第四十九話:運命の最終戦~急~決着
前回のあらすじ
決勝。互いに牽制を取りながら、「先に隙を見せた方が負け」の睨み合い。その後、相良が大きな優位をつかみ取る。
そんな戦いぶりを見て「殺し合いみたい」と言う人もいる中、戦いは大きく動きだす。
~12月24日・夕方 東京都・西畠ホールディングスビル~
「ジャッジメント・バーン2」発動。これは、今作で初登場した最強技にして最難関のカウンタースキル。
正直、ぶっつけ本番だから使う気はなかったけどな。
「んああああ!?」
そう、このスキルはチャージ時間が長い。そして、鎌を上に大きく回して思いっきり引き、落とす。
「動け、動かない!?」
追加効果として、鎖鎌最長のスタンが入るのも特徴だ。ダメージも大きいし、使ってみるものだな。
「......」
しっかり起き上がり、リーチを確認。一気に決めなければ。
まずは、三回戦で使用した鎖鎌最高の魅せ技「ディメンション・ゼロ」。スキルの溜め時間とはまた別に、三回くらい回転する動作があるから、隙が多くて使いづらいんだよね。
(それでも、今やらなきゃ「勝ち」にならない気がするから)
俺は、求める未来のために次元を切り裂く。回転の勢いそのまま、鎌が綺麗にヒットした。
「!? まずい、完全に終わる!」
「終わるよお」
ゲーム上の「究極奥義」を見せた後は、いつもの最高効率だ。
「......」
「キャスティング・ストライク」発動。俺の鎖から、逃れられると思うなよ。
「ま、まだだ! スタン解除は、できる!」
「!?」
相良が、俺の膝の直撃を受けたにもかかわらず、そのまま逃れた。
何、しやがったんだ。
「前作からの仕様だよ。ガチャガチャ抵抗していたら、低確率でスタンが解除されるのは!」
な、なるほど。そんな見せ場を作られたら、俺の「ディメンション・ゼロ」が霞む。
主役の状態で優勝しても、意味がない。
(今後の為にも、完璧な状態で優勝したい。その為には、こちらに更なる見せ場を!)
だとすれば、あれを使うしかないな。
「っ」
俺にとって、リリィにとって、想い出であり傷でもあるこの技。
鎖を己の手首に引っ掛け、軽く血を流す。その血を鎖に纏わらせ、円を描いた。
「こ、これは!?」
迎撃態勢の相良も、これには驚きを隠せない。まあ、そうだよな。
自分の体力を使う癖に、火力の低いゴミ技だもん。唯一無二の追加効果も場面が限定的過ぎるし。
「......」
けれど、俺はこの技を選んだ。ある意味、ずっと待ち望んでいた。
俺たちの、王国再興。始まりの技。
血みどろの鎖が空中で円を描き、大きな鎌が振り下ろした。初代経験者なら、誰もが呻く禁断の技。それが「レッド・リリィ」。俺の原点。
「!? これ、まずい?」
流石に、俺より大分下の子でも知っているか。物凄く、苦い反応をしている。
もしかしたら、試合を見ている俺の相方たちも良い思いはしないかもな。
「......まあ、悪く思うなよ」
過去を乗り越えるには、必要なんだ。俺も、彼女を胸にしまって、前に進む。その為に、敢えて古傷を抉り、乗り越えるんだ。
(すまないね。噛ませ犬として、少しばかり嫌な負け方をしてくれ)
俺の鎖は、そのまま相良の左肩に突き刺さる。その後、刺さった肩から血飛沫が押し出された。
「......」
「や、やられたあ-」
それと同時に、俺のHPも若干減少した。演出が派手なこと以外、大したメリットのない技。
けれど。
「あ、ヤバイ。見えな......」
「......」
俺は、その隙を見逃さなかった。奴の左側から低姿勢で突っ込み、そのまま鎌の振り上げスキル「ライジング・クロー」を叩きこむ。
「あ......」
黒沼相良は、完全に反応できなかった。そう、「レッド・リリィ」は血飛沫の演出によって相手の視界が遮られる。普通なら、大したことない。
しかし、一瞬が命取りとなるこの場面では、非常に有効に働いた。
「......」
奴の態勢は、大きく崩れた。とどめを刺すなら、今しかない。
「これで......どうだ!」
「ブラック・ライトニング」、発動。分銅が、勝利の鐘を叩きならす。
奴の体が、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
「......あ」
「......ふう」
『決着う! 激戦を制したのは、犬飼疾風選手だあ!』
実況の声が、集中を切った俺の耳に入る。周囲も、歓声を挙げた。
(とりあえず、これで世間から吊るし上げられることは消えたはず)
最悪の事態は回避した。あれだけ大々的に「優勝候補」と言われたんだ。面子は保てたはず。
そして、今後進む俺の未来も、多少は良くなったはずだ。
少なくとも「優勝者」の肩書は消えることはないのだから。
「ありがとうございました」
俺は、倒れ込んでいる黒沼相良に手を差し出す。
「あ、ありがとうございました。とても、楽しかったです」
「そ、そうですか」
楽しかった、か。そんな言葉、このゲームで言ったのは何年前だろう。
ゲームを楽しむことなんて、ずっと昔に......。
『それでは、優勝者インタビューです。パートナーAIも連れて、こちらにいらして下さい!』
と、実況。そうか。ここでうまく答えられれば、何か良い道が開けるかもしれない。
でも、何を話すべきか。AIパートナーを己の相方にして才能を伸ばすってのは決まっているが。
(難しいな。具体的にどんな活動をするのか決めていない)
まあ、選択の先延ばしで院進学を考えている状態だし。何か自分の活動拠点とかが欲しいけど。
質問、次第かな。当たり障りのない優勝インタビューで終わるかもしれないし。
でも、もしもゲームを楽しむ気持ちがまたあれば、何か変わるのかな
「ま、その時次第だな」
じゃあ、俺の相方たちをステージに呼ばないと。そもそも、彼女たちはみんなゲーム出身。楽しんでないけど、好きじゃなきゃ俺はここにはいない。
「おーい! 美咲ー、ラルーチェ!?」
階段の下で待機している二体に声をかける。存在そのものが、想い出の彼女たちを。
が、恐らく彼女らは俺の声に気が付いていない。
なぜなら。
「え、何でダークネス状態?」
ラルーチェが、俺の知らぬ間に闇のオーラを纏っているからだ。
「あ、ちょっとラルーチェ?」
慌てて階段を下る。よく分からないが、普通状態に戻さないとインタビューでリスクがある。
「ふざけるな! お前らに、隊長の何が分かる!!!」
「!?」
俺の、ことか。直後、会談を下り切った足が大きくよろけた。
時が、歪に流れ出す。
......終わったね。一流同士の勝負でも、決着は思ったより早いもの。
関ヶ原が、一日で決着したのと同じかな。
さて。良いもの見れたし、お礼に声でもかけて来ようかな。
次回『CODE:Partner』第五十話『相良と山名と大内巳隆』
その愛は、プログラムを超える。




