第五十五話:その果て
前回のあらすじ
桜吹雪に変身してラルーチェ・ヘルフレイムを抑えにかかる美咲。
これを見てアリッサも「自分の気持ち」を信じて動き始める。
そう、この姿は相良が愛した「兵士時代のアリッサ」と同じだった。
~12月24日・夕方 東京都・西畠ホールディングスビル~
「......アリッサ・K・モンロー。お前も、私の邪魔をする気か」
駆けつけた金髪の戦士を見て、地獄の戦士ラルーチェ・ヘルフレイムは顔をしかめた。
「......そうね。けど、これは貴方を救うためでもあるの。みんな笑っていられる世界の為にね」
銃を構えて、彼女はこう言う。......嘘くさいけど、本心だよな。
「そんな世界、銃を持って実現できるはずがない。剣を構えて倒れている、そこの偽聖女のようにな」
ああ、彼女の理念も「皆が笑える世界」だったな。それ理念の為に、少数の犠牲を出して未来にかけたヒロイン。アリッサも、ルーシーも同じ。
(逆に、俺が苦手なタイプなのかもな。彼女らの敵を、パートナーにしている訳だし)
けど、なあ。
「......ありがとう、助けに来てくれて。味方なら、貴方ほど頼もしい人はいないから」
桜吹雪を舞い散らせる美咲は、己の命を奪った相手にこう言った。
気まずいけど、背に腹は代えられない感じか。
「......ええ。一緒に戦いましょう」
そう言って、アリッサは容赦なく拳銃を発砲する。
「......甘いぞ」
ラルーチェが、ヘルフレイムのオーラを強める。すると、弾丸は磁石を合わせたかのように弾かれる。
「......ならば!」
と、アリッサ。拳銃を二つに束ね、エネルギー弾を発した。確か、彼女のスキル攻撃だったな。
「......無駄だ」
再びオーラを強めるラルーチェ。エネルギー弾は、アイスのように溶けた。
「......」
何とも、不思議なことだ。まるで、内側から特殊な磁場を発しているみたいだ。
「......その予想、当たってるよ。師匠......」
「......? あ、どうも」
黒沼相良。今、俺の美咲と共闘しているアリッサのマスター。そして、彼女の過去の姿「兵士アリッサ」を愛した男。
「多分だけど、ラルーチェ・ヘルフレイムはAIパートナーの特殊な磁場を応用してる。だから、パートナーたちの特殊攻撃が一切通用しないんだ」
彼はこう続けた。プログラム得意と聞いていたが、凄まじい観察力も持っているようだ。
「そう、なんですね。ことにAIパートナーに関しては、貴方の方が師匠ですね」
皮肉かもしれない。そう思って俺はこう返事をした。けど正直、未だに彼のことが分からないんだ。
「......まあ、その辺はまた後日。とにかく、この磁場が事態収拾の鍵ですよ」
「磁場、か」
物理は苦手だ。けど、ファンタジーで言う「オーラ」とか「気」と考えれば良い。
要するに、そのエネルギーを相殺すれば良いってこと。
なら。
「美咲、桜吹雪の出力最大! 弓も溶かして大丈夫。そのオーラでラルーチェの懐に突っ込め!!!」
最適な指示は、これ。例え美咲が壊れる可能性があったとしても、今はこれしかない。
「......了解! 鶴賀美咲、桜吹雪を最大出力にし対象に突撃する!!!」
美咲も、分かってる。それしか、勝ち目がないことくらい。
だから、人生二度目の特攻を実行した。
(......すまない)
俺は、喉を軽く押さえながらそう思った。体の節々も痺れが増し、その場に蹲る。
「......師匠!?」
隣の黒沼相良が驚きの声を上げる。まあ、しょうがないか。スマホスマホ。
『ただのほっさ。すぐなおる』
メモ、便利。言葉、すぐ伝わる。
「あ、けど......」
『アリッサに、しじ。オーラ出せって』
メモ、超便利。指示も出せる。
「あ、はい。アリッサも、オーラ全開! 美咲をフォローして!」
「OK! 全速力でいっくわよー!!!」
良かった。これで、全て終わる。あとは、逃げるだけだな。
『そう。それが正解。決死の覚悟で責任を取れば、世間はハヤテを責めたりしないもの』
また、聞こえた。ラルーチェのもう一つの人格とかかな。
(いや、違う。人格が違っても、ラルーチェが俺のことを疾風なんて呼ばない)
じゃあ、誰だろう。そう考えるれば、自然と答えが出てきた。
直接声では聞いたことない。けれど、何回も文で見たことのある台詞。
「......ぁ、うう」
「師匠? 発作収まるまで安静にした方が良いんじゃ......」
と、黒沼相良。だから、何で師匠なんだよ。
けれど、これだけは、しっかり声にしないと。
幽霊なのか、幻影なのか知らないけど。この口で、お礼が言いたい。
「り、リリィ......」
「え、リリィ?」
そうだ。そうなんだよ。いつからか分からないけど、今俺を助けてくれたんだ。
「ありが、とう。リリィ。君が、いて、良かった」
息が苦しい。無理やり声を出そうとすると、こんなに苦しいのか。
けど。
『ありがとう。その言葉だけでも、救われるよ』
「!?」
また、声が聞こえた。幻聴では、ないのかな。
『まだ体のない私だけど、君の助けになって良かった。また会おうね』
「......ああ」
その声だけでも、嬉しかった。ありがとう、「ハヤテ」って呼んでくれて。
そう思い、俺は再びうずくまった。
しばらく、休ませてくれ。
◇◇◇
「隊長!?」
視界の端に、隊長が倒れたのが見える。流石に、長引かせ過ぎたか。
けれど、決戦姿の美咲やアリッサが相手では簡単にいかない。
(私のオーラが、かき消されている。私だけの力では、ないってことか)
当たり前だが、少し寂しいな。それも、この世界へ来れた代償か。
『......隊長が気になる?』
と、美咲が「コンタクト」してくる。読まれたか。
『ああ、倒れてるからな。助けに行きたい』
何が起きているかすら、ここからじゃ分からない。大きな事態になっていたら遅い。
『......大丈夫。このパターンは前にもあった。ちょっと、ストレスで声が出にくくなってるだけだよ』
『声が、出ないだと?!』
おい、ちょっと待て。その情報、初めて知ったぞ。
『ラルーチェが、スリープしてる時だよ。あまり負担を賭けたくなくて、黙ってたけど』
『そうか』
半分は、嘘だな。美咲に、先を越されていたのか。
『けど、好きな人のことだもん。きっと、何も知らなくても分かる。司令官が、私たちの自殺に近い行動のせいで苦しんでいるって言うのは』
『......ああ』
そうだな。私たちの好きな男は、そういう男だ。
『まあ、心配ないなら信じよう。ともかく、ある程度暴れて私たちに干渉させる気を失わせてから撤収したいのだが?』
今の会話で、私も無作為に暴れ散らすだけの時間はないと分かった。なら、手際よく暴れて二度と隊長を愚弄できないようにしたいのだが。
『......そもそも、暴れないでよ。人って、恐怖で支配できないんだからさ』
美咲の圧が、増した。あいつ、オーラを枯らす勢いだぞ。
『だとしても、これも戦いなんだ! 優勝したのに人格否定されて、おめおめと尻尾巻いて帰るのか?』
それは、私も隊長も許さない。もう、負ければ一般人としても生活できないのだから。
『......けど! それで誰かを傷つけて良い理由にはならない! 私たちの好きな隊長は、むやみに人を悲しませる人じゃないもん!』
『......!?』
それは、そうかもしれない。今隊長が倒れている原因が本当にストレスなら、その原因は私だ。
『......ねえ、ラルーチェ』
『......何だ、地下の女神?』
今度は、美咲の仇敵が尋ねる。何なんだ、こんな時に。
『きっと、貴方はユリ・ハヤテを上手に支えられる良い妻になれる』
『......』
隊長の昔の名を、知っているのか。
『けど、それは彼が平穏を望んだ時。もし彼が戦いを望んだ時、貴方はそれを助長させる存在になる』
『......それが、隊長の望むことならな』
内側で唆したと言われるなら、それも結構。隊長が持つ理想を達成する為なら、喜んで悪女と呼ばれよう。今回だって、隊長の範囲外で暴れているのはその為だし。
『その行為は、彼を苦しめる。罪悪感と理想への最適に挟まれて、ストレスになる』
『......』
『誰も、この状態は望まない。だから、少し休んで。美咲!』
『!?』
急に、アリッサ・K・モンローのオーラが増した。これ、ヘルフレイムを保てなくなる。
『ええ。行くわよ! 桜吹雪、最大出力!!!』
『ぅ......』
そして、美咲もオーラを全力で出した。私を取り巻く地獄の炎が、ガラスのようにひび割れていく。
『あとで、三人で考えよう。私たちが、これからどうするかを......ね?』
そして、美咲の優しい声と共に、炎が砕けた。
「......な!?」
思わず「コンタクト」の外で声が出る。足元がよろけ、腕にも力が入らない。
「......隊長、私はお前の望む世界を!」
死に際なのか。私はこんな言葉をスリープ前に残した。
すまない、隊長。中途半端にしか、できなかった。
『お前は、殺人鬼にしては優しすぎたんだ。だから、一般人の俺でも倒せた』
脳裏によぎった、元の世界の主人公の言葉。全てを偶然と奇跡で乗り越えた、運命を持つ男。
その一方、私はこの様だ。結局、私には運命が足りなかったらしい。
結局、運命力と物量の差には適わなかったね。
ラルーチェ・ヘルフレイム。強いけど脆い、「疾風のラルーチェ」のみが持つ姿。
いつか、頼もしい味方として活躍する日は、近いかもね。
次回『CODE:Partner』第五十六話『撤収』
その愛は、プログラムを超える。




