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CODE:Partner  ~その愛は、プログラムか、それとも本物か──。~  作者: 里見レイ


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第三十話:開会式

前回のあらすじ


遂にやってきた「クリスマス会」。余興のゲーム大会で疾風が貰えるのは「リリィ」の第二世代AIパートナーだ。

入場早々に黒沼相良と接触し、ここが戦場だと思い知る。


一方の相良も、疾風の言動から思う節があると察したのだった。

~12月24日・昼 東京都・西畠ホールディングスビル~


『皆さま、お待たせ致しました。只今より「ユニークAIパートナーズクリスマス会 次世代の玉座は誰の手に」を開会致します』


 アナウンスが会場に響き、俺たちはステージに目線を向ける。


『司会は私、川上新聞文化部・長良千佐子でお送りします。よろしくお願いします』


 別に何の変哲もない声と、まばらな拍手。


「これ、人間だな」


 と俺は呟く。


「司令官、あの記事書いていた人だよ。今朝の優勝予想書いてた人!」

「何だって?」


 美咲の言葉で、俺はスマホを覗く。


「確かに、川上新聞文化部『長良』って書いてある」

「......となると、本当に橋口ゆーすけの手下って訳か」

「手下、ねえ」


 ラルーチェの言い方は若干棘があるが、間違ってはいない。

 「運営」と言えば聞こえは良いが「グル」の可能性もあるから。


『では、続きまして。本日のパネリストの紹介です!』

「あれ、開会宣言聞き逃した?」


 いつの間に、式は次に進んでいる。もっと、ダラダラするのかとばかり思っていた。


「別に、運営委員長の『下川』って人が一言喋っただけだぞ」

「そっか、助かる」


 要するに、運営委員長も飾りか。


『アルク・ミュネの時田仁瀬さんです。未来工学の研究をされており、今回もAIパートナーの可能性についてお話して頂きます』

『どうも、ご紹介に預かりました。時田です。未来工学系・神経科学系の研究連合、アルク・ミュネから参りました。本研究所では、人間の神経回路から発する独自の電気信号や脳波を計測し、DNAの分析に基づいた人類の脳科学的研究を......』


 な、長い。あと、何を言っているのかまるで分らない。仕方がないので、話している人を見る。

 二十代後半の、痩せた男が紹介された。若干遠目だが、顔は良いみたい。

 けれど、無精髭にボサボサヘッドに薄汚れた白衣。こりゃあ、研究者だわ。


「教授に、似てる」

「そ、そうなのか。そいつがあの手紙を......」

「ラルーチェ、ステイ」


 そっか。彼と彼女らの関係は教授の手紙だけ。嫌な印象を持つわけだよ。


『~と、ここまで我が組織の研究内容を簡単にご説明しましたが、ブッチャケつまらないでしょう』


 ん。まあ、そうよな。理系の言葉はチンプンカンプンだ。


『と言う訳で、研究所から持ってきた試作品をここで起動させます。もしも貴方に適性があれば、この装置の何たるかが分かるはずです』

「? 怪しいな」


 今度は、やけに抽象的だ。宗教団体じゃないだろうな。


「まあ、怪しいけど」

「上手く、分析できないな。よく分からないよ」


 二体とも首をかしげる。嫌な予感、するけど。


『気楽に、感じてください。スイッチ、オン!』


 多少なりとも会場はざわついたのに、時田氏はまったく気にしてない。

 怪し、過ぎるんだって。

 

 キ――――――ン!


 容赦なく響いた金属音。これ、神の祝福(笑)どころか騒音だろ。


「二人共、大丈夫か?」

「あ、ああ」

「何ともないよ」


 二体の無事を確認。そっか。これは人間だけ感じるやつか。

 こちとら、今も耳を塞ぐくらい痛い音だったというのに。


『何か、聞こえましたか? 良ければ、聞かせてください。では』


 時田はこの言葉で、挨拶を終えた。ったく、とんだマッドサイエンティストだよ。


◇◇◇


「~~~~」

「ハニー、大丈夫?」

「うん、一応」


 酷い音だった。僕の耳、壊れたかと思ったよ。


「今、参加者の様子見たけど。他にも何人か耳を抑えてたよ」

「そっか。ありがと」


 キリハが、外を見てきてくれた。舞台袖だと分からないので、助かる。


「犬飼疾風は、どうだった?」

「凄く痛そうにしてたな」

「ふむ......」


 あのヘンテコ装置の詳細は知らないけど、僕と犬飼疾風は「同じくくり」に入ることは分かった。


「聞いてみる? あの研究者さんに?」

「いや、やめておこう。変なことに巻き込まれる気がする」


 正直、嫌な音を感じることが、相手の期待した反応かは知らない。けれど、そもそも怪しいと感じてしまったんだ。


「そうね。よく分からない言葉で『詳しいふり』をしつつ、大胆なマジックで『選ばれた人』を演出する。これって、扇動に見えるもんね」

「流石キリハ。僕の考えをよく言葉にしてくれたよ」


 口下手な僕にとって、これは凄く助かる。お礼に、そのまま彼女の頭を撫でた。


「~~~~~」


 アリッサが、頬を膨らませてる。今度また撫でるから。


「相良」

「ゆーすけ......」


 開会式が始まってから姿が見えなかった友が、ようやく現れる。


「もうすぐ、テレビ視聴者向けのパネルディスカッションが始まるよ」

「......そうか」

「うん。そして、僕たち参加者はキャラメイクの時間だ。満足するまで作りたいなら、早めに並ぶことをお勧めするよ?」


 そう言うと、ゆーすけは会場後ろ側のスキャン装置を指さす。


「じゃあ、行くか」


 僕は二人に目配せをする。


「ええ!」

「うん!」


 脊髄反射で、アリッサは僕の後ろ、キリハは僕の前に立つ。いつも、彼女らは自分の好きな僕の部位に触れられるようにしているんだ。


「あ、スキャンに行くならパートナーは連れて行かない方が良いな。僕と行こう」

「アリッサ、キリハ。二人は私たちと控室行きましょう」


 そして、ゆーすけのパートナーたちが後ろから出てきて二人を誘う。


「......どうする?」


 僕は、また二人に判断を仰いだ。だって、今日はこの会場そのものが怪しいし。


「ハニーと一緒にいたいけど......」

「ゆーすけさんが、そう言うのなら......」

「そっか。なら、ゆーすけのパートナーと休んでて」


 二人が僕と離れるのなら、これ以上は何も言わない。


「じゃ、行ってくる」

「うん」

「気を付けてね」


 大丈夫、すぐ戻るからな。


「ゆーすけ、主催者特権は使えるか?」

「使えなくはないけど......君は欲しいの?」

「早く、二人の下に戻りたい」


 今日は、二人がいないとダメなんだ。だから、少し強引でも構わない。


「そっかあ。しょーがないなあ」


 と、ゆーすけはスマホを開いた。


「効果は薄いけど、多少は早く帰れると思うよ。裏ルート使うから」

「......助かる」


 こうして、僕たちはこっそりと舞台袖から表舞台へと歩き出た。


『それでは、弊社下川よりまずは「AIパートナーの意義」についてザックリとですが......』


 舞台上では、怪しい研究員さんとゆーすけの用意した数合わせが、パネルディスカッションと言う名の雑談会を始めた。


◇◇◇


「さあて、ようやく舞台が整ったねえ」

「もう、こんなに怪しい動きして! また無茶し過ぎで弘君に怒られたらどうするの?」


 舞台裏の舞台裏。誰も寄り付かないステージの垂れ幕下。ホログラムのような薄さの男と、姫のような女が話をしていた。


「大丈夫だよ。兄ちゃんは、常に三年先を見ている。今の無茶苦茶が最終的に良い方向に進むことを分かっているからさ」


 男の名は、大内巳隆。どこにでもいる、どこにだっている少年だ。


「けど、本当に無茶しないでよ。巳隆君、毎回死にかけてるじゃん」

「まあ、実際死んではいるけどね」

「もう!」


 女の方は、既に30近くの外見。しかし、所々からにじみ出る愛嬌は、十代と言っても差し支えない。


「けど、今回ので何が分かるの? ただ、アニメやゲームに入れ込んでる若い子を苦しませようってだけじゃないでしょ?」

「うん。ある意味、一種の耐久試験だよ」


 そう言うと、巳隆は見えていないステージの向こう側を見た。


「さてと、僕はとりあえず『犬飼疾風』に期待したいね。けど、『黒沼相良』も捨てがたい。気が向いたら、相良にも声をかけてみるとしようかね」


 巳隆の悪ーい顔が前面に滲み出る。彼は既に「挑戦者」を十年ほど前に終えている。今は、「試験監督」みたいなものだ。


「本当、楽しそうなのは良かったわね」


 女も、そんな巳隆の顔を見て若干ほっとしている。

 戦いは、裏の人々も関わっている。しかし、悪い連中ばかりじゃない。

 表舞台の戦いを終え、後進の育成の一環として、試練を与えることもあるのだ。

さてと、随分懐かしい人たちが出てきたねえ。あ、こっちの話ね。

にしても、時田君がねえ......


次回『CODE:Partner』第三十一話『ある種の汚染』


その愛は、プログラムを超える。

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