第四十八話:運命の最終戦~破~牽制
前回のあらすじ
決勝戦が幕を開ける。周囲の声を聴き、コントローラーを握り締め。パートナーの想いも背負って戦う。
そう、己と大切な存在の執念の為に。
~12月24日・夕方 東京都・西畠ホールディングスビル~
『では、決勝戦スタート!!!』
実況が、遂にゴングを鳴らした。俺は、鎖鎌。黒沼相良は、短剣。攻撃範囲は、俺の方が圧倒的に広い。
が、今までの動きを見る限り不用意に突っ込むと危ないよな。
「なら、様子見だな」
俺は、歩きながら奴の三歩周りを回る。奴の俊敏性を考えるなら、この距離がベストだ。
「ふーん。相変わらず慎重だなあ。だったらあ」
と、黒沼相良。「ダイ・シャ・リン」で先制攻撃を仕掛けてきた。その回転、反撃しずらいのだよ。
「......」
ギリギリのラインでかわし、「ジャッジメント・バーン」を試す。しかし、スキルのチャージが溜まる頃には距離を取られていた。
「ふむ」
ターン制バトルではないからな。もう少し様子を見よう。如何せん、体勢が崩れやすいのも、必殺技の火力が低いのも、こちら側。下手に動けば自滅する。
それを見て、向こうも様子を見る。
昔からそうなんだが、形国って「隙を一瞬でも見せたら負け」のまさに決闘ゲーム。火力の高い強力必殺技にスタン効果のある実質一撃必殺まで、多種多様な落とし穴が存在する。
(だから、上級者同士だと様子見合戦になることもあるんだよなあ。プレイスタイルにもよるけど)
どうやら、俺も彼も「相手の出方を待つタイプ」らしい。これじゃあ、膠着するよ。
「おいおいユリ・ハヤテ! ビビってない、でとっとと攻めろ!」
「優勝する気あんのか~?」
「......」
こんなヤジ、慣れっこだ。その程度で動揺しては、中学でも勝ち上がっていない。
「......」
ただ、硬直するのは俺も好みではない。挑発も兼ねて、あれを使おう。
俺は鎖を天に持ち上げゆっくりと回転させる。一定時間スキルの命中率とダメージ量の上がるスキル「スターライト」だ。
「!? ......ならば」
挑発成功。まあ、互いに様子見し合うタイプの上級者相手なら、かなり効果的だよね。
奴は、そのまま短剣の初級スキル「ザン・テツ」を繰り出す。初歩の技も、極めれば洗練された一撃になる良い例だな。
そして、この挑発は、挑発だけじゃない。
(短剣の初期スキルだけど、命中率が上がれば!)
「ジャッジメント・バーン」発動。大技でなくとも、正確なルートを描けば、発動できるんだよ。
「!!!」
奴は、退かない。むしろ加速した。そして、彼の後ろ髪に微かな火花が飛びついた。
(なるほど。むしろ前に進んでかわしたか)
読まれてた、訳じゃないよな。多分、本能的な回避だ。
となると、本能的なカウンターが来るな。
「......」
俺は、そのまま勢いで前に出る。ゲーム画面だから分かるが、直後に俺の背後が黒く切り裂かれていいた。なるほど「ヤミ・ノ・テ」か。
「......危なかった」
「これかわす......?」
互いの独り言が、小さく聞こえる。正直、油断すると声が聞こえるくらい精神が摩耗しているな。
その割には、あれだな。周囲の観客の声は聞こえなくなった。
「まあ、いい」
ラルーチェに、美咲に、リリィに。俺の力を見せるんだ。
そして、まだ分からないけど、証明する。
俺が、正しい道を歩んでいるってことをな。
◇◇◇
うーん。参ったな。挑発に乗って体勢を崩しにかかったは良いけど、まさかあんなカウンター受けるなんて。危なかったし、チャンスだったのに、それもかわされたし。
「......」
師匠が、黙々と鎌を振てくる。淡々とかわすけど、反撃に転じられない。
参ったね。
『相手が攻めて来なくてカウンターが出来ない時? うーん。俺なら挑発するかな。自分の能力を高めるスキルを堂々と使用して、攻めないとヤバいって焦らせる』
師匠は、昔から変わっていない。十年以上、自分の戦法が一貫しているんだ。なら、記憶をもっと探ってみれば。
『嫌なこと? まあ、大抵は大丈夫だけど。うーん......あ。遠距離からネチネチは嫌いだな。このゲームだと、ほとんどないけどさ』
「! だったら!」
僕は、短剣を手で量産し矢継ぎ早に投げつける。今作から登場した短剣スキル「ミダレ・ウチ」を発動する。しかも、今大会初使用だ。
「ん!?」
師匠が、ユリ・ハヤテが、犬飼疾風が動揺した。僕の攻撃に対し、かなり大幅に後退した。そして、彼の強みである「足元」がズレた。
「今だ!」
僕は、十八番の「フライング・ドライブ」を若干遠くから叩き込んだ。
「!」
すかさず、彼はかわす。しかし、さっきと違い態勢が大きく崩れた。
「そこ!」
今までずっと温めてた、最強コンボ。単発の短剣振り下ろしスキル「エンマ・ノ・テッツイ」→突き上げスキル「タキノボリ」を叩き出した。
打ち上げられる、ユリ・ハヤテ。
「......」
その間。師匠は静かにしてた。もしかしたら、途中から操作すらしていないかもしれない。
「なら、油断しないで......」
しっかりと状況を確認し、僕はカウンターされにくい「フライング・ドライブ」を選択。
「......」
「ーーーーーいけ、決まれ」
直後、天から運命が振り下ろされた。
◇◇◇
「......へえ。何か、殺し合いしてるみたいだな。このゲームって、そういうのなの?」
決勝の二人が互いに牽制に入ったタイミングで、父上はこう呟いた。
「どういう、ことですか?」
「まあ、何となくだからあれなんだけど。『人生』をかけた戦い方に見えるんだ。お前が負けた理由の一つに、その執念の有無はある気がするんだよ、元彦」
父上のその目は、かつての修羅場を話していた時と同じだ。ああ、そっか。父上は本当に殺し合いをしていたんだな。
「元彦~貴方のお父上は、かなーり堅い人ですから、真に受けると息苦しいですよ」
「は、母上!?」
何故、僕の準決勝でなくこの決勝のタイミングで来られたのでしょうか。そして、ミサは置いてきちゃったのかな。
「ミサなら、展示スペースにいますね。チャチャコも一緒なので、大丈夫かと」
「そ、そうですか」
「それにしても、秀介様。若い子たちの真剣勝負を見て毎回『殺し合いかな』と考える癖は控えた方が良いですよ。そうしないと、秀介様が心を痛め過ぎちゃうので」
と、母上。僕の考えはお見通しだし、父上へもかなり的確なアドバイスだ。
「......ああ、すまぬ」
「ほ~ら~。また口調が戦国に戻ってますよ。もっと気楽に気楽に」
「だったら、お前も様付けを辞めろ。落ち着かない」
「ドキドキする、間違いでは?」
「やめろやめろ、子供の前だぞ」
あ、また始まった。この二人、かなり変なイチャイチャするんだよね。
多分だけど、例え第二世代ユニークパートナーAIでも再現不可でしょ。
「ん~」
そう思うと、大会前から大々的に「AIパートナーとの共存」を言っているこの決勝二人はかなり変だよな。科学技術を信用しすぎてるし、人を信用していない。
人間臭すぎる両親を見ていると、僕にはそう見えてしまう。
「黒沼相良の言う『家族』も、犬飼疾風が言う『相方』も、どっちも人間で良いじゃん。なんで、自分の妄想とゲームのキャラを組み合わせて作るんだろ。色々、不便そうなのに」
そう思うのは、この「AI信仰」の強いこの会場の中では僕だけだろうな。
まあ、しょうがないよね。
父上の「興味がある。けど、年齢的にもゲーム的にもお前の方が適任だ」のせいで出場しただけだもん。自分のAIパートナーも、スタンダード一体だし。
以上、傍観者「井田元彦」でした。
決勝、どうなるんだろうなあ。
山名さんって、あの二人のこと「人」としてどう見る?
え、うん。そっか「貴方の兄に似てる部分はあるよね」か。まあ、確かにどちらもお兄ちゃんみたいな強い執念持っているね。
あ、うん。それだけじゃくて、敵への容赦のなさも同じ? まあ、そうかもねえ。けど、お兄ちゃんの方が鬼畜だよ?
はは。まあ、これからか。そうだね。こっから残酷になるかもね。
次回『CODE:Partner』第四十九話『運命の最終戦~急~決着』
その愛は、プログラムを超える。




