第四話:闇をも抱えた正義
前回のあらすじ
ホームビデオを見させられた疾風は、隣にいたゆーすけ・ルーシーに更にメンタルをえぐられる。
その後、立食パーティーと言う名のただの立ち食いにて、疾風は疾風の愛を語る。
そして、更によく分からぬ男に絡まれ、疾風はラルーチェを「解放」させた。
~12月18日・昼 東京都・西畠ホールディングスビル~
「な、何なのです? この禍々しい気は......。康夫様、奴は危険です。おさがりを」
「......対象、危険認識。対策思案、開始」
完全に奴のAI共は止まったな。しかし、これだけではない。
「お、おいおい何だこれは?」
「あれって、オメヒロの......誰だっけ?」
「あ、ラルーチェだ! 夢旅の中ボス!」
周囲の人たちが、俺たちを注目しだした。
ただの「二体のAIパートナーを連れている男」ではない。AIパートナーを「変身」させた者として。
「ラルーチェ、連中の武器を破壊しろ」
「了解だ。粉々にしてやる」
俺の指示を受け、ラルーチェが槍を振りかざす。
そして、三秒後。
「な、薙刀が!」
「白雪の氷、破損。攻撃行動、続行不可と判断」
二体の武器を、その闇に満ちた手で跡形もなく破壊した。
「勝負あり。流石だな、ラルーチェ」
「造作もないことだ。礼には及ばない」
こちらに戻ってくるラルーチェとハイタッチ。そして、奴の方に向いて一言。
「そういう事です。今後は、変なことで私たちに喧嘩を売らない方が身のためですよ」
「き、貴様! その冷たい目、今まで何人人を殺してきた! 名を名乗れ!」
「そそそそ、そうよ! 名乗りなさい! .....ねえ、名乗って?」
奴と、戦わなかったAIがこう言った。俺は、首に下げたネームプレートをひっくり返してこう答える。
「凡人プロメテウス。よくこう名乗っています。それでは」
ペコリと一礼し、俺は連中に背中を向ける。
「二人共、流石に居心地悪くなったし帰る?」
「そうするか。このままじゃ、いつ別の奴に因縁を付けられるか分からないからな」
ダークネスを維持したまま、ラルーチェが言う。まだ、周囲にアンテナを張ってくれている。
「パーティーの食事、お持ち帰りできるみたい。家で食べよう」
受付横を指さして、美咲が言う。そういえば、まだ全然あのホームビデオの元を取ってなかったな。
「そうしようか。じゃあ、行くぞ」
俺はこう言って、二人に手を差し出す。
「......ああ」
「......うん」
二体は素直に俺の手を握った。そして、そのまま会場を出るべく受付へ向かう。
「待ちなさい、犬飼疾風!」
「......?」
「パーティー会場でひと騒ぎ起こして、何も言わずに去るつもりですか?」
ああ、偽聖女か。鬱陶しい。聖なる剣を腰に構え、場合によってはもうひと騒ぎ起こすつもりらしい。
「周囲への被害は出しておりません。それに、お騒がせ者はいない方が都合が良いはずでは?」
「誠意を見せなさい! 喧嘩をしたなら、双方が謝罪するのが道理でしょう!?」
「隊長、無視するぞ」
「そうそう。構っているだけ無駄だよ」
残念なことに、あのAIのブレーキ役はこの場にいない様子。となると、時間かかるな。
「美咲、先にお持ち帰りを用意して貰ってくれ。すぐ合流するから」
「え、あ、うん」
ラルーチェは、未だにダークネスで対峙して貰った方が良い。美咲は、そのまま小走りした。
「さてと、夢ヶ原の聖女」
「......何です?」
「貴方は詳細を見ていなかったかもしれませんが、あれはあちらが先に暴力を振るってきたのです。それに対し、我々は相手の武器を無力化しただけ。喧嘩ではないのですよ」
「......隊長、無理するなよ」
二人の手を離した俺は、やや挑発気に両腕を広げ説明をする。この際だ、お前も叩き潰してやるよ。
「詭弁です! その理屈がまかり通れば、世界はもっと残酷になる! 圧力で全てを従える世界が!」
「では、今この現状がそうではないと?」
「......何?」
「この世界には『神のお導き』や『国家権力』とあらゆる行為を規制する圧力がある。彼らの理屈は、全て正義の為と言うが、本当にそうでしょうか? 本当にそうなら、聖戦で人は死なないし政治家は名君しかいなはずだ」
「......そ、それは」
「世の中に、神も導きも正義もない。なら、信じるべきは己の力。その為に、他人に危害を加えない程度で力を出す。それだけのことです」
「......」
おやおや。聖女サマは所詮「正義」を笠に着たお人形。人の黒い部分を見れば、お口チャックだ。
「まあ、数ある一つでしょうが。これが私の『正義』です。では、ごきげんよう。夢ヶ原の聖女さん?」
「......じゃあな」
俺がラルーチェの顔を見て、ダークネスの解除を指示。彼女はすぐに、その髪をエメラルドに戻す。
そして、パーティー会場の出口では風呂敷をかけた美咲が待っている。
「一段落、かな」
「挑発しすぎな気もするが、ああでもしないとな」
「あー、無事で良かった! 無茶しないでよ!」
「ああ、すまなかった。今後は、他のユニークAIマスターとの接し方には気を付けないとな」
今日一番の収穫は、これかもしれないな。
こうして、俺たちは日が沈む前に帰路に就くのだった。
◇◇◇
「アリッサ」
「なあに、ハニー?」
一連のやりとりを遠目で見ていた。僕は背中からひたすら手を撫でてくるアリッサに聞いてみる。
「あの人。かなり歪だけど根はマトモなのかな?」
「どうかしらね? 『元真人間』って感じはするけど?」
「なんでそう思う?」
「乙女の感♡」
「はいはい」
ま、そーなるよね。この状況、「勘」でしか物事を見れないし。
「けどさあ、お兄ちゃん」
「ん、どうしたのキリハ?」
俺の足元から妹が声をかける。そっか、そろそろ包帯交換の時間か。
「多分、あの人たちは悲しんでいると思うよ。今を」
「どうして?」
「今日、一回も心から笑顔じゃなかったから」
「流石、よく見てる」
こういうのを聞くと、「AIは人間より圧倒的に優れた感知能力がある」って実感する。
こんな高性能な妹がいて、僕も幸せだね。
「今後、ユニークAI関連で彼ら会う機会が増えると思う」
「そうね」
「うんうん」
「その時、僕らは向き合わなきゃいけない気がする。彼らと、そしてこの社会と」
「......そう、ね」
「うん......」
いつも、見られる側の僕だったけど。せっかくの機会だ。
君を暫く観察させて貰おうかな。
この黒沼相良が、アリッサ・キリハと共にね。
人って、何かに傾き切った方が迷わずに前に進めるからね。彼には、それが出来るほど強い意志も狭い視野もなかったって訳だ。
そして、もう一人の主人公・黒沼相良。彼は見る限り「傍観者」を貫くつもりのようだね。疾風と同じく冷静だが、より冷めている。いや、無理やり抑えているのかもしれない。
さあ、クールでいたい彼らはこの狂気の世界でどう生きるのか。楽しみだね。
第五話『交錯する視線、揺れる心』
その愛は、プログラムを超える。