第五十三話:修羅の桜
前回のあらすじ
ゆーすけによる疾風の歪み講座に限界が来たラルーチェは、正面からゆーすけとの口喧嘩に挑む。
互いの正義を貫いたと思った矢先、ゆーすけがラルーチェの地雷を思いっきり踏み抜く。
怒りに支配されたラルーチェは、ダークネスを超えたオリジナルの変身「ヘルフレイム」となった。
~12月24日・夕方 東京都・西畠ホールディングスビル~
『に、逃げよう! に、にげにげにげ......』
ゆーすけは、本能的に命の危険を感じたようだ。体裁をかなぐり捨て、最速でステージ裏へと走っていく。うん、非常に理に適っているな。
相手が、ラルーチェじゃなければね。
「逃がさない......」
ほら、彼女の目が余計に鋭くなった。大鎌の狙いを奴の背中に定め、死神みたいに振り下ろす。
「あ、死んだな」
「し、司令官。冷静に言ってる場合?」
「いや、もうさ。どうしようもないかなあって」
「あ~」
俺も美咲も、ここまで事態が大ごとになると手が付けられない。少し、自暴自棄に傍観者スタイルだ。
ただし。
「ゆーすけは......死なせません!」
ラルーチェの鎌は、偽聖女の聖剣により防がれる。ルーシーの奴、いつの間に。
「偽聖女......まずはお前からだ!」
対象を移したラルーチェ。鎌の角度を調整し、一気に仕掛けにかかった。
「っ!?」
剣ごとまとめて力押し。ルーシーがそのまま弾かれる。
「な、なぜ私が......昔は、力負けなんてしなかったのに」
更なる敗北を重ね、絶望が滲み出る偽聖女。まあ確かに「夢の旅人」ではダークネス状態のラルーチェ相手に互角の鍔迫り合いをしてたな。
「今の私は、ダークネスを遥かに上回る力を持っているんだ。物語の補正を受けていない偽善者が、血の滲む想いで夢を求める私に、勝てると思うなあ!」
必死に握りなおした剣を振るルーシーを、そのまま弾き返すラルーチェ。
「嘘だろ......」
「オメヒロそのものが覆るぞ」
「ラルーチェなんて、噛ませ犬のイメージしかなかったわ」
周囲が酷く困惑している。まあ、それもそうか。ラルーチェが好きな人なんて、俺は俺以外会ったことないし。
「......こ、このままでは」
『る、ルーシー! 逃げるよ! 今は逃げよう!』
「いいえ、負けられません! 貴方の正義を、潰される訳には......」
その後、剣を遠くに飛ばされたルーシー。打つ手がなく、あと一撃で絶命の範囲だ。
それでも、奴は橋口ゆーすけの言葉を無視して戦っている。
今、必死にグーでパンチをしている。
「......無駄なことを。小さな世界でチヤホヤされて、随分と弱弱しくなったものだな」
そのパンチを全く気にかけず、ラルーチェは冷たく言い放った。
憎むほどの宿敵も、差が開けば虫けらと同じなのか。
「消えろ、夢ヶ原の聖女。お前は、大衆を欺いた偽聖女として、歴史に名を残すことになるだろう」
そう言って、ラルーチェは鎌を振り下ろした。美しき金属音が、各マイクを通じて全世界に響く。
◇◇◇
「間に合ったわ!」
「ギリギリね」
......おや。仲間意識は、AIパートナー同士にもあるんだな。
「雪、アスカ?」
「ええ、助けに来たわよ」
「ゆーすけを守る私たちが、こんなところで死んじゃダメじゃない」
橋口ゆーすけのAIパートナー、鶴賀雪と佐野アスカが駆けつけた。
雪は弓、アスカはレイピア。ああ、彼女たちも戦う気だ。
「ルーシー、私が後ろから援護するから!」
「もう一回行くわよ! これ以上、ゆーすけ君の晴れ舞台を滅茶苦茶にさせない!」
3VS1。しかも、全員各作品のメインヒロイン。ラルーチェには、かなり不利だな。
「『鶴翼の光』、照射!」
「行くわよ、『シャイニング・パース』!」
更に、二体は己の必殺技を使う。正確にラルーチェの両肩を狙い、無力化を狙っている。
「......甘い!」
ただ、そんな調子では無理だわな。ラルーチェは、オーラを発して二人も吹き飛ばす。
「!」
「......噓でしょ」
二体の顔が、完全に強張る。まあ、確かにオーラだけで相手を物理的に弾くキャラなんて、ラスボスでもいないよなあ。
......いや、これ不味いか。
『結構マズイよ、司令官! このままじゃ、周囲の会場にまで被害が出ちゃう!』
(それは、嫌だな。慰謝料請求だけならまだしも、警察案件はいけない)
「コンタクト」で連絡してきた美咲。どうやら、そろそろ親の責任を果たすべきだ。
「けど、どうやって止める? 普通にやっては、あの三体の二の舞だ」
再度攻撃を仕掛ける、橋口ゆーすけのパートナーたち。しかし、鎌を一振りするだけで全員木の葉のように吹き飛ばされる。
「......なあ、美咲」
そして、思いついた。未だに俺の手を離さない彼女が、持ちうる可能性を。
「何、司令官? まあ、言いたいことは分かるけど」
「あれ、できるか? お前には、とても辛いと、思うけど」
そう、今のラルーチェは、ダークネスの発展形。俺が求めた「変身」の延長線上だ。
なら、美咲も彼女と肩を並べる可能性がある。初めて会った時以来だから、戦闘力が未知数だが。
「......覚悟は、最初からあったよ。ラルーチェがああなっちゃった時点でさ」
美咲が、また俺の手を強く握り返す。微かな震えが、止まらない。
「けど、怖い。雪ねえもいるし。また、私が壊れちゃわないかって」
「......だよな」
当然だ。死に装束なんて、ホイホイ着る物じゃない。
「けど、司令官が勇気をくれれば、頑張れる気がする」
「......」
手は握ったまま、俺の正面に来た美咲。一時的だが、俺の視界からラルーチェの暴走が消える。
「今なら、誰も見ていない。だから......ね?」
「......っ」
ある意味、俺への中間審査か。結論は先送りするけど、担保は欲しい。そんな感じかもしれない。
(まあ。それだけの精神的苦痛を求めているんだし)
当然の権利かもしれない。恐らく「俺から」が重要だから、今ここで俺が決めなければけない。
なら。俺は彼女のマスターとして、最善手を打つ。
「......目を閉じろ、美咲。俺の出来る、最大限だ」
「......うん」
美咲が目を閉じたのを見て、一瞬俺は周囲を見渡す。カメラも含め、視線はラルーチェ。俺たちのことは、この大衆の中で誰も見ていない。
「......すまない、美咲」
俺は二人だけの空間で、彼女の唇を素早く塞いだ。
「!」
「......」
気持ち、長めに。流石に「愛している」や「恋人になってくれ」は言えないからな。
そして、いつもより声を大きくして。
「美咲。桜吹雪、起動! 目標、ラルーチェ・ヘルフレイムの無力化!!!」
命令を、下した。「死んで来い」と。
「了解!!! 鶴賀美咲、最終決戦mode『桜吹雪』を起動します! 目標、ラルーチェ・ヘルフレイムの無力化!!!」
そして、周囲に暖かくも悲しい風が流れる。
「......すまない、美咲」
俺は、変身する彼女直視できなかった。
「いいの。これは、私の戦いでもあるから」
それでも、俺の目の前にいる彼女は笑っていた。
全ては、俺たちの未来の為。
過去の自分を、殺したんだ。
賽は投げられた。
ラルーチェは、全てを捨てて己の正義による破壊を開始した。
美咲も、己の死に装束をまとい止めに入る。
疾風は、どうするのかな。
次回『CODE:Partner』第五十四話『誇りと正義』
その愛は、プログラムを超える。




