第四十六話:相良の未来 後編
前回のあらすじ
会場の後ろ側で、ラルーチェ・美咲と話をする相良。そして、少しずつ、アリッサが今の姿をしている理由を探るのだった。
~12月24日・夕方 東京都・西畠ホールディングスビル~
「やあ、楽勝だったね」
ステージに向かう途中。今度は友と遭遇する。ゆーすけ、負けたのに落ち込んでないな。
「......まあ、うん。楽な相手だったし」
とりあえず、こう答える。それより気になるのは、彼の左右だ。
「彼らの正義は何も世の中を分かっていない空想の産物です。なにも捨てる覚悟もないくせに、自分は全てを欲しがり周りを善意と銘打って暴力を振るう。そんなもの、そんなもの、許すわけには......」
「......アリッサ。貴方はあの過去を知って尚彼の隣に立つつもりなのね。なら、良いわ。けど、こっから先は容赦しないわよ。司令官の夢の為、微かながらに残っている裏切者の汚名、突かせて貰うわ......」
ゆーすけのパートナー、ルーシーと雪。共に、殺意に溢れている。一人は、僕のアリッサが原因だけど。
「それで、決勝で師匠と戦うのはどんな気持ちだい? 彼、僕らの思った以上に強いけど」
「まあ、そうだね......」
思えば、年齢が違いすぎて大会では戦ったことなかったな。どう、なんだろうな。
「楽しむつもりだよ。ここで勝とうが負けようが、僕は君の戦いに参加するつもりだし」
「うん、ありがとう。その言葉で、安心した。僕らはいづれ、君の師匠に勝たなければいけない。けど、それが今じゃなくても良いからね」
ふーむ。そうなると、長い目を見た戦いをするべきだな。
「そもそも、あの男は正義が何たるかをはき違えています。誰かを殺すことが正義、見捨てるのが悪というのなら、あべこべです。私は、まだ見ぬ誰かの為に今助けられない命を優しく埋葬するだけなのに!」
「......司令官とご友人は、しっかり未来を見ている。ならば、私も少し矛を収めましょう。しかし、司令官が袂を分かつと決めた時は、私も......」
ゆーすけのパートナーの反応は、真逆か。厄介なのは、背中を向けた途端に刺されそうな雪だけど。
「じゃあ、剣を交えて色々聞いてみるよ。師匠の目指す未来が本当に僕らの夢の邪魔になるかも含めて」
「そうしてくれ。僕も、僕の未来のために頑張るから」
「決勝戦、『応援』よろしくね」
「勿論」
こうして、僕らは互いの夢の為に一度解散した。ゆっくりと、己の道を考えながら。
◇◇◇
「ねえ、お兄ちゃん。さっきの会話、どういう意味?」
ゆーすけたちと別れて二分後、キリハが僕に聞いてくる。
「ああ、確かにチョット分かりづらかったか。何て言えばいいのかな」
僕は、上手く言葉が見つからず、詰まっていた。長年の付き合いからの勘が一番正しいのだろうけど、それじゃあ説明にならないし。
「スキャンする? お兄ちゃんが、良ければだけど」
それに対し、キリハが最善の提案をしてくる。まあ、無断じゃなければ別にいいよね。
「ああ、お願いする......」
「待って!」
......!? え、今なの。僕は、想定外過ぎたストップに一瞬フリーズした。
「どうしたの、アリッサ?」
「考え、させて欲しいの。ハニーのこと。あと、みんなのことも。私、自分の気持ちばっかで、真剣に向き合ったことないから」
僕の手を両手で握り締め、悲し気に、必死にアリッサはこう言った。
「私、ハニーのこと少しだけ分かったの。とっても苦しく過ごしてたって、ただの秘密をオシャレにしていた引きこもりじゃないんだって!」
「......あ、うん」
え、僕の印象酷くないかな。下手なゲームの闇背負っている系主人公(笑)じゃん、それ。
「ハニーは、生まれた時から背負っているモノが違う。だから、私ではわからないかも。けど!」
戦場でもなく。けれど平和な家の中でもない。どこか、大事な場所で演説するかのようにその目は、声は、僕に強い気持ちを訴えかけている。
「私は、どんなハニーも愛してるから! だから、一緒にいたいの! 例え、故郷どころか今いる場所も裏切ったとしても! 私は、ハニーを理解して、寄り添いたい! 昔の私ではできないことを、ハニーにしてあげたいの!」
「っ」
昔のアリッサでは、できないこと。彼女と共に、生まれを恨んで前に進むこと、ではない。他のこと。
「何を、するの?」
分からないから、聞いてみた。正直、アリッサの考えは僕と正反対に近い。考えるまでもなく、質問するのが最善手だ。
「ハニーの過去を、捨てるお手伝いをしたい。そして、ハニーの夢を叶えたい」
0秒で、彼女はこう答えた。過去を捨て、夢を叶える。シンプルだけど、何よりも難しいことだ。
「だから、ハニーの隣に立つパートナーとして、考えたいの。ハニーにとって、橋口ゆーすけがハニーにとって友達なのか、仲間なのか、ライバルなのか、未来の敵なのかを」
「敵......」
そう口に出されると、少なからず戸惑うな。彼とは、それこそ幼いころから細く長い付き合いを続けてきたし、ゲームで言うなら最高の仲間だ。
「多分だけど。仲間だからこそ、ハニーは橋口ゆーすけと戦わなきゃいけないと思う。私も、仲間を守りたくて仲間と戦ってきたから」
「そう、だな」
インフィニティ・バトリオンで地下帝国キャラが味方になる際、必ずアリッサが間を取り持った。しかも、その前に殺し合いを繰り広げて。
その度に、こう言っていたっけ。「みんなで笑っていたいから」と。
「だから、敵になることは悪いことじゃない。殺し合わないと、分からない気持ちだってあるし」
「......」
惰性で、親友を続けてきたのかも、知れない。僕は、ゆーすけを理解できなくなっていた。
それは、彼の母親と会った時。アリッサの過去を、僕の過去を掘り起こして、彼は何をしたかったのだろう。彼らに、何のメリットがあるのか。それを考えていくうちに、僕は考えるのを辞めた。
「ゆーすけは、僕をどう考えているのだろう。何となく、何となくなんだが......」
僕は、言葉を詰まらせる。幼馴染に、親友に、こんなこと言ってはいけない気がしたから。
けれど。
「橋口ゆーすけは、ハニーを『道具』と考えてんだと思う。自分目的に必要な、最も有効な駒だって」
「......」
アリッサは、言うよね。兵士時代なら、自分のこと以外に遠慮していたかもだけど。
このアリッサは、ストレートに。
「そう、か。あの人は確かに、お兄ちゃんを戦力として見てるから。だからって、道具レベルかは分からないけど......」
これは、キリハの発言。ゆーすけのことだから、僕を計算に入れていいると思う。けど、それは何かのリーダーなら皆考えること。将来、何かしらの会社を興すであろう彼には必要な能力だ。
「......」
けど、何でだろう。あらゆる部分が否定しているのに、心のどこかが言ってくる。
『橋口ゆーすけは、危険』
こう、言い続けているんだ。本当に、本当に勘である。
「ハニー、私はね」
また、アリッサが迫る。僕の心に、ゆっくりと、温かいものが溶け込んでいく感じがする。
「ハニーの夢を考えた時、橋口ゆーすけと対立する気がするの。あの人は、親への復讐しか考えてないから、いつか戦わなきゃいけない」
「......」
その復讐も、どこまでかによるけどね。まだ、底が知れないけど。
「ハニーの夢、私は知っている。みんな笑っていられる世界。その世界を、あの人は望んでいないから」
「......そっか」
まだ、未確定だらけの内容だが、今までで一番腑に落ちた。
ゆーすけの闇は、濃くはないけど深くて長い。僕とは違った夢を持っても、不思議じゃない。
「まあ、何にせよ。上手くやるよ。少しだけスッキリしたし」
僕はアリッサの手をゆっくり解く。
「ありがとう、アリッサ。まだ完全にではないけど、君と未来に行ける気がするね」
「! ええ、大好きよハニー!」
「うわっ!」
だ、だから。その体を勢いよく押し付けてくるなって。少し気分が軽くなったので、彼女の言動に対する羞恥心が勝つ。僕に、ないものを持つ彼女。
僕に本当に必要なのは、暗闇を抜け出すために手を引いてくれる人だったのかな。
「......うん」
そしえ、若干視界に入ったキリハの顔は、ほっとしている。けれど、何でだろう。
寂しそうにも、見えるんだよね。
違うからこそ、支え合える。同じだからこそ、忌み嫌う。
生物は、互いの足りない部分を補うようにできている。それ故、喧嘩していても仲が良いし、同じ考え故に仲が悪いこともある。
けれど、目的が違うと敵対関係が決定的になることもある。
はたして、皆はどこにどの関係を置いているのかな
次回『CODE:Partner』第四十七話『運命の最終戦~序~開幕』
その愛は、プログラムを超える。




