょっとこっち来い!」
「あ、おい」
俺は、大熊に引っ張られ男子トイレへ連行される。
「どうしたんだよ、急に?」
「急にじゃないだろ。お前、自分のAIがさっきどんな顔してたか分かってるか?」
「ん?」
すまんが、分からんぞ。二人共、他のAIと同じく俺たちの話を黙々と聞いていただけだし。
「いやいやいや、嫉妬心丸出しだったんだって。俺たちと談笑してるのを見て『私にも構え~』ってオーラ全開だったぞ!」
え、まさか。
「それなら、獅子川も気が付くだろ。お前の勘違いじゃ......」
「お前らは! 昔から! 人の機微に疎すぎるの!」
「お、おう......」
いつもは何も考えてないくせに、突然怖いんだよなあ。思わず、首元のチョーカーを触る。
俺、あの二体のマスターとして上手くやれてないのかもしれない。
「あれ、本当にAIか疑いたくなるくらい感情豊かだろ。大切にしないと、SFみたいにAIが反乱を起こすかもしれないぞ!」
「ま、まさかあ。ロボット三原則もあるし、人に危害を加えることは......」
と言ったところで、俺は口を閉じる。そう、昨日の話。俺は、他者のAIから危害を加えられかけた。
なら、「マスター以外」に被害を与えることはありえるのか。
「......気を付ける。ありがとな」
「おう。お前は悪い奴じゃねえんだからさ。もっとストレートにAIへ甘えても良いんじゃね?」
「そ、そうか」
少し、色々考えるべきかもしれんな。俺は、ユニークAIマスターとしてどう動くかを。
「あ、いたいた! 会計は、もう済ませといたぞ」
獅子川が来た。彼も、AIを置いて来ている。
「あ、すまねえ。ほい、俺の分」
「お、丁度だな。んじゃ、帰るか」
「おう」
互いの会計を清算し、俺たちは店の外へと向かう。
「あ、司令官来た来た!」
「支払いについては、ご友人から聞いてるよな」
ラルーチェも、美咲も、外で待っていた。顔つきは......若干堅いかもな。
「ああ、聞いてるよ。今日は、一緒に来てくれてありがとな」
まずは、お礼から。これ、人の基本。
「まあ、良かったぞ。お前のご友人について知れたしな」
「それに、司令官の新しい一面を見れた気がするし!」
思ったより、怒っている訳じゃない。良かった良かった。
「まあ、こうして他の奴に君たちを紹介するのも、今後は増やそうと思う。君らは、もう俺の家族みたいなもんだし」
「家族......」
「家族!」
よし、良い言葉をかけられた。これで、一段落だろ。
「経済、今日のデイトレード収支は?」
「はい、+9万3000円です。明日以降値上がりする株を12万円分購入済みのため、今後の収支にも期待が持てます」
お、獅子川がAIと会話してる。元手がいくらか知らないが、終始プラスなのはマジで偉い。
「パートナー、明日の予定は?」
「はい。午前に、行動心理学の授業があります。また、宝くじの発表日です」
ほうほう。大熊のスタンダードも、ある程度は役に立つみたいだな。使い方次第って要素は、大きそうだけど。
「んじゃ、また連絡する。二人共、じゃあな~」
「おーう」
「また会えたら、大学でね~」
そして、二人と解散する。そういえば、二人のAIがしゃべっているの見なかったな。
◇◇◇
~12月19日・夜 東京都・犬飼宅~
「ふう、ただいまあ」
帰宅。そして、布団を敷き、ダイブ。そのまま、腕で目隠し。
「た、隊長、どうした?」
「具合悪い?」
二体が俺を気に掛ける。
「あ、違う。少し考えたいことがあって。すまないが、少し一人で静かに過ごしててくれ」
「あ、ああ」
「わかった......」
さて、考えるとしよう。
俺は、パートナーAIにどう接するべきなのか。
(そもそも。俺は何でユニークAIにしたんだっけ?)
確か、スタンダードやカスタムじゃ個性がないって思ったんだよな。
俺の理想をサポートしてくれるAI。本来は、これを求めていたはずなんだ。
(で、半年前にスキャンに行って、ラルーチェたちがユニークとして出せるって聞いて)
喜んだ、よな。好きなキャラだもん。愛情もって使ってたキャラだもん。
何より、ストーリーを見て心がぐちゃぐちゃになったキャラだし。
(もしかしたら、悲劇の続きを自分で描けると思った。そして、誓ったんだ。「笑顔にさせる」って)
首元には、今も決意を示すチョーカーがある。こんな平凡で器用貧乏な俺でも、後日談の主人公くらいにはなれるかもって。
(けど、どうしてだっけ? 愛されているのから、目を背けたのは)
二体が来て比較的すぐの話。美咲から、「結婚指輪が欲しい」と言われた。
テレビのニュースで、ユニークAIと挙式したマスターがいたとニュースになったからだ。
あ、そうだ。
あの時のニュースで、確か似た事例が何人か報じられて。
その中に、美咲がいたんだ。
(まあ、当然だよな。美咲はゲームのキャラ。俺の作り出したキャラじゃない)
俺以外に、美咲のAIがいる。そして、俺の元にいる美咲と同じく、そいつのマスターに愛してると言ったのだろう。
それが、嫌だった。
俺自身が好きで、その行動をとった訳ではないのだから。
「そう、だよな。AIは所詮プログラム。マスターに恋愛感情を持つよう設計されているんだよ。相手が、どんな屑でもな」
そうだ。だからだ。解決した。
......疲れた。どうしようもないな。二体には、もう少し色々割り切って貰わないとなあ。
「た、隊長。眠いのか? 掛け布団、出すか?」
「......頼む」
「きょ、今日は同じ布団で寝て良い? 邪魔、しないから」
「......勝手にしろ」
二体の動きが、なんとなく聞こえる。本当、よくできたプログラムだ。
もう、風呂とかは明日でいいや。おやすみなさい。
「AIに感情はあるのか」
早くも、この議題を大熊君からぶつけられちゃったね。疾風は、真剣に向き合って考え始めた。けれど、そもそも彼は元のゲームキャラに対しても恋愛感情は持っていない。随分、面倒なことになったよね。
恋はしてなけど、愛を持っているから、尚更さ。
次回『CODE:Partner』第七話『揺れる夢、微笑む朝』
その愛は、プログラムを超える。