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CODE:Partner  ~その愛は、プログラムか、それとも本物か──。~  作者: 里見レイ


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第五十話:相良と山名と大内巳隆

前回のあらすじ


疾風の決死のカウンター技「ジャッジメント・バーン2」がさく裂し、天秤が大きく揺れる。

勢いそのまま攻めこむ疾風と、必死に守る相良。

勝利の女神は、疾風に微笑んだ。

~12月24日・夕方 東京都・西畠ホールディングスビル~


「......負けたあ」


 椅子から、ゆっくりと崩れて床に寝る。あ、握手忘れた。

 礼儀だからね。しっかりしないと。


「ありがとうございました」


 師匠が、犬飼疾風が手を差し出してくる。顔に安堵は見えるけど、まだ緩んではいない。


「あ、ありがとうございました。とても、楽しかったです」


 けど、僕は何もかもがスッキリしている。だって、ユリ・ハヤテは今も強かったから。

 色々あったと思うけど、僕の師匠は昔のまま。憧れは、消えなかった。


「けど、なあ」


 だからこそ、思うことがある。師匠のあの悲し気な目。正直、受験とかが原因と思えない。

 リリィとの想い出以上に、傷になる出来事があった気がするんだ。


「師匠の攻撃、昔と比べて感情的だったよな。無駄な技もあったし」


 もしも、師匠がかつて教えてくれた「無駄を省いた最高効率の動き」に基づいていたなら、僕はもっと簡単に負けていたはずだ。


「何でだろ? 誰かに教えられたのかな」

「そうだねえ。彼なりに、世間への対応を考えた結果だと思うよ」

「そうね。世間を味方につけるべく、多少のエンタメも取り入れたって感じかな」


 ......えーと。

 空を見上げた僕の視界に、少年と女性が入ってくる。


「山名トワさん、ですよね? さっきまで、解説席にいた」


 記憶が正しければ、この人プロゲーマーだよね。形国を含めた戦闘系の。


「ええ、こんにちは」

「はい、こんにちは。それで......」


 彼女の隣にいる人は、誰だろうか。弟、にしては顔が似てない。恋人、にしては年が離れているし。


「ああ、僕? 僕は大内巳隆。どこにでもいる世界の住人で、彼女の元クラスメイトでもある」

「く、クラスメイト?」


 確かに、少年は「クラスメイト」と言った。僕と、同い年くらいに見えるんだけど。


「ねえ、巳隆。初対面の子にそれは言ったらダメでしょ!」

「けどさあ。その方が面白くなると思うんだよね。山名だって、このまま蚊帳の外は嫌でしょ?」

「まあ、確かに最近退屈してるけど......じゃなくて! 無関係な若い子を巻き込むなって話!」


 な、何となくしか知らないけど。解説席の山名さんとは完全に別人に見える。

 本当に、昔の知り合い・クラスメイトだってことが分かるなあ。


「それで、僕に何か?」


 ただ、僕も疲れてるからね。身内の話は別のとこでやってよ。


「ああ、すまないね。お疲れだろうし、君に軽いアドバスをして終わりにするよ」

「アドバイス、ですか?」


 それ、僕の応援だったら決勝の前にして欲しかったな。いや、そもそも何のアドバイスだろう。


「うん。これから君が長い戦いを繰り広げる。友達とも、師匠とも、これから刃を交えることもあるはずだからね。その為のアドバイスさ」


 なる、ほど。先を見据えたアドバイスなら、今がベストってことね。


「そうですか。似たようなことを、アリッサにも言われた気がします。ゆーすけと、いずれ夢の為に戦うって」


 そして、その為に自分が傍にいると。正直、ゆーすけと戦いたくはないけどね。


「はは。それは、君自身が一番分かっているんじゃないのかい?」

「......」


 巳隆と名乗った少年が、グッと顔を寄せてくる。凄く、近いのに、避けられない。


「橋口ゆーすけは、他ならぬ『君の行動』に感化されて動き出した。そして、一緒に『犬飼疾風と向き合う』これが、共通の目標だったはずだ」

「え、ええ」


 な、なんで。僕の家で話したことを知っているんだろう。その話、ゆーすけが他の人に話したのかな。


「あ、ちなみにゆーすけ君は誰にも話していないよ。僕は後から見ただけだから」

「???」

「......巳隆、本題以外の情報をあげすぎ。混乱しちゃうよ」

「あ、ごめん」


 そのやりとりも、僕には混乱の元なんだよねえ。


「まあ、要するに。夢の為に誰か仲の良い人と戦う時の気持ちについて話がしたいんだよ。僕らも、一番大切なものを守るために、同級生と殺し合いに近いことしたんだし」

「......え!?」


 殺し合い。この現代日本でってことだよね。それとも、どこか遠い世界の人なのかな。


「大体、十年前の日本でだよ。あと、殺し合いと言っても、ヤンキーの喧嘩みたいなものだったけどさ」

「......実際に入院患者大量に出しといて、喧嘩ってレベルでもないけどね」


 山名さんが、否定をしていない。ということは、本当のことなんだ。


「それで、その殺し合いになったらどうすれば良いんです?」


 なら、聞いてみよう。今の時代に、そんな修羅場を経験した人そんな多くないだろうし。


「簡単だよ。一番を決めて、それ以外を捨てる。そうすれば、後悔はないから」


 巳隆の目が、黒ずみ始める。彼の一番は、そんなに重たいものなのか。

 それを聞いたら、殺してきそうな目だった。


「僕の、一番?」

「そう、一番。同率は、なし。その一番の為に、命を捨てる。そうすれば、君とその人のハッピーエンドが作れるからね」

「......」


 お、重たいな。この人、堂々と「命を捨てる」って言ったぞ。

 ま、まさかだけど、この人幽霊だったり......。

 そんな好奇心に似た恐怖心で、僕は恐る恐る手を伸ばす。そのまま、彼の左肩に触れた。


「おやおや、どうしたんだい?」


 触れた、ように感じただけだった。気が付くと、彼の姿が消えてる。


「......え?」


 そして、僕の頭の向こう側から声が聞こえた。


「いつの、まに?」


 本当に、幽霊なのかな。それとも、ただのマジックか。


「ほら、言ったでしょ? 僕はどこにでもいるって。だから、自由に存在を移動させられるんだ」

「......はあ」


 よく、分からないなあ。けれど、頭が変な人か存在そのものが変な人なことは分かった。


「まあ、僕の存在については時が来たら分かるかもしれないね。だから、その前に君の夢を叶えて欲しいね......」

「夢、ですか。正直、よく分からないですね」


 本当だ。結局、僕は現状が嫌で走り続けただけだから。夢なんて、ない。


『それなら、尚更「一番大切なもの」を考えてみてね。絶対に手放したくないものが分かれば、自ずと夢や行動が決まってくるから』


 今度は、耳元から声が響く。地面との間にスペースはないので、振り向いても姿は見えない。


「正直、君の選択はとても辛いことになると思う。君を大事に思っているあの娘たちの、どちらかを切り捨てる決断もするだろうね」


 そして、正面に戻ってきた大内巳隆は、真剣な面持ちでこう言った。

 捨てる、あの娘たちって、アリッサとキリハのことだよね。


「その時に、自分の軸を用意しておくと良いよ。後悔、したくなければね」

「......」

「じゃあね。また、何処かで会おう」


 そう言い残し、大内巳隆は音もなく消えてしまった。慌てて周囲を見るけれど、何処にもいない。


「......幽霊?」


 やっぱり、僕の中だとこれが一番近いかな。そうだと、「命を捨てる」の重みが違うし。


「まあ、ある意味幽霊なのかな。一回死んだみたいなものだし」

「そう、なのですか」


 山名さんの付け足し説明。もしかして、高校生の頃に何か会って死んだ山名さんの同級生なのかな。


「......まあ、今は分からないと思うけど。貴方もいづれ気付くと思うわ。この世界って、大事なものが多すぎるってね」

「......はあ」


 多分、山名さんも苦しんだんだ。そんな話し方。


「ってことで、早速ミッションね。貴方の師匠と親友が喧嘩しているわよ」

「え?」


 山名さんの指さす先には、ゆーすけと犬飼疾風がパートナーたちと一緒に何か話している。

 実況などの雰囲気からして、トラブルみたいだね。


「行ってきなさい。貴方の未来のために」

「え、ええ」


 よく分からないけど、進むしかないよね。僕の未来を、アリッサ・キリハと共に作る為に。

 そして、お姉ちゃんもゆーすけも、師匠も笑えるために。

......久しぶりに、出しゃばっちゃったかな。けど、言わなきゃいけない気がしたんだ。

相良、このままだと「守りたいもの全て守る!」と言い張って内側から壊れそうだったし。

物事、選択と集中なんだよね。


次回『CODE:Partner』第五十一話『疾風の歪み』


その愛は、プログラムを超える。

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