表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/43

第二話:因縁の聖女と生みの親

~前回のあらすじ~


都内で開催される「ユニークパートナーズ交流会」に参加した。犬飼疾風と彼のパートナーAIのラルーチェ・鶴賀美咲。

会場の雰囲気や配置の時点で、彼は自分がとんでもなく場違いかもと思う。

そんな中、彼と同じくパートナーAIを二体連れてきた少年・黒沼相良に出会う。彼の虚ろな目は、疾風にとてつもない地雷の匂いを感じさせるのだった。


何故なら、疾風もまた地雷だらけの人生だから。

~12月18日・昼 東京都・西畠ホールディングスビル~


「おまたせ。椅子、借りてきた」

「おお、隊長。おかえり......」

「おかえりなさい、司令官!」


 少々、時間がかかってしまったな。二人は、座って俺を待っていた。


「ごきげんよう。こちらの二人のマスターですか?」


 そして、二人の隣に一体のユニークAI。俺は、この女キャラを知っている。


「ごきげんよう。二人のマスターの犬飼と申します。初めまして、ルーシー・ド・ボアルネさん。夢ヶ原の聖女......」


 二体の前に出て、俺は深々と挨拶する。そして、持ってきたパイプ椅子をその場に広げ、壁になるように座った。


「た、隊長......」

「気にしないで。多分、俺がここに座るのが一番良いから」


 ラルーチェが、心配そうに声を出す。大丈夫、講演会は座って聞いているだけ。下手な騒ぎには、ならない。そうだろ。


「あ、あのさ司令官!」

「ん?」

「私がそこに座っても、良いかな? ほら、そっちの方が見やすそうだし!」


 美咲が、かなり慌てて俺に提案する。ああ、気を使わせちゃったか。


「じゃあ、そうするか。俺、真ん中に座るぞ」

「うん、こっちは任せて」

「す、すまないな」


 あちらのAIはそっちのけ。俺たちはクルクル座席を入れ替わる。これ、事前にそれぞれのゲーム情報を共有させるべきではなかったか。


「おや、ルーシー。お隣さんが来たの?」

「! ゆーすけ、戻って来たのですね!」

「......え?」


 なんだ、今の嬉しそうな声。これが、あの聖女サマからなのか。

 俺が凄い顔で横を向くと、俺より少し背の高そうな男がいた。


「初めまして、ルーシーのマスターの橋口ゆーすけです。よろしくお願いします」


 にっこり笑ったこの男。何と言うか、一目見て「どのアニメにも一人はいる優男」って分かる。


「あ、どうも初めまして。犬飼疾風です」


 俺も慌てて一礼。名札、確認。


橋口はしぐちゆーすけ 17歳 高校生

パートナーAI

ルーシー・ド・ボアルネ(コンテンツユニーク 登場作品「オメガ・ザ・ヒーローズ」)

鶴賀雪(コンテンツユニーク 登場作品「インフィニティ・バトリオン」)

佐野アスカ(コンテンツユニーク 登場作品「形のない王国」)


 ほう。パートナーAIが三体で、全員コンテンツユニーク。この人、結構なヲタクだな。


「今日は、ルーシーとこのイベントを来るの楽しみにしてたんです! 一緒に楽しみましょうね!」

「ええ、宜しくお願い致します」


 え、笑顔がまぶしい。この人、さっきの相良少年と同い年とは思えないな。

 けれども、だからこそかな。


 見ていると、なんか気持ち悪い。


 失礼も承知だが、何て言えばいいのかな。薄っぺらい。いや、初対面だし当たり前か。

 けれども、本当に、えーと、あれだ。

 「良い人そう」以外の感想が出てこない。人畜無害って感じかな。


「隊長」

「ん? どうしたラルーチェ」


 すると、ラルーチェが小声で話しかけてきた。幸い、もう向こうのマスターはこちらに視線を向けていない。


「あのマスター、違和感が凄いぞ。笑顔しか感情が見えない」

「あ、やっぱり? 何て言うか、主体性のないギャルゲ主人公って感じ」


 ラルーチェの一言で、俺の疑問も整理されてきた。そっか、この少年。

 自分の色がないんだ。

 AIパートナーたちも、各ゲームで男性人気の高いヒロイン格の女キャラ。周りを見れば、同じようなキャラが多くいる。

 「どこにでもいる」を何処までも煮詰めたような存在。ギャルゲ主人公じゃなければ、一切気にされることのないモブ。

 それが、こうして目の前の現実に現れている。だから、気持ち悪いんだ。


「司令官、始まるよ」

「お、おう」


 違和感の正体が分かったところで、反対側から美咲が袖を引っ張る。

 おっと、もう時間か。

 これ、彼の笑顔が作り物で裏に何かあるってパターンもあるのか。詐欺師とかって、一見良い人とそうって聞くし。

 まあ、けれども。現実世界には「無キャ」と呼ばれる何のために生まれたか分からない新人類がいるらしいしな。高校生でそんな一流詐欺師だったら、誰も対応しようがない。

 考えすぎ考えすぎ。


「司令官?」

「ん!?」


 気が付くと、美咲が俺の顔を覗き込んでいた。彼女の瞳は、若干の揺らぎが見える。

 え、これ本当にAIなの、か。


「楽しみだね!」

「ああ」

「楽しもうね!」

「お、おう」

「難しいことを考えすぎると、将来ハゲちゃうんだからね!」

「そ、それは噂だろ?」


 畳み掛けるような美咲の言葉。心配させすぎちゃったか。

 そして、開演となった。

 何と言うか、てんやわんやだな。会場来てから、ずっと。

 これで、次の立食パーティーまで精神持つかな。


「......司令官、一人で抱え込んじゃダメなんだからね」


 横から、小さく小さく聞こえた美咲の独り言。


「......すまん」

 

 俺はこういう性格なのでね。負担かけちまうな。


「ありがとうな、美咲......」


 それにしても、このゆーすけ少年。やっぱり怪しいよな。後で余計なことにならなければ良いけど。


◇◇◇


『本日は「ユニークAIパートナーズ交流会 次元を超えた俺の嫁」にご参加くだしゃり、ありがとうございます。司会を務めさせていただきゅ、ユニークAIパートナー、幼馴染夢です!』


「待て待て......」

「安直な名前だな」

「なんで、噛み噛みの子を司会にしたのよ......」


 あと、そのサブタイトルを公然と高音で言うな。あー、耳痛くなってきた。


「隊長、大丈夫か?」

「耳痛いの?」


 おっと、流石にこの声はAIでも危険認定されたか。二体が俺を気に掛ける。


「ああ、大丈夫。少し驚いただけだ。まだ、キンキンするけど」

「それにしても、こんな不快音が司会とは」

「主催者の趣味を疑うわ」


 二体とも、そこも同意してくれるか。AIにしろ、不快音は不快だな。


「そうだー! ルナたんもショーコママも白雪チャンも俺の嫁ー!」


 それに対し、サブタイトルに悪ノリする人もいるようだ。中学生の文化祭気分で野次を入れるのは、聞いているこっちが恥ずかしい。


「美紀ちゃん大好きー!」

「ノリカたーーーーーーーーーーーーん!」

「ゆ、ゆき~」


 便乗して愛を叫ぶ人も、チラホラ。勘弁してくれ。


『それでは、まず最初に、主催・西畠圭吾よりご挨拶でしゅ!』

 

 司会は何も気にしてないし。これは、ある意味AIで良かったのか。

 そして、黒背広の男が壇上に立つ。

 遠くからでも分かるビール腹に丸メガネ。あー、司会AIはこの人のパートナーか。


『えー、皆さん。本日はお忙しい仲お集まりいただき、大変ありがとうございます。主催の西畠です。今日は、同じユニークAIと暮らす者として交流を深め、より進化した日常を送れることを願っております! そもそも、僕がユニークパートナーもといAIパートナーを作ろうと思ったのは......』


 ここぞとばかりに、自分を語る主催者。やめろ、俺はお前の個人配信に来ている訳じゃないんだぞ。


「随分と、痛々しい男が主催なんだな。結構な功労者っぽいけど」


 俺の気持ちを察してか、ラルーチェが俺の声を代弁する。こういう時、現実の正しさを見せてくれるのは精神的に楽だわ。例え、事実上の生みの親が相手でもな。


「まあ、本人の性格がどうであれ彼は大企業の社長でお前らの開発者。黙って聞くしかねえわな」

「そう、だな」

「あとでご飯食べまくろう! 奢りなんでしょ?」


 と、美咲。そう、このイベントは参加費無料。地獄の演説の元を取る手段はある。


『っと言う訳で、皆さんも自分の大切な人と生涯を共にすることを願い、開会の言葉とさせて頂きます』


 お、終わったか。軽いスキップを踏んでステージ横に戻る主催者。本当、遠慮ないな。


『続きまして、当社制作のVTRをご覧ください』


 で、講演会メインが映像かよ。これ、司会者の開会宣言がメインコンテンツじゃないだろうな。

 スクリーンが下りてきて、主催者の会社のホームページが開かれる。そして、映像一覧というページから「ユニークAIと生きる未来」が選択される。


「手抜きだ」

「手抜きだな」

「手抜きね」


 使いまわしも、いいところ。まあ、強いて言うなら「痛々しくて見ていられない」って話題のPVだから、俺も初めて見るってことくらいか。


「少し、覚悟してみるか」

「だな、ラルーチェ」

「司令官、肩の力抜かないと!」

「お、おう。すまん美咲」


 映像が流れ始めた。

 海辺を歩く少女に、山の中を裸足で駆け回る女子。そして、ウエディングドレスを着た二人。


「おいおい」


 まあ、子供に対しこの映し方じゃラルーチェも顔をしかめるよな。


『今、私たちは大きな岐路に立たされています。全ての理想を具現化し、一生を添い遂げる伴侶を自分で作り上げる時代が、訪れようとしているのです』


「へ~! 綺麗!」

「近未来な回し文句、嫌いじゃないな」


 美咲もラルーチェもテンションが上がる。

 おお、この辺は流石「企業PV」か。


『昨年「AIパートナー法案」が成立し、私たち一人一人に人間そっくりのサポートAI「AIパートナー」が配布されるようになりました』


『その中でも注目されているのは、AIの所有者・マスターの深層心理を読み取って理想のパートナー像を提供する「ユニークAIパートナー」通称・ユニーク。思い出の少女を再現した子から、ゲーム・アニメのキャラをモチーフにした「コンテンツユニーク」など、その可能性は無限大です』


「無限か......」

「無限ねえ......」


 二体が同時に呟く。彼女たち元ネタ考えると、それは信じがたいか。


『今日は、未来を切り開くAIパートナー・ユニークとの生活を既存のスタンダード・カスタムタイプのAIパートナーと比較しながら覗いて見ましょう』


 あ。これはまさか。


『こんにちは。西畠圭吾です。今日は、僕とユニークパートナーAIの生活をお見せしたいと思います』


「!!?」


 寒気がした。さっきの挨拶の次にこれかよ。


「隊長、嫌な予感がする。しりとりでもするか?」


 ラルーチェが瞬時に「座りながら出来る遊び」を提案してくる。気が付くと、美咲が俺の左手を握っている。二体とも、俺のことをかなり気にかけてくれているな。


「あ、一応全部見るよ。文句を言うにしても、ちゃんと自分で見てからにしないと」


 PVそのものに罪はない。最後まで見てやるよ。

 こうして、地獄のホームビデオ鑑賞会が始まった。

 これからの俺たちの苦悩を示すかのような幕開けだな。

 勘弁してくれよ、マジで。

優れた経営者は、少なからず人から嫌悪される趣味嗜好を持っているかもね。

それに対し、疾風の感性は良識がある。そう、良識があるんだ。


それ故に、彼は苦しんだ。会場の人みたいに、AIだろうが二次元キャラだろうが他と「同じ」に見れたら楽だったのにね。


次回「CODE:Partner」第三話『二つの愛、二つの正義』


その愛は、プログラムを超える。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ