第五十四話:誇りと正義
前回のあらすじ
圧倒的な力でルーシー・アスカ・雪を圧倒するラルーチェ・ヘルフレイム。
流石に、一種の責任感を覚えた疾風は、美咲に彼女を止めるように頼む。
悲しみのキスを受け取った美咲は死に装束の変身「桜吹雪」になり、覚悟を決めた。
~12月24日・夕方 東京都・西畠ホールディングスビル~
「行ってきます」
「ああ」
周囲の被害を考えれば、もう時間はない。短い言葉だけを交わして、美咲は出撃した。
「ラルーチェ、ストップ!!!」
「!?」
舞い降りた春風に、ラルーチェ・ヘルフレイムも攻撃の手を止めた。
「......どういうつもりだ?」
「そのまんま。ラルーチェ、暴走は良くない」
五体投地で倒れ込んだ姉の前に立ち、美咲は両手を広げ止めに入る。相手は違えど、美咲がずっとやりたかったことだった。
(それを、本来の味方同士でやることになるのは皮肉だけどな)
「......私は、もう戻れない。邪魔するなら、美咲にも消えて貰う」
「......」
声のトーンが今まで一番低い。ラルーチェ、それじゃあもう何のために暴れているか分からないぞ。
けど。
(これが、ラルーチェだよな。絶望して、暴走して、全てを壊しにかかる。だからこその「悪役」何だろうけどさ。......けどさ)
辛いよ。それが出来るから好きなのに、またそんな目に会っているお前を見るのが。
だから。
(ラルーチェを止めてくれ、美咲......)
うなだれる。俺はもう、前を見れない。誇りを胸に、大事な仲間と刃を交える彼女を、俺は見れない。
けど、もしも今の俺たちを見て何か感じたのなら。
(助けてくれよ。もう、限界だから)
口には出せない言葉を、心の中で叫ぶ。弱音は、もう二度と吐けないから。
『助けて欲しいの?』
「......?」
何だろう、ラルーチェによく似た誰かの声が聞こえた。脳内に。
『ハヤテ、助けて欲しい? なら、小さい声で言ってみて。助けてって』
「......」
懐かしい。けど寂しい声。俺は、大昔にこの声を聴いた。
『大丈夫、きっと誰かが助けてくれる。だって、人はもっと優しいんだから』
「......っ」
少し、心が軽くなる。何故だ。正体も分からない声に、俺は癒される。
......なら、信じてみるか。小さく、小さくだ。
「......誰か、助けてくれ。ラルーチェを、止めてくれ」
『OK! ハニーの為だし、手を貸してあげる!』
誰だろう。また『コンタクト』してきた。正直、よく覚えていない。
けれど、少し安心感がある。
「......よろしく、頼む」
俺は、小さく返事をした。誰かが、答えてくれたのが、嬉しくて。
そして、俺の目の前が変わり始めた。
◇◇◇
「アスカさん!」
ラルーチェ・ヘルフレイムに吹き飛ばされた佐野アスカを見て、僕の隣のキリハが悲鳴を上げる。
そう、だよね。この子からすれば、姉同然の人だから。
「......」
一方のアリッサ。何を考えているのか分からない顔で戦場を見つめている。
「僕は、どんな目で見ればいいんだろうな」
目の前で繰り広げられる。圧倒的なラルーチェと、それに対抗するゆーすけのパートナーたち。どちら側のマスターも、僕にとっては仲間であり将来の敵。どちらを応援、とかはできない。
「けど、ラルーチェの暴走は止めるべきなのかな?」
十数年の生活で作られた最低限の良心から、僕は一つの案を出す。誰にでもない、自分に対して。
「別に、しなくていいと思うわ。挑発しすぎた方も、乗った方もどちらも悪いんだし」
「......そっか。結局、どっちも悪いで終わりなのか」
何か、嫌だな。喧嘩両成敗って、結局のところ「騒ぐな」「主張するな」「議論するな」って凄く個性を殺してるみたいで、苦しいよ。
「ラルーチェ、ストップ!!!」
......あれは。
「お師匠さんのもう一人のパートナーね。まさか、あの子も変身できるなんて」
と、アリッサ。ピンク色の髪、額に結ばれたハチマキ。全身を被せるように包む白い服。
何と言えば、いいのかな。
「......凄く、辛い恰好に見えるな。必死になって、自分を殺しているみたいで」
そして、僕はこの姿を見たことがある。あの子、インバト過去編のキャラだったよね。
ってことは、アリッサも見たことあるよね。
「ハニー、多分なんだけどさ」
「うん?」
「私は、この人を殺した。そして、多分この姿のこの人を殺したんだと思う」
アリッサの言葉。いつも人の繊細な部分を土足で踏み入るタイプなのに、少しだけ気を使っている。
「だから、何となくわかる。あの人、刺し違えてでもラルーチェを止めるんだと思う」
「......」
彼女は、覚悟が決まっているってことか。じゃあ、僕はその末路を見届けることが役目か。
「......あ、ハニー。見届けるだけじゃなくてね?」
「ん? また僕の考え読んだ?」
「あ、ごめん。今、『将来のパートナー』からコンタクトを受けたの。犬飼疾風の為に、ラルーチェの暴走を止めて欲しいって」
......誰、何だろう。師匠の恋人とかかな。けど、大事な人だと思う。
「......それで、アリッサはどうしたいの?」
そして、何も考えずにこう聞いた。ずっと、僕が聞きたいことだったかもしれない。
「......助けたい。私も、私の信じたことを貫きたいの」
「!」
アリッサの両手が、震えてる。それを見て、僕は何か綺麗な気分になった。
そっか。これが、本心なんだね。
(ずっと、「誰かの為に」が基本だったよな。地底の国の人の為とか、司令官の為とか)
今回も、師匠の、犬飼疾風の為に戦う気だ。
(......嫌いな人は、それが偽善に見えるのかもな)
僕も、荒れている時代は「元祖アリッサ」のアンチ掲示板に行ったことがある。そこでは「偽善だ」「所詮は元敵」「スキンシップがうざったい」などの言葉があった。
けど、よく考えれば、「兵士アリッサ」の頃も似たようなもの。本質は、昔と同じだ。
(......変わっているのは、姿だけ。本人は捨てたつもりでも、兵士時代の心は、おんなじだ)
そう、思った。辛い時、ずっと隣にいてくれた彼女は。
今、ここにいる。その正義感は、自分がどう見られようと構わない。どこまでも真っ直ぐな、彼女が。
「行っておいで。君の気持ちに、正直にね」
僕はアリッサの背中を軽く叩く。司令官として、彼女を愛する者として、これが最大限だ。
「うん! いってきます!」
彼女は、懐からライフル銃を取り出した。そして、走り出した。
自分の気持ち、それだけを信じて。
アリッサも、参戦か。これには、相良がアリッサを受け止めた結果だね。
姿も言動も変わっても、根っこにあるモノは変わらない。
その変わらない気持ちがあれば、きっと未来も明るいね。
次回『CODE:Partner』第五十五話『その果て』
その愛は、プログラムを超える。




