第四十七話:運命の最終戦~序~開幕
前回のあらすじ
ゆーすけ一行と話をした相良たち。アリッサに「ゆーすけは危険」と言われ、相良は互いの「夢」で対立する未来を考える。
けれど、もう彼はその程度で揺らぐ精神ではなかった。自分と同じ立場ではなく、自分を補ってくれるアリッサが隣にいるから。
~12月24日・夕方 東京都・西畠ホールディングスビル~
『さあ、いよいよ待ちに待った決勝戦です!』
実況が、声を張り上げてこう言う。ああ、やっとか。
「......隊長、落ち着いて行けよ」
「ああ、分かっているよラルーチェ」
俺の背中に軽く手を触れるラルーチェ。若干震えているのが、後ろからでも分かる。
「司令官、負けても大丈夫だから。背負いすぎないで、気楽にね」
「そ、そうか」
これは、美咲が言った言葉。そうか。この戦いの後は、俺も自分の進路も大きく変わるよな。
勝てば、本格的に世の中に対し優位が取れる。負ければ、以前以上に非難の的となる。
「......色々、分岐点に立っているのか」
分かっていたはずだ。けれど、どうにも。世間の目と自分の認識が合致しない。
勝っても負けても、俺は日常に戻る。そんな気もしているんだ。
「じゃあ、いってくる」
「ああ」
「気楽にだよ!」
二体に見送られ、俺はステージへの階段を上り始めた。そうか。就活終わったばっかなのに、また人生の分岐点にいるんだな。まるで、一年おきに決断させられる芸能人みたいに。
「......あれ?」
そして、俺は思った。もう、普通の人生が送れないかもしれないと。知名度は、この大会以前からネットの一部で跳ね上がっている。そして、大会がテレビ放送されたことで「犬飼疾風」を知る人は数万人単位になっただろう。下手な芸能人より、有名だ。
「......」
周囲を見渡す。そして、聞き耳を立てる。
「へえ。あれが犬飼疾風か。ゲームキャラ二人侍らせて、三人目も狙っている」
(違う、リリィのAIはおまけだ。ただ、俺は。俺の強さを世間に見せつけ、反論を黙らせたかっただけなんだよ!)
この陰口で気付かされた。
そうか。大会参加者の大半は「形のない王国キャラのパートナーAI」が目当て。俺みたいに「戦いに呼ばれたから参加する」人なんて、他にいないのだと。
「てか。ラルーチェに美咲って結構気取ってるよなあ。王道キャラから一歩外れた感じが格好いいとでも思ってんじゃないのか?」
(ふざけるな! 俺の好きなキャラを不人気とする気か!?)
公式で別フォルムが出ている時点で、不人気な訳ないだろう。それに、二次創作の数も少なくないんだからな。昔の俺なら、ネットにこう愚痴を書いていたかもしれない。
階段を一歩上るたびに聞こえる、俺への悪意。一種の有名税か。
そして、極めつけはこれ。
「あいつ、何考えてるかよく分からないんだよな。AIを道具でも恋人でも家族でもない感じなんだろ?」
「どれも違うなら何だって話だよな。もしかして、奴隷だったりして」
「あー、ありえる! さっき、AIに膝枕させてたらしいし。道具以上に便利な扱いって奴か」
(......まあ、そう見えるよな)
俺が、二体に甘えてるから。噂で広まっている俺の「AIパートナーとの共存」の実像から矛盾している。それ故に、俺の言動に信頼がない。
下手な悪口より、こう言った真っ当な非難の方が心に来る。俺の弱さを、責められているから。
「......」
要するに、俺は現段階でメディアで称賛される人物ではないということ。まあ、そうだよな。有名になっている理由はネットの写真拡散だし。俺自身が特別なアプローチをしたわけじゃない。
(知らない間に、何かを成した気だったかもな。この大会中、もしかしたら天狗になっていたかも)
俺は、何も変わっていない。悩んで、考えて、今出来そうなことをやっただけ。大したことは、していない。この大会でも、初心者相手に昔取った杵柄を振り下ろしただけ。
何も、できていないんだ。
何も。
「よろしくお願いします」
「よ、宜しくお願いします」
そうこうしているうちに、俺はステージに立っていた。挨拶を交わし、席へと座る。
「......まあ、とりあえず勝とう。そうすれば、俺がどれくらいの男か分かるだろうし」
◇◇◇
『さあ、いよいよ待ちに待った決勝戦です!』
「......行ってきます」
実況の声と共に、僕は最後のスイッチを入れた。分からないことは、まだ沢山ある。けど。
「いってらっしゃい、ハニー!」
「うん......」
アリッサが、笑顔だ。僕の気持ちの整理を見て、彼女もいつものテンションに戻りつつある。
結局、傷をなめ合うのは健康に良くないってことなのかな。ある意味、真実を知る前より気楽だ。
「気を付けて、お兄ちゃん」
「ああ」
そして、キリハ。逆に、彼女の目は若干暗くなった気がする。理由は、分からない。
キリハって、本編でも抱え込むキャラだった気がするし、本心不明な気もするんだよね。
明るい時は、それでも良かったんだけど。
(まあ、あとでかな)
せっかく悩みが消えかけているんだ。今は優勝して、次の笑顔を目指そう。
「あ、これが噂の相良か」
「思ったよりカッコいいじゃん」
「私、彼が優勝したらお食事誘おうかな~」
ゆーすけの根回しのおかげかな。僕の評判は良いらしい。さっき聞いた師匠の悪評とは大違いだ。
(......ゆーすけ)
そういえば、彼の目的、てか夢ってなんだ。お父さんを恨んでいるのは知っているけど、他って。
身内には優しく、敵には容赦しない。誰よりも恵まれていて、誰にも慕われそうな彼の、求めているモノってなんだ。
(互いに、中学以降は自分のことで必死だったから。その辺、わからないなあ)
この前の徹夜ゲームも、途中からこの大会の企画会議だったし、本心が知らないや。
「......まあ、いっか。将来敵になるとしても、幼馴染なんだし」
少しくらいのすれ違い、関係ない。僕は、ゆーすけを信用している。それで良いじゃないか。
そう思い、僕はステージの前に立つ。
「よろしくお願いします」
「よ、宜しくお願いします」
師匠、何んか考え事してたな。声が上ずっていたよ。
ま、ガッカリさせる戦いをしないでね。
「勝つのは、僕だ」
コントローラーを握り締め、画面先の短剣を見つめる。
さあ、始めるよ。十年越しの夢の対決。
師匠に、ユリ・ハヤテに、僕は勝つ。
それぞれ、抱える物はあるけど決勝に集中する構えだね。これ、吉と出れば良いね。
だってそうでしょう。アストラ・シークエンスは因果の巡る世界、知らない間に蹴とばしていた道端の石ころが遠い未来に大岩となって自分に襲い掛かってくるんだからさ。
次回『CODE:Partner』第四十八話『運命の最終戦~破~牽制』
その愛は、プログラムを超える。




