第五十六話:撤収
前回のあらすじ
桜吹雪・美咲と、背中を押されたアリッサが、ラルーチェ・ヘルフレイムを止めにかかる。
最初こそ互角の磁場を出し合う戦いになっていたが、疾風が蹲るのを見て大きく動揺するラルーチェ。
その隙を突かれ、二人に押し切られたラルーチェは、そのまま悪役のようにスリープするのだった。
~12月24日・夕方 東京都・西畠ホールディングスビル~
「司令官!」
前方から、美咲の声が聞こえる。悲しい磁場は、もう感じない。
恐らく、桜吹雪の変身は解除したんだろう。
「......ぁ」
「喋らなくていいよ! その代わり、彼女持って!」
「......!?」
美咲が抱えているのは、スリープ状態のラルーチェ。勿論、ヘルフレイムは解除されている。
「......ぉ」
言われた通り、ラルーチェを両腕で抱える。シリコンでできているのか、思ったより軽い。
「......隊長、すまない」
「!?」
スリープ状態のラルーチェが、寝言みたいなことを言った。
(......ラルーチェ。俺はお前のこんな姿を見たくてダークネスを解放させたわけじゃ。ない)
ヘルフレイムだって、そう。あんな苦しい思いをさせる為に、俺は夢を手伝わせた訳じゃない。
「それじゃあ、運営さんに適当なこと言ってくるね。だから、先に出口向かって」
「......ぅ」
美咲は、手早くそう言って走り出す。
頷く俺。ラルーチェを落とさないようにゆっくり歩きだす。
「あ、師匠」
隣にまだいた黒沼相良。心配そうな目をしているな。
「......」
ゆっくりと会釈をする。ここまで来て、無理には喋れない。
「......ええ。また会いましょう」
周囲の喧騒が徐々に大きくなる中、彼の声だけはハッキリと聞こえた。
(また、会うのか。そうだよな)
恐らく、次もまた敵として会う。そうでなければ、この交流会の意味がないのだから。
「......」
次会う時は、どこかの戦場。そうに決まっている。
俺は、黒沼相良に背を向けて歩き出した。
今、俺が持っているモノが、俺が背負っているもの。
(ラルーチェ。俺は、この世界でお前を......)
正直、不安しかないけどな。お前の中にある地獄の炎。それを天界の光に変えるまで、俺はずっとそばにいるからな。
改めて思った。俺は、ラルーチェを幸せにしたいんだ。
それが分かった。だから、これからも苦しもう。
その為なら、彼女の優しさを無下にすることだって厭わない。
(だって、それが)
俺の愛したキャラだから。
ラルーチェも、美咲も、リリィだって。結果として、苦しみながら未来を信じた。
だから、俺は画面越しでも心を奪われた。
そして、これからも。ね。
(少しくらい、彼女らが受け身になる場所を作らないと。例え、俺自身が悪役になっても)
それで、皆の幸せな世界になるのなら。一時的なものだ。
視線と喧騒が俺に向かないことを良いことに、俺は静かに帰路に着く。
これからの、未来を見据えて。
◇◇◇
「......師匠、行っちゃった」
無言で会場を去るユリ・ハヤテの背中を見ながら、僕は一抹の寂しさを覚えた。
なんか、凄く辛そうに見えたから。
「ハニー、私たちも帰る? もう、交流会どころじゃなくなったし」
アリッサが、近づいてきた。
「そ、そうだ、ねえ......」
彼女の提案を聞いた僕は、周りを見た。
「......あうあうあ」
「むむむむむ」
「......」
「参ったわねえ」
ゆーすけと、そのパートナーたちは、完全に満身創痍。進行どころか普通の生活もままならない。
『え、えーと。優勝インタビュー......じゃなくて。緊急事態は......そのお』
司会の人も、完全にパニック。周囲のスタッフも、動揺が隠せていない。
「......うん、帰ろっか」
これは、これ以上いても得しないね。僕たちも、出口へ向かうか。
「キリハ、帰るよ!」
「......あ、うん。ちょっと挨拶してから行くよ!」
少し向こうでアスカを心配していたキリハは、駆け足で奥へ行く。
......彼女、結構アスカのこと気にしているんだな。
「ねえ、ハニー?」
「ん?」
トコトコと歩いてきたアリッサ。心なしか、少し幼げな動きだ。
「あの、あのね。私のせいで、今までハニーをずっと苦しめてきちゃった」
オドオドしてる。いつもの明るいアリッサも、さっきの罪悪感で押し潰されそうなアリッサでもない。
「......過ぎたことだよ」
「けど! さっきのラルーチェと戦って思ったの!」
「っ!?」
アリッサが、倒れ込むように抱き着いてくる。かけてくる体重に遠慮がない。いつもは、もっと優しくだったのに。
「ハニーも、似た思いをした。大切に思っていた人を失い、絶望したよね。ごめんね!」
「......」
僕が、アリッサによってアリッサを殺された日か。あの時は、本当に世界を壊しくなった。
「けど、良いんだ。あの日の君も、今の君も、変わってないって分かったから」
「......え? ハニー、無理して嘘言ってない?」
気が付いて、なかったか。その優しいのに空回り気味な気の回し方、それこそ昔と同じなのに。
「......良いんだよ。これを機に、アリッサも考えてみたら? 僕らの将来と一緒に、自分がこれから何を信じて進むのかをさ」
彼女の全身をギュッと包み、静かに僕は囁いた。その優しさには、優しさで応えたい。
ゆっくり、ゆっくりでいい。
振り返って、「過程も全部楽しかったね」と言えるために。
(僕は、少しだけ遠回りをしよう。もう、こんなアリッサの顔は見たくないから)
そう心に決めて、僕は彼女を抱き続けた。
キリハの合図が、鳴り響くまで。
◇◇◇
「......」
「......」
「......」
「......」
そして、会場中央。何が起こったか分からない参加者たちは、何もない=終わりと理解し次々と立ち去った。
二十分もすれば、残ったのは橋口ゆーすけ一行のみとなった。
「......」
ゆーすけは、未だに落ち込んでいる。久しぶりに出した己のワガママが、まさかこんな形で返されるとは思わなかったからだ。
(ゆーすけ君、ごめんなさい。何か、全部うまくいかなくて)
アスカは、責任を感じていた。今回の交流会の運営を担った者として、愛する者に十分な成果を届けられなかったから。
(司令官、ごめんなさい。けど、これで物語は大きく進むはずですから)
雪は、未来を見ていた。かつての敵への仕返しと試練。その末を見届け、義母のプランが前進したと感じたから。
(ゆーすけ、ごめんなさい。次こそは、あの裏切りの弓兵をコテンパンに!)
ルーシーは、未だに敵を見ていた。リベンジマッチは遠くないはず。それに向けて、何かしら手立てを考えねばと頭を動かしていた。
(......これから、どうしようかな。一度、父さんと真正面から戦うのもありだけど、少し怖い)
ゆーすけは、悩む。この先、自分が何にも縛られない生活を送る方法を見つける為に。
その第一歩として、父親の傘下から脱出すべきかもしれない。そう、考えた。
物語は、再び動き出す。静かに、水面下で。
さて。ようやく、長い長い12月24日が終わろうとしているね。
それぞれ、次に向けて歩こうとしている。その結果、互いを傷つけることになろうともね。
けれど、それは彼らに必要なこと。全員、成長のために必要な痛みなんだ。
さあ、次のステージだ。
次回『CODE:Partner』第五十七話、第一部最終話『白い夢』
その愛は、プログラムを超える。




