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CODE:Partner  ~その愛は、プログラムか、それとも本物か──。~  作者: 里見レイ


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第二十一話:奴からの手紙

前回のあらすじ


様々な新事実と決まりかけた相良・ゆーすけの方針を見て、AIパートナーたちも変わろうとしていた。愛する人と幸せになる為、より積極的になろうと。

そして、疾風もまた教授からの手紙を持って来て大きな岐路へと迫っていた。



~12月21日・午後5時37分 東京都・犬飼宅~


 私が隊長から手紙を受け取ったのが、今からおよそ三分前。

 私は、たった三分で怒りを外へ溢れさせてしまった。内容は、以下の通り。


『前略 疾風の大事な「AI」パートナーさんへ

恐らく、もう君も理解していると思うが疾風は孤独な男だ。その原因の一端が君たちであることも、今までの言動から何となく分かっている。』


「! ーーーーーーー!」


 何と、何と失礼な男だ。わざわざ「AI」を強調し、しかも隊長の孤独の原因が私たちだと。

 私たちは、隊長の為の存在であり、彼の孤独を助長させる存在ではない。


「っ!?」

「ら、ラルーチェ!?」


 そして、私の怒りに対し隊長と美咲が驚愕の声を上げる。これは、私の失態だな。


「すまない。抑える」


 けれど、私に怒りを完全に沈めることは出来なかった。簡潔な謝罪だけ述べ、私は再び手紙を読み始める。それしか、やりようがなかった。


『しかし、彼にはその孤独を乗り越えて、ことを成すだけの男であるとも確信している。疾風は言うなれば「織田信長」のような男だ』


 織田信長。言わずもがな、日本の有名な英雄だな。けれど、かなり短気だと聞くぞ。隊長とは、あまり当てはまらないのではないか。


『おっと、自己紹介を忘れていたな。俺の名前は斎藤庄五郎。大納言大学文学部史学科で教授をやっている男だ。そして、何の因果か織田信長の舅と名前が似ている。』


 なるほど。斎藤庄五郎と言うのか。で、織田信長の舅って誰だ。

 少し、調べてみるか。


『スイム』


 検索内容。織田信長の舅及び、大納言大学の教授・斎藤庄五郎。

 ......あった。

 織田信長の舅、斎藤道三。美濃のマムシと呼ばれた「下剋上」の象徴。またの名を、松波庄五郎。

 なるほど。確かに、似ている。

 そして、その教授のデータがこれか。


『斎藤庄五郎:大納言大学文学部史学科教授。現在55歳。中世日本史学会の中でも「人間性」と「人間関係」を考察している人物であり、その人物に「必要だった家臣や伴侶」まで考察している。こうした言動から皮肉も込めて「戦国のロマンチスト」と呼ばれる』


 ......想像力が、豊かなんだな。けれど、この文章を見ると周りから煙たがられる感じがするぞ。

 さて、続きを読むか。


『で、疾風がなぜ未来の織田信長なのか。それは、彼の実行力と思考の幅広さにある。疾風は、一度「やる」と決めれば倒れるまでやり続ける男だ。』


 それに関しては、同意するぞ。

 隊長は私がダークネスを発動できると分かった時も、真摯に原理解明に向き合ってくれたからな。徹夜をしてまでな。

 隊長の優しさは、私がよく知っている。ふふん。


『以前、高校生向けの日本史講座をしに行った時のこと。彼は実習当日の朝まで、約三日間研究室に泊まり込みで、教材の準備をしていたんだ』


 ......上をいかれた。私はそんな醜い感情を持ってしまった。隊長は、私のダークネス解明の三倍近くの労力を、日本史講座に注いだと言う訳だ。

 


「......」


 ふと、隊長の顔を見る。彼は、スマホで動画を見ていた。イヤホンをしており、何を見ているかは分からない。

 すまん。今の私は悪い女だ。


『ダイブ』


 私は、隊長のスマホの通信内容を覗き見ることにした。


「......!」


 そして、私は驚いた。隊長が「オメガ・ザ・ヒーローズ」でも「インフィニティ・バトリオン」でもない別のゲーム実況動画を見ていることに。

 動画の名前は、何だ。「『形のない王国 オリジン実況プレイ』環境最弱の鎖鎌でも、上位武器を狩る方法!」だと。


「......なんか、懐かしいフレーズだな」


 隊長が「オメヒロ」をやっていた時も、似たような動画を見て勉強をしていた。

 それもこれも、「私」を活躍させたかったから。

 ......続きを読もう。


『その時、疾風はかなり疲れていてな。昼休みの時に高校二年生の学級委員の少女が疾風に差し入れを持ってきた。自作のお弁当だという』


「!?」


 私よりも何年も前に、隊長にお弁当を差し入れたというのか。そもそも、その学級委員は隊長とどのような接点があるのか。


『彼女は、俺らに学校の案内役をした生徒の一人だ。この時、疾風は当然お礼を彼女に言ったのだが、その時の言葉が中々面白かったよ。』


 な、何を言ったというのだ。確かに隊長は感謝を躊躇するタイプではないが。


『「ありがとう。君は将来良い人になりそうだね」だぞ。要するに「君は、良いお嫁さんになれそうだね」って意味だ』


 し、信じられない。隊長が、赤の他人にそんなニュアンスの言葉を吐くだなんて。


『お似合いの夫婦に見えたな。とても、見ごたえのある光景だった』


 い、言わせておけば。お前もその女も、隊長がどれだけのことを繊細に考えて潰れかけているか知らない癖に。


『ああ、そうそう。あの後、彼女とは個人的に話をしてね。疾風のことを話したんだ。彼の考え方は常に未来的で共感してくれる者が少ないこと。常に物事を深く見過ぎて、悲観的な強迫観念から逃れられないことをね。』


 ......隊長の優しさや冷静さのことか。私たちに見せる疲れ切った顔の源は、その孤独感と強迫観念。納得は、できる。


『そしたら、彼女がなんて言ったと思う? 「あんなに素敵な目をしていたのは、そういったお考えだからなんですね! 私が支えます!」だってよ。だから、疾風に直接同じ研究室に行くよう宣言させた。疾風も、覚えていたよ』


 ーーーーーーー。目、か。私は隊長の全身をボンヤリとしか見ていなかったな。


『まもなく、彼女が僕の研究室にやってくる。疾風が院に進学すれば、晴れて彼女と生活を送れるようになるんだ』


 !! 思い出の少女で、終わらないのか。しかも、この男は隊長をその女と。


『勿論、現時点で疾風と彼女の関係は薄い。疾風が君たちを「物語のキャラとして」大事にしているのは知っているし、恐らく容姿など各値も君たちの方が上かもしれない』


 ......そうだ。私たちは隊長のためだけの存在。一緒にいた時間が一日も満たない女に、私たちが負けるはずがない。


『しかし、君たちが絶対に勝てない要素を彼女を持っていることを知っているかな?』


 馬鹿馬鹿しい。そんなもの、あるはずがない。


『まあ、細かく言えば色々あるが。最もインパクトのある要素を出そう。それは「疾風の子を産める」ということだ』


「な!!!?」


 思わず、手紙を握る手に力が入る。グツグツと煮えたぎる感情が体のあちこちから溢れてくる。

 


「......ラルーチェ」

「......ら、ラルーチェ?」


 隊長も、美咲も、心配そうに私を見る。気が付いてなかったが、美咲は既に手紙を読み終えて隊長と一緒に動画を見ていた。


「......もう少しで、読み終わる」


 あとでまとめて、隊長に気持ちをぶつければいい。とにかく、読み切る。

 いや、しかしだな。隊長も一人の人間だ。妻を持ち、子供と暮らす将来はある。

 けれど、その相手は私だと思っていた。子供が産めずとも、孤児を拾って共に育てる。血筋なんて関係ない、多くの子供たちに幸せを。そんな将来を、考えていたのだ。


『子供がいなかろうが「夫婦」の関係性に変化はない。しかし、疾風も「人間」だ。「自分の血を引いた子供を残したい」と思うはずだ。これは、「生命」の抱えた本能。そして、君らの持たぬものだ』


 自分の血を引いた子供。そんなもの、思ったことがない。けれど、それは私の境遇のせい。AIが全員、マスターとの子供に興味がない訳ではないはずだ。

 そう。それこそ美咲は、どう思っているのか。

 隊長の子を産みたいと、思っているのだろうか。


『ちなみに、彼女の将来の夢は「世界に名を轟かす人の傍にいること」だそうだ。疾風は、きっと喜ぶだろうね。彼自身が平凡な人生を望んでいないのだから』


 ......世界に、名を轟かす。隊長なら、できる。けれど、私が隊長の足かせになるつもりはない。

 子供が産めずとも、子供を育てることはできる。私は隊長と多くの子供たちを育てたかったが。


(自分の子供を、育てたいのか。私は、自分のこの汚れた遺伝子を残したいとは、思わないんだど)


 隊長の遺伝子は、別に汚れていない。けれど、もしも隊長も己の遺伝子が汚れていると思っているならば。私は、隊長の隣にいられない。


『だから、くれぐれも「己の願い」を疾風に押し付けないでくれよ。君たちは、非常に疾風想いだ。それも、疾風の感情を大きく揺さぶり、決断の方角を歪めるほどにね』


 ......そして、私たちを「大事に」してくれている。それも、事実だ。

 大事に、して欲しいのか。私は。


「......ふう」


 読み終わった。何と言うか、凄く、疲れた。


「読み終わったのか、ラルーチェ?」

「ああ。何と言うか、随分と変な教授だったな。隊長のことや私たちのことを、あーだこーだ書いてあったな」


 隊長に、余計なことは言いたくない。言えば言うほど、隊長が離れていきそうだったから。


「そうか。美咲の感想とはだいぶ違うな」

「?」

「あ、言ってなかったよな。さっき、美咲から感想を聞いて手紙も読んだぞ」

「な!?」


 美咲、その行動は軽率だぞ。あの手紙には、私たちにとって不利な言葉しか書かれていなかった。


「ごめんね、ラルーチェ。けど、必要だと思ったの。司令官と私たちが、前を進む為には」


 隊長の右肩に頭を寄りかからせ、美咲は真剣な眼差しでこちらを見た。熟考はしていないだろうが、それなりに悩んだ上での選択のようだった。


「......隊長、手紙を読んでどう思った? 正直に聞かせてくれ」


 なら、私も覚悟を決めよう。床の上を高速で歩き、隊長の左肩へ頬を当てる。


「お願い、司令官。全部正直に言って。その後輩の子が好きなら、それでもいい。教えて欲しいの」


 美咲も、いつになく重たい顔をしている。

 そう、だよな。場合によっては、捨てられるかもしれないのだから。


「......そう、だな。正直に言うとするならば」


 隊長は、少し考えている。スマホをテーブルの上に置き、腕を組んで俯いた。


「正直、院に行こうかなと思ってる」

「!?」

「!!!」


 空気が、張り付いた。私たちが、たった一日の女に、負けたのだ。

生命と機械。どんなに姿形が似ていても、その差は決して埋まらない。

データを埋め込み、プログラムを組み、どれだけ彼の好みにデザインされても、生命の意義は果たせない。


ああ、絶望だね。ああ、美しいね。

深い闇の底で、君たちはどう足掻くんだい?


次回『CODE:Partner』第二十二話『浮かびだす歪み』


その愛は、プログラムを超える。

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