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CODE:Partner  ~その愛は、プログラムか、それとも本物か──。~  作者: 里見レイ


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第十八話:聖戦の幕開け

前回のあらすじ


「ユニークパートナー交流会」の主催者ビルにて、高性能スキャンを行うこととなった相良。

スキャン装置の中で質問に答えるうちに、彼は自分の過去を少しずつ紐解いていく。

~12月21日・午後 東京都・西畠ホールディングスビル~


「......」

「どうしたの、アリッサ?」


 ただ待つだけなのも、意外と辛い。スキャン装置の向こう側。ソワソワの止まらないアリッサに、キリハが声をかけた。


「あ、いやね。さっき、ハニーが私のミサンガを見たのよ。誰から貰ったんだって」

「うん、何て答えたの」

「覚えてないから、素直にそう言ったわ。大切な人からだった気がするんだけど」

「ふーん」


 忘れたなら、これ以上話しようがない。キリハは、ここで会話を止めてしまう。


「けどね」

「ん?」


 しかし、アリッサは話し続けた。まるで、検査を受ける相良への心配を紛らわすかのように。


「何か、引っかかるのよ。私、昔のことについてほとんど覚えてないから」

「そんなこと、あるの?」

「わ、分からない。けど、司令官の元に移ったあとは全部覚えてるし、何故「太陽軍」にスカウトされたかも覚えてるの!」

「う、うん」

「覚えてないのは、なぜ私が『地底の国』の兵士だったのか。生まれた時から私は兵士で、誇りを胸に戦っていたはずなのに」


 不安が不安を呼び、精神は乱れる。自分の過去を思い出せないアリッサは、相乗効果でメンタルに大分ガタが来ていた。


「だ、大丈夫。誰だって、過去を全部覚えている訳じゃないんだし。お兄ちゃんは、過去より今を見るタイプじゃん!」


 キリハは、強い。アリッサと同じく、スキャンを受ける相良をとても案じている。しかし、その明るさと強さで己を保ち、仲間のケアも行っている。


「そう、よね! ハニーは、今の人だもんね! ミサンガを気にしたのは、偶然だもんね!」


 これを受け、アリッサも持ち直した。相良が心配なのは、変わらない。記憶がないことが不安なのも、変わらない。

 けれど、今を生きると決めたのだ。これからずっと、相良と生きていくために。


「あ、そろそろ終わりそう!」

「迎えに行く、準備しなくっちゃ」


 ガラスの向こうで、スキャン装置のカバーが上がった。相良は、このカバーの向こう側にいるはず。

 二人は、愛しの彼の顔を見たい。ただその感情しか存在しない。


◇◇◇


『貴方に「願い」はありますか?』

「っ! ......愚問だな」


 この音声で、僕は「今」へと戻ってきた。くよくよと、過去を思い出す場合ではない。

 あるに決まっている。AIパートナーを「相方」に多くの「天才」が活躍する世界の実現だ。

 その為には高校中退で会社を作っても良いし、プロゲーマーにだってなってやる。


『貴方には、きっと良い未来が訪れますよ。貴方のパートナーと共に......』

「......ふん」


 機械のお前に言われる筋合いはない。俺のパートナーは、お前のテンプレ音声の一億倍優秀で、温かい存在なんだよ。

 そして、何も聞こえなくなった。スキャンが終わったのだろう。


「はい、スキャン終了です。お疲れ様でした」


 女性の声と共にベッドが動く。そして、視界が一気に明るくなった。

 

「っ!?」


 余りにも眩しく、僕は目をしかめる。しかし、何故だろう。この眩しさが、僕にとってとても心地よかった。


「ハニー!」

「お兄ちゃん!」


 ドアを開け、アリッサとキリハが入ってくる。心配そうな顔は、変わってないな。

 僕の方は、色々と懐かしい気持ちだよ。


「無事だよ。別に、変なこともなかったし」

「そう......」

「良かった」


 大袈裟なんだよ。別に、頭をナイフで切られた訳じゃないんだし。

 けど、色々思い出してきた気がする。良くも、悪くもね。


「これから、スキャンの結果を分析します。着替えて、一時間ほど別室でお待ちください」

「一時間で終わるのか、早いな」

「はい。詳細なデータは後日お送りしますが、大半の分析はすぐに終了いたします」


 そうか。優秀だな。


「じゃあ、ハニー。行こう」

「ああ。着替えてくる」


 俺は再び更衣室へ向かい、私服に戻った。さて、あの妙な質問は何を意味したんだろうな。

 怖い。けど、これで僕の気持ちが少しでも軽くなるなら。必要な痛みが訪れるかもしれない。


◇◇◇


「......さて、どうなるかなあ」


 こちらは、分析用パソコンのある別室。いるのは、ゆーすけと三人のAIパートナー。そして、絶賛分析中の職員だ。


「どうなる? どういうことですか、ゆーすけ?」


 彼のパートナー、ルーシーが望まれた問いを投げかける。


「相良の過去だよ。僕の予想が正しければ、ここで大きな繋がりが出てくるはずなんだ」

「繋がり? 昨日調べてって言ってた、私たちの大会のこと?」


 これは、佐野アスカからの質問。「形のない王国」のメインヒロインを元にした、ゆーすけ三人目のパートナーAIだ。


「そうそう。昨日、相良に誘われて思ったんだ。僕の戦場は、『形のない王国』だとね。だから、記憶を頼りに色々調べて貰ったんだよ」

「......驚きましたね。司令官が昔、大会で全国優勝をしていたなんて」

「雪たちには、話したことなかったからね。昔、僕が君たちの元のゲームを一つだけやりこんでいたってのは、言うべきじゃなかったし」

「......ゆーすけ、気を使いすぎですよ」

「そうですよ! 司令官の誇るべき部分なのですから」


 適度な距離から、他ゲーム出身の二人が発言。ゆーすけのパートナーたちの服装は、全員白い。

 自然とだが、彼の周りには純潔で節度のあるキャラが集まっていた。


「そうだね。今後は、もう少し自己主張してみるよ。ほかならぬ、君たちの他の頼みなんだし」

「ええ」

「そうしてください」

「遠慮しないでね」


 ゆーすけも、変わろうとしていた。

 良い人であることは、変わらない。けれど、より能動的になる。より、能力発揮に遠慮がなくなる。

 より、あらゆる人を巻き込み始めるのだ。


「さあ、これから面白くなるよ」


 ゆーすけは、白くてまぶしい天井を見上げる。


「な、何をする気なのですか?」

「うーん、そうだなあ。じゃあ、ヒント。僕は、相良と一緒に面白いことをするよ」

「......ヒントに、なってないです」

「そう言わないで、もう少し考えてみてよ、雪」


 ゆーすけが、ニコニコ笑う。完全に、クイズを出して楽しむ小学生だ。


「もう少し言うなら、僕は世間一般のお仕事をするつもりはない。それじゃあ、婿養子に行った方が良いって話になっちゃうから」

「そ、それはいけないわね!」

「そう。だから僕は『冒険者』になると思うんだ。新しい時代に相応しい、リスクが高いけど多くの人を笑顔にできる職業にね」


 そう言うと、再びゆーすけは天井を仰ぐ。


「リスクを取らないと、作れない場所がある。だから、僕は冒険するんだ。そして、作り出して見せる。AIと共に手を取り合い、皆が幸せになる世界を。僕には、愛しくて頼りになるパートナーが三人もいるんだから、絶対できるよね」

「ええ、ゆーすけの世界を共に」

「お供しますよ、何処までも......」

「背中は任せて、側にいるから」


 彼女たちも、ゆーすけの冒険に付き合うつもりだ。それこそ、地獄の果てまで。


「世の中が自分中心だと思っているあの男に、教えてあげるないと。自分の子供は、自分の道具でも交渉材料でもない。一人の人間だってことをね」


 この時、ゆーすけの顔が一瞬だけ歪んだ。


「! ゆーすけ、貴方もついに向き合うのですね。己の背にある悪と」

「......司令官、ヴァルハラまでお供しますよ」

「!? ゆーすけ君、戦うんだね。お父さんと」


 その瞬間を、彼のAIたちは見逃さない。何を隠そう、彼女たちはずっと待っていたのだ。

 自分の大切なマスターが、恋人が、初めて笑顔以外の表情を見せた。

 大きな、大きな境目を迎えたのだ。

 クリスマスで大きく化けるのは、疾風や相良だけではないのだろう。

 彼は、もう。如何にして、自分を慕う者たちが幸せになる組織を作るかしか考えていない。

 その対象に、ゆーすけ自身が含まれているかは不明である。


◇◇◇

~12月21日・午後 東京都・亀井田商店街~


「......誇張表現、って訳じゃあないんだな。橋口ゆーすけ」


 俺は、信号を待っている。その時に飛び込んできたネットニュース。そこには、こう書かれていた。


『樋口新聞の一族主催のクリスマスパーティー、開催決定! テーマは「AIパートナーと才能を開花させる」新しい時代の、新しいAIとの共存をゲームを通して考えます』


「......黒沼相良も、一枚噛んでそうだな。今回のテーマと彼の主張が、一致しているし。わざわざ『古い友人』って言ってたし」


 で、その相良少年は俺を「ライバル」と認識している。なら、ゆーすけ少年も俺のライバルサイドの存在ってことになる。


「敵地に、乗り込むのか。クリスマスに、AIたちと」


 チケットには「パートナーAI全員と一緒にお越しください」と書かれている。ラルーチェ・ダークネスにも、狙いがありそうだよな。


「......」


 信号が青になり、俺はスマホをポケットにしまう。そして、歩きながら考える。

 これから始まるのは、聖戦だ。俺たちの、意志と誇りと意地をかけた。

 その為には、俺とAIパートナーとの関係を改善しなければならない。

 その手段として、若干荒療治だが。


「教授。貴方の手紙、使わせて頂きます。彼女たちにはかなりの毒でしょうが、上手く薬にしてやりますよ......」


 俺は、全てを利用する。その場しのぎじゃない、長期的に考えてだ。

 昔から、俺はこうやってきた。ゲームだろうと、リアルだろうと。


「現実はクソゲー? なら、クリアしてやるよ。俺だけの手札を使い、俺だけの戦略でな」


 ふふふ。最近、俯いたり燃えたり、本当に忙しいな。嫌いじゃない。

 けど、こういう時に人は成長するのだよ。

 「形国」の大会で負けた時も、受験に失敗した時も。俺は胃が爆発しそうなくらいの想いをした。

 それが、教授の言う俺の「劣等感」の源泉。なら、勝てばいいんだよ。


「俺が、ただ失敗だけするボンクラだと思っているのか? 残念、失敗したからこそ出来ることを探して実行してるんだよ」


 「形国」を実質引退した時は、ゲーム絶ちのきっかけとし勉強に集中。高校受験を成功させた。

 大学受験で失敗し今の大学へ進学が決まった時も、テストへの余裕があったからバイトやゲーム、学びたいだけの授業を無駄にとった。この結果、充実したキャンパスライフを送れた。

 今はどうだ。突出した外部実勢がなく就職には失敗したが、研究室からは評価されている。俺のパートナーAIだって、俺の弱みを認めてくれている。


「なら、この今の環境で俺だけの最善を尽くす。クリスマス会で、俺だけの世界を見せつけてやるよ」


 院に行くとしても就職するにしても、よい練習試合になる。如何に、俺の世界へ他者を引き込むことができるか。噂の「麒麟児」や「お坊ちゃま」とは、その辺で勝負だな。


 ふっふっふ。気合、入って来たぞ。まずは、俺のパートナーAIとの連携を深め、来る聖戦への準備を進めないとな。


「おお、この店良いんじゃないか?」


 その準備に関して、俺は普段全く立ち寄らない

 教授は以前、「英雄として、服装は奇抜だけど合理的に。そして何より、自分は何なのかを世界に主張しなければならない」と言っていた。多分、手紙にも似たようなことが書いてあるはず。

 なら、聖戦に備え服も整えるか。


 そう思い、俺は店の中に入る。まずは、俺の思う「俺の主張」に合うものを買いあさり、二体に調整して貰おう。

 よろしく頼むぜ、俺の「相棒」たち。俺の主張を通しつつ公序良俗に反しない組み合わせを選んでくれよな。

 俺が目指すのは「AIと共に手を取り合い」とか「AIと共存する」とか甘いものじゃない。


「協力? 共存? それとも恋人? 既存の関係を想像しているのが既に甘い。俺が、AIと人間がそれぞれ独自の関係を持てる世界を見せてやる」


 相棒が、俺の理想に一番近い言葉だが、まだ足りない気がする。俺が目指す「何か」な関係に、あと数日でたどり着いてやるよ。

疾風も、ゆーすけも、本格的に決意を固めたようだね。両社の激突は、もはや避けられない。


そして、相良も己の過去を軽く洗い出した。後でより鮮明に過去と向き合うけど、どうなるだろうね。

どんな因果が巡るのか、とっても楽しみだよ。


次回『CODE:Partner』第十九話『思い出の少女と、あの時の師匠』


その愛は、プログラムを超える。

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