第一話:次元を超えて、集う者たち
遂に始まりました。
近未来の世界で描かれる、愛と夢の物語。
貴方の夢は、何ですか? 貴方の愛した別次元のキャラは、誰ですか?
貴方は何故、それを語る時悲し気な目をするのですか?
~12月18日・昼 東京都・西畠ホールディングスビル~
「ここか。思ったよりも大きい場所だったか」
都内、山の手。一面ビル街の森の中、俺は会場に到着した。
「案内助かったよ。まさか、こんなに入り口が分からないとは」
「この辺は2019年から再開発が進んでてな。駅を中心に半径2.5キロの範囲は特に力が入ってるんだぞ!」
俺の隣でラルーチェが、淡々と、しかし熱意を持って解説してくれる。
そうか。AIらしく、調べものは本当にありがたいな。
「司令官、こっちよ。早く早く!」
「お、分かった。今行くぞ、美咲」
ぴょんぴょん跳ねて俺たちを手招きする美咲。ふふ、困ったプログラムだ。
と言う訳で、俺は顔認証のパネルに顔を出す。すると、上部に固定されたカメラが反応し軽く音がした。
『認証しました。「ユニークAIパートナーズ交流会 次元を超えた俺の嫁」にようこそ、犬飼疾風さん』
「!!?」
咄嗟に周囲に目を向ける。並んでいる人はいない。俺に視線を向けている人もいない。
「ったく、こんな恥ずかしいサブタイトルを本名と一緒に言うんじゃねえよ」
この機械、デリカシーないのか。血の気が引いたぞ。そもそも、この状況で易々と「俺の嫁」を口にするなよな。
「どうした、隊長? 早く席に行くぞ」
「参加証、出てるわよ。首にかけるんだって、ほらほら!」
んで、世間から見た「俺の嫁」たちが何も気にせず次を促してくる。ラルーチェは会場入り口の前で、美咲は俺のすぐ隣で。
まあ、彼女らのゲームじゃ、このくらい大したことないか。
「あ、ああ。えーと、ここの名札ケースに入れて首にかけてっと」
これで、俺の自己紹介が三秒で終わるようになった訳だ。
・犬飼疾風 22歳 大学生
パートナーAI
ラルーチェ(コンテンツユニーク 登場作品「オメガ・ザ・ヒーローズ」)
鶴賀美咲(コンテンツユニーク 登場作品「インフィニティ・バトリオン」)
「しかし、結構残酷な自己紹介だな」
「なんでそう思う?」
「だって、働いていない奴は職業欄に『無職』って出るんだろ? それで人前に出るのは情けないなと思ってな」
ラルーチェの冷静ながらも憤りを含んだ声。まあ、世間体の悪い怠け者って捉えても仕方ないけど。
ただ、世の中には無職でも生活に困っていない特権階級もいるのだぞ。
「まあ、その辺は色々あるんだろ。ちょうど転職中って場合もあるし、あくまで話題の種だし」
「そういう、ものなのか」
「そういうもの。例えば、あそこ見て」
俺は会場入ってすぐに目についた背の高い集団を指さす。ラルーチェは横から、美咲は後ろからその先を見つめる。
「あれは......男性のパートナーと男性のマスターね。ここって、男性のマスター限定じゃないの?」
美咲が即分析をし、質問。AIの認証機能なのか、随分と便利だな。
「そうだ。けど、男性が男性のAIパートナーを連れてきちゃいけない訳じゃあない。パートナーの立場が『弟』や『友達』『従者』『恋人』だったりと色々なパターンがある訳だからな」
俺たち「今どきの若者(笑)」はこうした「色々」に随分と寛容なんだ。たとえ相手が無職であろうと、一瞥しただけで偏見は持たないぞ。
「そうか。私は随分と無学だな。お前の言葉はいつも勉強になる」
「文字通り、住んでいる世界が違った訳だし無理もないよ。さあ、講演会始まる前に席に着くぞ」
二体を連れ、俺は参加証の裏に書かれた席へと移動する。おや。
「パイプ椅子、足りてないな。俺たち、三人分のスペースが必要なのに」
「だな」
「パートナーの椅子、一人分って感じね」
なるほど。パートナーを二体連れてきたのは会場からすると予想外。基本的に、連れてくるのは一人一体までだったか。
「これは......しくじったな」
こんな場所で悪目立ちなどしたくない。対応策を考えなければ。
「隊長、慌てるな。いつものお前なら、こんくらい大したことないはずだ」
「ら、ラルーチェ」
「そうそう! それに、困った時は私たちがいる。心配しないで、司令官」
「美咲......」
二人が俺を落ち着かせる。こう話していると、人間と全く区別つかないよな。本当に、プログラムか。
「......あ、あそこに」
俺は、周囲を見渡し係員を見つける。幸い、俺たちが座るのはパイプ椅子。追加なら、できるはずだ。
「椅子取ってくる。二人共、そこで待っててくれ」
「ああ」
「いってらっしゃ~い」
二体......二体で良いよな。を置いて俺は会場横に立っている係員の元へと向かう。
『すみません。パイプ椅子もう一脚ありますか?』
その時、違う意思の元で同じ言葉が発せられた。
不健康な白い肌と吹き飛びそうな細い体。俺にとって初めて、奴が視界に入った瞬間だった。
◇◇◇
「あ、えっと。お二人共パイプ椅子ですか?」
係員が俺たちを見て確認。そっか。人間からは俺たちがAIの可能性を捨てきれないのか。
「え、ええ。私に一脚、こちらの彼にも一脚お願いします」
「か、かしこまりました! 少々お待ちください」
係員が会場外へとパタパタ走っていく。こういう係員にこそAI向きが適役だと思うがな。
「あ、すみません。俺の分も頼んで貰って」
そして、隣から再び声がする。改めて見ても「ひ弱」の印象が拭い取れないな。中学生か。
「いえいえ。こちらこそ、勝手に進めて申し訳ないです」
俺は、とりあえずペコリと一礼。この時、少年の名札が目に入る。
・黒沼相良 17歳 高校生
パートナーAI
アリッサ・K・モンロー(コンテンツユニーク 登場作品「インフィニティ・バトリオン」)
キリハ(コンテンツユニーク 登場作品「形のない王国」)
あ、高校生か。それにしても、形のない王国か。懐かしいな。あと、アリッサて言うと、あれだな。
「......インバト、好きなんですか?」
おっと、そっちから話題振ってくるか。まあ、好きなゲームが共通してるって訳だし普通か。
「ええ。鶴賀姉妹とかをよく使ってました。貴方は、旧地下系ですか?」
ここで、キャラ単体の話は地雷になりかねん。もう少し大枠に攻めよう。
「いや、アリッサが好きなんですよ。他のキャラは、結構適当に合わせてます」
「そ、そうなんですね......」
まずいまずい。この少年、何も気にしてないか地雷に無理やり突っ込むかの二択だ。
「何でかよく覚えてないんですけど、好きなんですよ。美咲も、可愛いですよね」
「え、ええ。可愛い妹キャラですよ。彼女の限定衣装出ると必ずチェックしてましたし」
少年の声が、若干低くなる。その「好き」は一体どういう意味なんだ。
「ちなみに、アリッサとの覚えている思い出とかってあります?」
もしかしたら、「憎すぎて好き」とかあるかもしれない。この可愛げのある声に、何か鉛みたいな重たさを感じるんだよな。
「うーん。明るい感じ、ですかね。あと、なぜか安心するんですよ。何か、ずっと隣で戦っていてくれたみたいで」
「へえ、そうなんですね」
少年の目線が下に向く。声が、震える。これ以上聞くのは、少し怖いな。まるで、本当に戦場にいたかのようだ。
「妹。いいですよね。何か、いてくれるだけで『家族』って感じで」
「ええ、本当に」
話題が変わった。視線が俺の方に戻る。声が再び明るくなる。そうか、二人共「妹キャラ」がAIパートナーなのか。なら、こっちの話題を進めよう。
「無邪気だったり、好奇心旺盛だったり、良いですよね」
「本当、色々助けて貰ってますよ」
「けど、やっぱり『守ってあげなきゃ』とも思いますよねえ」
「それなです! やっぱ、兄としては妹を守りたいですもん!」
妹談義は、非常に楽しく進む。理由はよくわからないが、地雷っぽいのはアリッサだけか。
「あ、椅子来たみたいですね」
少年が、視線を横に逸らす。後を追うと、二脚のパイプ椅子を抱えて走る係員。
「......お待たせ、いたし、ました」
「わざわざありがとうございます。助かりました」
「ありがとうございます。これで、二人と一緒に見れます」
そっか。この相良少年もAIパートナー二体と来たのだな。仲間がいるのは、心強い。
「それでは、今日は楽しみましょうね」
「ええ、お互いに良い時を」
こうして、大事なく俺は会話イベントを終わらせて二体の元に戻る。
それにしても、何だろうなあの少年。基本明るい言動なのに、所々で不気味なんだよ。
アリッサ関連で何かあったか、現実の人間関係でトラウマがあるか。まあ、どちらかだろ。
「いや、考えすぎか? 慣れない場所で無駄に神経張り過ぎたかも」
自分で自分を落ち着かせるべく、俺は言葉を出す。この調子じゃ、二体を無駄に心配させちゃうかもしれないし。
しかし、俺も含めてだが。
ゲームのキャラが深層心理にある連中って、絶対闇深いよな。
なーにが「幸せにできない」だ。その捻り曲がったネガティブ思考こそ、不幸の温床だろ。
そうこうグルグル考えながら、俺は二体の待つ席まで戻った。今は、イベントを楽しまないと。
偏見は持たず、あらゆる「個性」に寛容であること。これは逆に「自分も認めて欲しい」感情の裏返しかもしれないね。
必死に相手を観察し、何が最善の一手か考える。社会人なら当然のスキルだけど、疾風には少し苦しそうだね。
そして、虚ろな目をした相良。彼はこれから、何を巻き起こすのか。見るからに、色々隠し持っているからね。一切油断できないよ。
次回「CODE:Partner」第二話『因縁の聖女と生みの親』
その愛は、プログラムを超える。