第三十四話:所詮は初戦なのだから
前回のあらすじ
遂に始まった「ユニークパートナークリスマス会」の余興「形のない王国 オリジン トーナメント」。
疾風の一回戦の相手は、以前己に喧嘩をふっかけてきた小山康夫。
鎖鎌を淡々と使い、疾風は二十秒で勝利するのだった。
~12月24日・昼 東京都・西畠ホールディングスビル~
「お疲れ様、司令官!」
「楽勝だったな、隊長」
「ああ」
ステージを降りてすぐ、二体が俺を迎える。安堵してる顔つきを見て、俺は少々複雑な気持ちになった。
「別に、子供じゃないんだし。そこまで心配そうにしなくて良かったんだぞ」
ゲームの試合の後だからだろうか、俺はそう感じてしまった。
「いや......そこまでじゃないぞ」
「司令官は子供じゃないのは、分かってる。けどさ......」
「けど?」
視線を逸らすラルーチェ、まっすぐ俺を見る美咲。最近、美咲の方が言葉を濁さなくなったよな。
......いや、あの日が印象に残り過ぎただけかな。
「心配、なんだよ。『形のない王国』してる時の司令官、凄く怖くて」
「こ、怖い?」
「うん......」
そのまま、美咲が俺の裾を掴む。
「なんて言えばいいのかな。その戦い方は、誰でも殺せるんだよ。躊躇なく」
「......」
その言い方、まるでロドリアスに「王たる器はない」と放ったアスカのようだな。
俺は、ラスボスかよ。
「多分、司令官には守りたかったものがあった。その為に、いっぱい戦ったんだと思う」
「......」
「だからこそ、こう言わせて。『このままじゃ、壊れちゃうよ』」
「!?」
美咲、お前は「形国」をプレイしたことがあるのか。しかも、メインストーリーを。
「そう、か。気を付けるよ。どうすれば良いか、知らないけど」
「うん。少しだけ周りを見ればいいと思う。元々、司令官は優しい人なんだし」
「そうか......」
優しい人、か。その言葉、就活に苦戦した人には言わないで欲しいな。辛いの、思い出すから。
「隊長、参加選手用の控室があるそうだ。二回戦まで時間あるし、行くか?」
「お、おう」
ラルーチェは、本当に周りをよく見ているな。助かる。
「椅子や飲み物、あるかなあ。あと、対戦画面の中継......」
段々と、懐かしい気分になってきた。さて、大体一時間。子供時代に戻るか。
◇◇◇
「あれ『キャスティング・ストライク」』だよな!? 大技の」
「ああ。まさか、初戦でそれを見れるなんて」
「ホイホイ使う技じゃねえだろ、あんなの......」
盛り上がっているなあ。僕は待機室のお菓子を貪る。
「ま、あれは師匠の十八番だからね。隠し技でも必殺技でもないし、普通に使うよねえ」
けど、知らない人からすれば驚くか。そもそも、今の「形国」大会で鎖鎌使う人いないし。
「ハニー、楽しそうね♡」
「まあ、そりゃあね。あの人は、倒すべき相手だけど大事な師匠なんだし」
忘れてたけど、大事な存在なんだ。
「大事、なんだ」
直後、アリッサのバックハグが強くなる。これは、構って欲しい合図。
「勿論、アリッサも大事だよ。今まで僕の傍にいてくれたんだし」
「......うん」
また、強くなった。
「あのね、ハニー」
「ん?」
「私、段々思い出してきたの。師匠さんの戦いを見たら」
「な、何を?」
大勢いる待機室の、ほんの一角。僕は、一瞬で大宇宙に放り出された気がした。
「私、昔あの師匠さんみたいな人を知ってる。勝利だけを求めて、多くの人を殺していた人を」
「地下帝国の、上司?」
僕も、本編前の「インフィニティ・バトリオン」はよく知らない。記憶の限りだと、そんなに残酷な地下帝国キャラっていない気がするけど。
「多分......よく分からないけど」
「そうか、不安だよね」
ここも、ある種の戦場。多分、アリッサ自身が思い出している。過去の自分を。
かつて本編で、敵対勢力にいた自分を。
「お兄ちゃん、アリッサさん......」
先ほどからずっと、俺の膝に寄りかかっているキリハ。訴える気はないけど、存在を主張している。
「心配ありがと、キリハ。僕もアリッサも、戦い自体は問題ないよ。それに、キリハも大事だ」
「うん......」
やはり、彼女も不安が拭い取れていない。何か、あるのかな。この大会は。
「......僕は、無事に優勝できるかな。自分を証明するために」
既に、中継画面は第二試合に移行している。一試合当たり、最大十五分。僕の出番は、二時間以上先になりそうだな。
「暇そうだね、一回戦最終試合君?」
「ま、まあね」
と、ここでゆーすけ登場。一回戦丁度真ん中の男だ。
隣には、いつものようにルーシーを連れている。
「だったら、僕のお母さんに会ってみないかい? 大会運営の幹部は、当日暇なんだ」
笑顔で、人を不安感の根源に送り込む気か。まあ、本人にそのつもりは皆無だろうけど。
「どうしようかなあ。僕、大会はいつも静かに過ごしてたし」
適当な断り文句。事実だし、大丈夫。
「準決勝くらいまでは、そのテンションだと逆に疲れるよ。多分、僕らは楽勝なんだし」
「それはそうかもだが......」
「それに、これは君にも良いことだと思うよ。悩んでるんでしょ、アリッサのことで」
「!?」
観察者の僕が、筒抜けになっている。いや、長い付き合いだから。うん。
「僕は、君のスキャンデータを詳細に知っているからね。何に違和感を持っているかは分かるよ」
「......」
お前、俺以外でそれをやるなよ。ほぼ犯罪だからな。
「あと、僕の頼みでもあるね。様子を見てきて欲しいんだ」
「自分で行けば、良いんじゃないのか?」
「主催者がそんな軽々しく移動は出来ないよ。それに、僕はもうすぐ試合だ。ほら」
「え?」
中継画面を見ると、既に一回戦第二十五試合。ゆーすけは、三十二だから、もうすぐなのか。
「早くね?」
「一回もコントローラーに触ったことのない素人が多くてね。経験者と当てればそんなものさ」
「え~」
たった百人ちょっとなのに、半分はド素人なのかよ。
「まあ、これは僕の人選の都合だ。素人さんは、ただの規模拡張要員だよ」
「あ......」
もはや、NPCだな。その方が、何も知らない人は盛り上がるかもだけど。
「ま、そういうことだからさ。頼むよ」
「うーん」
ゆーすけ、お前は何処まで計算してるんだ。ここ数日で、変わり過ぎじゃね。
「ハニー、行ってみよ。私、知りたいの。このモヤモヤの正体を」
「アリッサ......」
そう、だよな。知りたいよな。
「お兄ちゃん、慎重にね。別に大会の後でも良いんじゃない?」
「き、キリハ......」
これは、初めてなのか。二人の意見が食い違うなんて。
「はっは。君のパートナーはとても優秀だね。両方の視点から君に適切なアドバイスしてるよ」
「ゆーすけ......」
お前のせいなんだけどなあ。楽しそうにしやがって。
いや、まずは考えないと。どちらが良いのか。
......知りたい、か。僕も、欠け落ちた記憶あるし、気持ちわかるんだよな。
「よし、行こう。アリッサのことは、俺も知りたいし」
「ハニー!」
「......」
僕は、二人をよけて立ち上がり、二人の手を取る。
「場所は分かるかい?」
「問題ない」
「そっか、いってらっしゃい」
「ああ」
こうして、僕は待合室を立ち去った。この時、二人の表情は見なかった。いや、見るくらいに気が回らなかった。
後悔があるとしたら、これかな。うん。
橋口ゆーすけ、いつの間にか何重にも策を練っていたみたいだね。
もはや、「相良の友人」では収まらなくなってしまった。
そして、己の夢のために友へ鎌をかけるまでになった。さあて、相良はどうするかな。
次回『CODE:Partner』第三十五話『母君』
その愛は、プログラムを超える。




