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CODE:Partner  ~その愛は、プログラムか、それとも本物か──。~  作者: 里見レイ


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第十九話:思い出の少女と、あの時の師匠

前回のあらすじ


深層心理分析を行い、己の過去と向き合った相良。

天井を仰ぎながら、因縁の相手に天罰をと思うゆーすけ。

クリスマス会のチケットを手に、己の手札で勝利を決意した疾風。


三者三様の想いは、少しずつ一か所に集まろうとしている。

~12月21日・夕方 東京都・西畠ホールディングスビル~


「ではまず、黒沼様の脳に眠っていた意識の最深部についてご説明いたします」


 そして、一時間後。アリッサ・キリハに加えゆーすけたち同伴の元、僕のスキャン結果が発表される。


「まず気になるのは、十年以上前の記憶ですね。心に焼き付いた少年がいらっしゃるそうです」

「少年? ゆーすけのことか?」


 時系列を考えれば、ゆーすけと会った頃だよな。確か、姉ちゃんに付き添って「形国」の大会へ応援しに行った頃。


「いいえ。ゆーすけ様のデータと一致する記憶は別にありました。どうやら、黒沼様より五歳ほど年上の方のようです」

「五歳年上?」


 誰だろう。姉ちゃんは、十五上だし。


「お兄ちゃんの五つ上かあ。今は22くらいだね」

「ハニーが幼稚園児の頃の小学生ってこと?」


 僕のパートナーたちも、首を傾げた。まあ、僕の過去を二人話してないのも原因だろうけど。


「あと、黒沼様の意識の中には、深い傷を負った悲しい記憶がありました。時期として、五年前になります」

「!?」

「ご、五年前? 五年、前?」

「へー。お兄ちゃんの昔話だね」


 お、驚いたな。そんな細かく分かるのか。


「僕、よく覚えていないんだが。二人はどう?」

「知らないわ。ハニー、昔の話全然しないじゃん」

「アリッサに同じく」


 それは、すまなかった。僕の過去は地雷だらけなんでね。


「へ~。相良がその頃ねえ......」


 ゆーすけが、興味深そうに結果を見る。確かに、この頃は彼と会ってなかったからな。


「......ルーシー。少しデータの再分析かけられる?」

「え、ええ。多少は」


 ゆ、ゆーすけ。何をする気だ。


「職員さん、少し借りますね」

「は、はい」


 ゆーすけの聖女さんが、パソコンをいじりだした。


「十年前の記憶で検索をかけて欲しいんだ。検索ワードは『鎖鎌』と『ユリ・ハヤテ』」

「分かりました」


 聖女さんが、検索を始めた。パソコンが、すごい勢いで動き始める。


「鎖鎌、ユリ......まさか!?」

「何か分かったのか、キリハ?」


 妹が、ひらめいた。俺を押しのけるように前に出て、パソコンの画面を見る。


「ゆーすけさん。検索ワードに『形のない王国公式トーナメント「ガラスの庭園」』って加えて!」


 ......キリハ、耳元で大声を出さないでくれ。何か分かったのは、分かるから。


「分かった。ルーシー!」

「はい、検索条件に『形のない王国公式トーナメント「ガラスの庭園」』を追加します」


 パソコンが、更に音を立てて動く。壊れるんじゃ、ないだろうな。


「......」

「......」


 固唾を飲んで、見守る僕たち。そして、結果が出た。


「出ました! 『ユリ・ハヤテ』、形のない王国公式大会小学生の部で都大会1位・全国6位になった鎖鎌を使うプレイヤーです。年齢は、当時10歳。黒沼相良とは、『姉繋がりで話をした』と記憶が残っています!」


 ユリ・ハヤテ......。ユリ・ハヤテ!


「ああ、いたいた! 姉ちゃんと名前が似てるって理由で仲良くなった小学生! 確か、リリィが好きで彼女の『百合』にちなんでその名前だって言ってた! てか、その人ゲームの師匠だよ!」


 どうして、忘れてたんだろう。あの人、今も「形国」やってるのかなあ。てか、思ったより年が近かったに驚きだよ。

 ......思い出してきた。僕はあの人を、ユリ・ハヤテをとても尊敬していたんだ。マイナーな武器で多くの相手に勝ち続ける彼を。冷静で常に先を見据えてプレイしていた彼を。


「......ねえ、相良」

「何だ?」


 思い出に浸っていると、ゆーすけが現実に連れ戻してきた。何だよ、良いところだったのに。


「知ってるかい? 『形のない王国』のヒロインたちは『真田十勇士』のキャラをモチーフにした名前になってるんだ」

「あ、ああ」


 突然、どうしたんだよ。ていうか、お前が豆知識披露って珍しいな。


「僕のアスカ・佐野アスカは『猿飛佐助』、君のキリハは『霧隠才蔵』が元になっているよ」

「そ、そうなんだな。それで?」

「そして、リリィの名前のモチーフは「由利鎌之助」だ。リリィの日本語『百合』と彼の苗字『由利』がかかっているんだね」


 そ、それでどうなんだ。僕のさっきの言葉に、何か間違いがあったか。それとも、何か狙いがあるか。


「つまり、ユリ・ハヤテは『真田十勇士』がモチーフだと理解したうえでユリという苗字を使った。小学生なのに、日本史に詳しかったんだろうね」

「そ、そうなのか。確かに、その人は頭の良い話し方とかしてた気がするけど......」


 ゆーすけは、ユリ・ハヤテについて何か知っている。そして、それを僕に解かせようとしている。

 ここまでは、分かった。


「......ねえ、ハニー」

「何だ?」


 これ、アリッサも何か分かった顔だな。


「ユリ・ハヤテの『ユリ』はモチーフがあるのよね。じゃあ、『ハヤテ』ってどこから名付けたの?」

「え、そりゃあ本人が何かしらそれと縁があるってことだろ?」

「例えば?」

「そりゃあ、本名とかだろ。お姉ちゃんの『ユリカ』だって本名の『由里』からだし......え?」


 ......あれ。あれ。確か、奴は大学で日本史を専攻していたはず。


「あ、えっとさ。『ユリ・ハヤテ』の顔とか分かる?」

「はい。これだよお兄ちゃん」


 き、キリハ。いつの間に俺のスマホ取ってたのか。霧隠才蔵は忍者だが、そこも似るのか。


「えーと......!?」


 写真に写った。黒髪の小学生。冷静な顔に少し黒ずんだ目。幼さや人生経験の薄さは残っているが、この理想に溺れた感じ。間違いない。


『信じるべきは己の力』


 鉄に覆われたような硬くて冷たい奴の言葉が、あの時の師匠と重なった。


「い、犬飼疾風だ。あの時の人、犬飼疾風じゃないか」

「......やっぱり、そうなのね」

「お兄ちゃん、ゆーすけさんが追加調査した時点で察しようよ」


 お、驚いた。これも、一つの運命なのか。あのお兄さんが、今僕のライバルになっている。

 僕も、成長したってことなのかな。それとも、そう思っているだけなのか。


「彼に、面白いクリスマスプレゼントができたね。じゃあ、もう一つのプレゼントを作ろうか」


 ゆーすけは、予想通りって顔をしてるな。お前、本当に怖いよ。


「もう一つの、プレゼント? これが目的じゃなかったのか?」


 え、更に怖い。こんな衝撃の事実が、おまけなのか。


「違う違う。本来の目的は、君と本当の意味で愛し合えるパートナーAIを作ることだよ。クリスマスでの論点として『AIパートナーと愛し合うことは出来るのか』があると思うからね」

「!?」

「!!!」

「......そう、なのか」


 空気が、変わった。そんな話、今まで一回も聞いてなかったからな。


「君も彼も『AIは頼りになる「相方」』って部分は同じ。でも、君は彼女らを『生物』としていて、犬飼さんは『自律機械』、または『ゲームデータ』だと考えているよ」

「よ、よく分かるな」

「僕、人の気持ちには敏感だから。その分、疲れちゃうけど」


 せ、政治家の家も大変だな。新聞社も、人の嫌な感情に触れるには絶好の場所だし。


「で、今の君に必要なのは『心から愛し合える恋人』だと思うんだよね。君、パートナーたちに甘えるのが出来ないタイプだし」

「......知らん」


 本人たちの前で、そんな話をするなよ。いや、わざとだろうけどさ。


「だから、君が純粋な気持ちで愛し合えるAIを作ろうと思ったんだよ。君の深層心理のさらに奥に眠る、もっとも純粋な想いを使ってね」

「......そんな、必要か?」

「必要だよ。少なくとも、友人の僕に話せないような過去を心置きなく話せる相手が君には必要だ。そして、それは君にとって家族同然の存在となるパートナーAIなんだよ」

「......」


 根に持ってる、とかじゃない。色んなことは考えて、先手を打ってきてはいる。けれど、その言葉に悪意は一切ない。悪意なしで、何か戦略を練っている。


「君の今のパートナーたちも相性は間違いなく良いんだろうけどね。ただ、心の内を明かせる存在ではなさそうだから。別の強みのある『相方』が必要なんだよ」

「それは、まあ」


 キリハには、俺の方がお兄ちゃんとして接してあげたいし。アリッサは......何だか分からないけど、話しちゃダメな気がする。姉ちゃんに、似てるからかな。


「ちなみに、君は正直に生きているかい?」

「ま、まあ。それなりに」

「それなりじゃあ、ダメだよ。君は天才を引率する存在。悩みを抱え込んでいたら、そのうち爆発してしまう。何でも相談できる相手が必要だ」


 さっきの、続きか。「心から愛し合える恋人」にでも繋げる気だな。


「じゃあ、これは覚えているかい? 第六回大会で、僕が小学生の部で優勝した時だよ」

「え? まあ、多少は」

「この時、君は全国ベスト8。この頃の君はまだまだ直情的で、悔しさの余り暴れまわっていたよね?」

「......人の幼さを出してきて、どうする気だ?」


 イジワルそうな目。こいつ、思い出話にかこつけて、からかってるだろ。


「でも、女子の部準優勝だった君のお姉さんの友人が来た瞬間、君は暴れるのをやめた。昔から、女性の前ではカッコイイ自分を演じようとしていたんだよ」

「......若気の至りだ」

「その若気、今も続いているんじゃないかな? 君は、お姉さん以外の異性の前では己を封じて格好つける。それは、パートナーAIである二人相手でも一緒だ」

「......」


 心臓が、チクチクする。僕は、昔と同じ餓鬼だというのか。


「なあに、貶しているのではないよ。これが君の個性だと言っている。そして、個性を生かすにはそれに見合った『相方』が必要。違うかい?」

「......違わない」


 そう、繋げてくるか。僕の性格を幼いころから把握されていると、こういう時に不利だな。


「つまるところ、君の必要なのは恋人にも相談役にもなれる少女型のAIってことだね。ってことで、職員さん。彼の深層心理から『何でも話せそうな少女』を探してください」

「は、はい!」


 僕の意見は特に入れず、ゆーすけが次の作業に入った。

 凄く、タイピングしてるな。まるで分らん。


「候補としては、五年前に出てきた詳細不明の少女ですね。強く共感したと記憶がありますが、分析には時間がかかりそうです」

「他に候補がいないなら、彼女を詰めてみましょう。お願いします」


 ご、五年前の少女。僕が引きこもり始めた頃か。だ、誰だ。

 あ、あの子だ。多分、「インフィニティ・バトリオン」に登場する「地底の国」の兵士で。アリッサによく似たミサンガのあの子だ。


「はい、では分析開始」


 職員さんがエンターを押す。再び唸りだすパソコン。やっぱ、怖いな。


「五年前、五年前? な、何だったかしら?」


 アリッサも妙に何かが引っかかっている様子。まあ、多分。元同陣営で一緒に戦った経験があるだろうしな。本当、人間顔負けの動きをするなお前は。


「お兄ちゃんの、初恋の子なのかな? 初恋、私じゃないのかな......」


 一方のキリハは、完全に僕中心の考え。すまんが、初恋なんて覚えてないぞ。あの子に恋していたかは、判断が難しいけど。


 ビー! ビー! ビー!


「うわっ!」


 心臓に悪いアラートだな。何が起きた。


「どうしました?」

「え、エラーです。どうやら、この少女のデータは既にパートナーAIに使われていると出ました」

「そんなことが、あるんですか?」

「たまに、ありますね。パートナーAIに偏りがないよう、同じようなデータは自動で弾くシステムが取られていますので」


 へえ。適当に印象に残ってる人影を投影するだけではないんだな。あれ。


「けど、『既にいる』ってどういうことだ?」


 アリッサかキリハのどちらかってことか。ていうか、その謎の少女は誰なんだよ。

 本当に「インフィニティ・バトリオン」の子なのか。それとも、僕の記憶から抜け落ちているだけで他のゲームの子なのか。


「相良が分からなければ、僕もお手上げだよ。ただ、もしかしたら君がAIパートナーとの接し方に変化が起こりそうな予感はするね。そこの二人か、他の子になるのかは、不明だけど」


 ゆーすけがお手上げ、か。けど、俺も全然覚えてないんだよ。色々、あり過ぎたから。


「まあ、少し色々思い出してみる。犬飼疾風との因縁が出来た以上、僕も過去と向き合う必要がありそうだし」

「そうしてね。じゃあ、詳細データ用を郵送するから、あっちで書類書いて」

「お、おう」


 俺は職員さんとゆーすけに連れられ外へと移動する。

 なんか、思った以上に色々分かって、色々謎が増えた一日な気がする。

 これから、二人にどう接すれば良いのか。考え直さないと。

 そして、僕も準備をしないと。クリスマスに、因縁の深い「師匠」とゲームや討論で勝負することになるだろうから。

 そのために、一つ確認が必要だ。


「ゆーすけ」

「なあに?」

「お前は、クリスマスに何をする気だ? 色々僕のために準備してくれるのは、感謝してる。けど、お前にも何かメリットがあるのか?」


 自己犠牲、が一番近いのか。己の持てるものを全て使って、僕たちを助けている。けれど、ゆーすけ自身が何も得られない気がしてならないんだ。


「メリット、か。僕にとって、理想の世界に一つ近づくことかな」

「理想の世界?」

「君と同じさ。AIと人間が互いに手を取り合って、全ての人が幸せになる世界。君はその中でも、多くの人を『天才』にすることを重視しているよね」

「そ、そうだな」


 細かく分解して考えていなかった。が、確かに僕が「天才」を重視した結果「全ての人が幸せになる世界」は実現される。


「僕は、そんな世界を作りたい。誰かの犠牲の上で誰かが笑う世界は、もう嫌だから」

「犠牲の、上?」

「うん。平等じゃなかったとしても、理不尽なことはない方が良いから」

「そう、なのか」


 これは、珍しくゆーすけの内側が見れそうだな。


「ほら、前も話したでしょ。僕の父さんが政治家だって」

「ああ」

「政治の世界はね。理不尽なことが多いんだ。権力があるから、不正が許される。権力がないから、自分のポジションを他者に譲らねばならない。『理想』ではなく己の『欲』をぶつけ合うんだよ」


 怖いな。そんな風景を幼いころから見続けたってことかよ。


「特に、父さんは実家が新聞社だから。報道方面にも圧力をかけることができる。やろうと思えば、市民の人気を獲得して総理大臣だって狙えるんだけど、父さんは愛人や賄賂をもみ消す方に使っているみたいなんだよね」

「う、うっわあ」


 昨日話していた「愛人の子」を堂々と言ってた理由はそれか。そう聞くと、小物感が凄い。


「だからね。僕はそんな世界を変えたいんだ。誰かを陰で泣かせる人が、誰もいない世界をね」

「......僕が目指す世界と、同じなんだろ? だったら、僕は全力で進むだけだ。勿論、お前を笑顔にすることも含めてな」


 もっと、早く言え。そう思ったが、物事には順序がある。今が、話すタイミングだったんだな。


「お前を、心から笑わせてやる。だから、付いて来い。こういうのは、僕が先頭で旗を振った方が適任だろ?」

「まあ、そうかもね。相良も、理想を目指して突き進んで欲しい。足元は、僕が固めるから」

「自分のためにも、ちゃんと時間使えよ」

「勿論、ルーシーたちをもっと笑顔にしないとね」

「いや、そうじゃなくてさ」


 僕らの最初の戦い。それは、クリスマス。まずは、犬飼疾風を倒すこと。

 そして、世界中に響かせてやる。僕らの名を。


「父さん、そろそろ年貢の納め時だよ。今まで泣かせてきた人たちに謝る準備、しといてね」

「勝負だ、犬飼疾風。何処までが違うか知らないけど、僕の『理想』が正しいと証明してやる」


 それぞれが思い描く世界のため、僕は理想を貫く。友のためにも、家族のためにもね。


「さあ、行くぞー! お前が被ってる鉄の仮面、僕がぶっ壊してやる!」

「相良、静かに」

「あ、すまん」

 

 気合、入れ過ぎた。クリスマスまでにガス欠しないようにしないと。

相良の過去が、概ね洗い出せた。けど、まだ謎は残っている。

なぜ、彼は五年前引きこもったのか。

彼の想い出の少女は、一体誰なのか。


答えは、相良の奥底にのみ眠っている。ゆっくり、解読していこう。


次回『CODE:Partner』第二十話『考えるパートナーたち』


その愛は、プログラムを超える。

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