表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
CODE:Partner  ~その愛は、プログラムか、それとも本物か──。~  作者: 里見レイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/59

第三十七話:葬られた過去

前回のあらすじ


二回戦直前、疾風は待合室の面々に堂々と宣戦布告を行った。

その後出会った相良一行。ここで、彼らに「アリッサのことを教えて」と頼まれた美咲。

美咲は、疾風を遠ざけ、姉からの想いを伝えにかかった。

~12月24日・昼 東京都・西畠ホールディングスビル~


「......」

「......美咲、落ち着いて話せ。ゆっくりでいいから」

「うん......」


 師匠がさっと立ち去って早数分。鶴賀美咲は、考え込んでいた。そんなに、話せないのかと僕は思う。

 少なくとも「話す」と決めた人の時間には見えない。


「......あのさ。覚えてないんだよね。過去のこと?」


 そして、話し始めた。質問形式で。


「え、ええ。貴方と会ったのは、イベントの時よ」


 そして、僕のアリッサもたどたどしい。彼女のメンタルが、時間と共に蝕まれていくのが手に取れる。


「そっか。じゃあ、これは『別の貴方』の記憶として聞いてね。私たちパートナーAIは、結構部分的な記憶を持たないことも多いし」


 静かな目をしている。全てを終えた、悟っている目。


「あのね。アリッサは昔、私たちを殺したの」

「!?」

「......」

「え???」


 そう、なのか。彼女は確かに元地下帝国だけど「腰抜けガンマン」と呼ばれるくらい人殺しはしないキャラとして通っていたはずだ。だから、物語序盤で味方になった。


「多分、ゲーム上は『別キャラ』になるわ。けど、私の知る『アリッサ・K・モンロー』は髪を束ねて血走った目で私の仲間を殺す女だったの」

「......」


 束ねた髪。血走った目。ミサンガは、昔も付けてたって言ってたよね。

 それ、もしかして。


「あ、あのさ!」


 僕は、割って入った。何か、何か思い出せそうなんだ。


「もしかして、その子は地下帝国のことを『地底の国』って呼んでた?」


 確信を得るには、こんな変なことしか聞けない。


『私は、誇り高き「地底の国」の兵士なんだ! 太陽の光など、いらない!』


 この言葉しか、覚えてないから。けど、けど。


「......うん。私が生きていた頃の途中までは『地底の国』だったからね。その中でもアリッサは私の死ぬ直前まで『地底の国』呼びにこだわっていたよ。『帝国じゃない、私たちの暮らす国なんだ』って」

「!?」


 その言葉で、何かの鍵が外れた。俺の愛した女性。擦り切れになって銃を取り、涙を押し殺して惨殺し続けた女性。己の故郷を守る為に戦い、捨てられた女性。


「君は、地底の国の『氷の炎獣』なのかい?」


 僕は、ようやく、この言葉を思い出した。俺が、一番使っていたキャラの二つ名を。


「......っ!? ハニー、その名前って」

「ああ、君のかつての名前だよ。ねえ『兵士アリッサ』?」


 なるほど。僕の中にいた「思い出の少女」がスキャンの時にエラーした理由。それは、既に「アリッサ・K・モンロー」が僕のパートナーにいたからだ。


「......」

「......」


 互いに、言葉が続かない。何て言うのかな。嬉しいのに、嬉しくないんだよ。

 僕は、トラウマも一緒に思い出したから。

 アリッサは、血塗られた過去を処理しきれないから。


 まあ、そうだよね。君はAI。ない記憶は、思い出せないよ......。


◇◇◇


「......マスターの方は、気が付いたようだな」

「うん」

「で、こっからどうするんだ? ただ過去を解き明かすのが姉の指示ではないだろ?」

「うん......」


 硬直する二人を見て、私は美咲の確認をする。彼女の目的は何なのか。ただ相手の過去を掘り起こす為だったら、口喧嘩の強い隊長をここに残していたはずだしな。


「敵に塩を送るって訳でもないよな。奴らのモヤモヤを晴らすタイミングなら、他にもあった」

「うん」

「それに、元の提案はお前の姉。マスター同士が近しいなら、なおのことだ」

「......うん」


 ふむ。いまいち姉妹の間柄は分からないが、何となくわかることはあるな。


「......ラルーチェ?」

「ああ、今から言うことはサラっと流して欲しいのだが」

「うん」


 隊長のやり取りの失敗は、繰り返さない。前提をしっかり話して、私は核心に迫った。


「あの姉は、お前を経由するととこでアリッサに精神的ダメージを与えたいのではないのか?」

「!?」

「復讐ってレベルではないだろう。ただ、彼女がマスターの作戦を利用したと思えそうなんだよな」

「......」


 まあ、詳しくは分からないがな。ただ、正直黒沼陣営のAIは色々脇が甘い。

 奴らの「コンタクト」には情報保護がされておらず、情報が私たちにも聞こえるんだ。

 それを踏まえると「アリッサの失われた過去」と「黒沼相良のスキャンのエラー」、更には「橋口ゆーすけからの提案」などは全て「鶴賀雪の気持ち」で解決できる。


「そう。彼女の言葉だけで、『ただの疑問』が『争いの火種』にもなる。現に、アリッサは己の知らない己に硬直して、相良は過去に苦しめられている」

「......うん」

「この大会の真っ最中まで真実を先延ばしにしたのは、鶴賀雪の微かな復讐心があったのではないか?」


 同じ立場なら、私だってそうする。己の手をほぼ汚さず対象の精神を乱せるのだから。


「......うん。その復讐心は、多分あるよ」


 美咲が、姉の悪意を認めた。まあ、そこで下手に庇う性格でもないよな。


「けどね。多分お姉ちゃんの目的はもう一つある。予想だけど」


 ほう。


「聞かせて貰おう」

「......試しているんだと思う。みんなを」


 そう言うと、美咲は五歩ほど前に出てアリッサの真正面に立った。


「貴方にその記憶はないと思う。だって、AIだから」

「!?」


 私たちが、それを直接言うのか。


「だからこそ、言わせて『あれだけのことを、しておいて、よくもまあ堂々とこっちにいられるよね』」

「!!!」


 おいおい。完全に「裏切り者め」と「敵め」の両立だな。本来のプレイヤーなら嬉しいキャラなのに、本人たちの因縁が終わらないとこうなるのか。


「......私は、ただ、守りたかった。のだと思う。あの時も、裏切った時も、今も」


 俯いて、アリッサは話し出す。正直、「かつてお前の先祖が俺たちの先祖を殺したんだ」くらいに実感の湧かない話だよな。


「けど......ごめんなさい。貴方たちのこと、何も分かっていなかったわ」


 謝る、のか。お前自身は、何も知らないのに。


「アリッサ......」


 そして、黒沼相良がそっと彼女に近づく。肩を抱き、静かに支えた。


「ありがとうございました。おかげで、モヤモヤは晴れましたよ。それ以上の真実に、耐えられないですけど......」


 冷や汗全開で、相良はこう言う。まあ、そうだよな。大会中にこんな人生レベルの言葉を、ほぼ他人のAIから聞くことになるとは思うまい。


「ちょっと、休んできますね。では」


 ペコリと頭を下げ、相良はアリッサを連れて人込みへと消える。こちらの返事を待つ余裕は、なかったようだな。


「......任務、完了」


 美咲も、返事をする余裕はなかった。


「これ、誰が得したんだ?」


 全てを眺めていた私は、そう問うしかできなかった。

正直、雪は消化しきれていないんだろうね。

戦争の恨みは、引きずってはいけないけど忘れてはいけない。

相手がその記憶を保持していなければ、なおのこと。あらゆる部分で、厄介だ。


けれど、美咲は全部言った。あとは、受け取った相良とアリッサ次第かな。


次回『CODE:Partner』第三十八話『流れた二回戦』


その愛は、プログラムを超える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ