表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
CODE:Partner  ~その愛は、プログラムか、それとも本物か──。~  作者: 里見レイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/59

第十七話:記憶のミサンガ

前回のあらすじ


駅前で疾風を待ち構えた相良とゆーすけ。相良が影から見守る中、ゆーすけは疾風に「クリスマス討論会」への招待チケットを渡す。

疾風が「形のない王国」プレイヤーと見抜きそこから誘い、見事了承を得ることに成功した。


それを見た相良は、少しずつ頭の中から記憶を思い出そうとしている。

~12月21日・午後 東京都・西畠ホールディングスビル~


「......まさか、数日でもう一回ここに来るとは」


 東京都の中枢。僕はパートナーたちと共に、あの自己顕示欲親父の城へとやってきた。


「昨日の今日でスキャンの予約を取れる場所は、限られていてね。ここしか空いてなかったんだ」


 と、隣でゆーすけが言う。いや、逆によく予約取れたな。


「さあ、こっちだよ。今日は、VIP向けの特別室でスキャンを取るから、前やった時より精密なスキャン結果を得られると思うな」


 警備員と会話をし、顔パスで裏口を進むゆーすけ。俺たちも、後に続く。


「本当、ハニーの友達って凄いのね」

「普段は、全然そんな感じしないんだがな。けど、こういう時に住む世界が違うって思うよ」


 政治家に、新聞社がバックにいるんだ。その気になれば、大抵のことは何とかなる。


「けど、僕はそれが理由でゆーすけと友人になった訳じゃあないからね」

「分かってるわよ♡ 昨日見て分かったもん。ハニーは、キリハのゲームが本当に好きなんだってね!」


 また、アリサがバックハグをしてくる。何か、すまないな。

 お前のゲーム、やらなくなって大分経つからさ。


「さあ、このエレベーターに乗るよ~」


 裏口から数十メートル離れた奥より、ゆーすけが手を振っている。

 嘘だろ。こんな広いのか。


「スケールが違いすぎるねえ。ここ、小さめの集会場レベルだもん」


 とキリハ。俺の前で軽くステップを踏んでいる。

 そのままエレベーターに乗り込んだ俺たち。ゆーすけが最上階のボタンを押す。

 そして、鈍い音を立ててエレベーターは昇り始めた。


「おっと」


 余りにも揺れたので、俺は足がもつれる。


「ハニー!」


 咄嗟に、アリッサが俺の肩を寄せる。いつもより、力強く。


「お、おう。すまないな」


 いつも以上に強調された彼女の胸部に、僕は思わず明確に彼女から目を逸らす。

 そして、視線の先にはアリッサの脚があった。


「......ん?」


 そして、気が付く。彼女の足首に、古びたミサンガがあることを。


「アリッサ、ミサンガとか付けてたんだ」

「ええ! 誰かは忘れたけど、大切な人から貰ったものよ!」

「大切な、人ねえ......」

「あと、手首にも同じのがあるわ! こっちは大分ボロボロだけど」


 そう言うと、アリッサは軍服の袖をめくる。確かに、かなり古いミサンガがあった。


「それも、誰かから貰ったのか?」

「多分ね。こっちも、覚えてないわ」

「そっか」


 コンテンツAIでも、「覚えてない」ってことがあるんだな。まさに、人間と同じじゃないか。

 僕は、また少しAIパートナーを「相方」と思ったのだった。


「ん? ミサンガ?」


 けれども、その言葉に引っかかった。ただの貰いものなら「そーなんだ」程度で済むのに。

 なぜか、ミサンガが引っかかる。


「......ミサンガ、アリッサのミサンガ? いや、違うな」


 アリッサによく似た見た目、赤髪の子のミサンガだ。誰だっけ。

 とても、大切な人だった気がするのに。

 アリッサに似てるけど、アリッサじゃない人。誰だ。


『8階です』


 そうこうしてる間に、目的地到着。ゆっくりと鈍く、エレベーターの扉が開く。


「黒沼様、お待ちしておりました。どうぞ、こちらのスキャン室までお願いします」


 そこには、いかにも「研究所」と言えるような白い世界が広がっていた。そして、白衣の女性が僕を案内する。ついて行くと、CTスキャン顔負けの機械が現れた。


「おお! 国の指示で全員がスキャンした奴とは格が違うな!」

「凄いわね!」

「へー!」


 僕と一緒にアリッサ・キリハも驚きの声を上げる。こんな場所、普通は来ないからな。

 一方。


「よし、僕らはあっちの控室で待っていようか。いくよ、ルーシー・雪・アスカ」

「分かりました、ゆーすけ」

「了解しました、司令官さん」

「分かったわ、ゆーすけ君」


 ゆーすけと三人のパートナーたちは淡々と横へ逸れた。ここに来るのも、慣れてるのか。

 

「では、こちらの検査着にお着換えください。更衣室は、左手奥となります」

「は、はい」


 俺は女性から着替えを受け取った。


「じゃあ、着替えてくるな」

「うん」

「はーい」


 俺は二人に一旦の別れを告げ、一人更衣室へと入った。


「......ふう」


 自分の深層心理を、精密にスキャンする。改めて考えると、少し緊張するな。

 最初の時は、何となくで受けて結構おもしろい結果が出たと驚いたけど。


「精密なスキャンで、僕の何が分かるんだろう? 僕が将来犯罪を犯す確率? 僕の眠っている才能? それとも、僕のトラウマ」


 人に触れられたくない部分かもしれない。そう思うと、怖くなる。

 だって、そうだろ。

 元引きこもりなんて、嫌な思い出ばっかりだ。それを、彼女らに知られたくない。


「僕は、傷つきたくない。だから、『観察者』になった。もし、僕の過去に彼女らが失望したら......」


 僕は、再び引きこもる。やっとできた家族なのに。今だけに目を向けられる家族なのに。


「......ま、まあ。僕はゆーすけのことは信頼してる。何とか、なるか」


 クヨクヨ悩むのは、僕に似合わない。どうせ知られるんだ、早い方が良い。

 そう心に決め、僕は着替えを終えた。

 さあ、知ることを楽しもう。知った彼女らの反応を、楽しもう。


◇◇◇


「それでは、目を閉じてリラックスをしてください」

「はい」


 僕は、CTスキャンのベッドに体を固定される。曰く、軽く回転するそうだ。


「ハニー、気を付けてね」

「絶対上手くいくから!」

「おいおい、手術前じゃないんだから」


 それほど大掛かりでは、あるのだけれどね。不安は伝染するんだよ。僕まで緊張するじゃないか。


「ほら、離れて離れて」

「ハニー、リラックスだからね」


 アリッサが、俺の右手を握る。ハグは、出来ないからな。


「お兄ちゃん、ちゃんと見てるよ」


 そして、キリハは俺の左手に頬を付けた。だから、手術じゃないって。


「じゃあ、行ってくる」

「うん!」

「......信じてるから」


 二人が俺の手を離し、外へと移動する。首を上げれば、彼女らの顔はなんとなく分かる距離だ。


「では、起動します」

「お願いします」


 そして、スイッチが押された。アリッサとキリハはガラス越しの向こう側。ゆーすけたちは別室でスキャンの状況を見ているらしい。

 グワンとベッドが揺れ、周囲がだんだんと暗くなる。俺は、暗闇になったのを確認して目を閉じた。


『想像してください。貴方にとって、一番大切な人は誰ですか?』

「......?」


 声が、聞こえた。知らない女性の声。電車のアナウンスかな。

 大切な人。強いて言うなら、姉ちゃんか。いや、今はアリッサの方が大事か。キリハも、大事な妹だし候補には上がるか。


『サガは、私の大事な家族だからね』

『サガは、私の大切な大切な家族だからね。何かあったら、私が絶対に守るから!』

「姉、ちゃん」


 姉ちゃんが家を出て、もうすぐ二年。けど、もう五年近くまともに顔を見ていない気がする。

 まあ、引きこもりを辞めてすぐ仕事場に近い場所に引っ越したし。

 しょうが、ないのかな。


『想像してください。貴方が一番楽しかった時は、いつですか?』


 また、聞こえた。僕の勘違いじゃない。これは、スキャン装置からだ。


「楽しかった時期、ね......」


 正直、中学以降は良い思い出がない。だから、ゆーすけと会ったばかりの頃かな。

 「形国」のゲーム大会に出たりして、色んな人と遊んだな。

 そうそう。大会で鎖鎌を使う人から「相手の裏をかく」ことの重要さを教えて貰ってさ。


『俺は、使いたいから鎖鎌を使っている。けど、それで負ける気はない。ゲームの仕様で弱いなら、それを上回る戦略とプレイスキルで勝つだけだ』

『必要なのは、好きなもので勝利すること。どんなに苦しくても、それだけで全てが報われる』

「あー、達観していたな。ゲームでその考えが出来るって、普段からそんな感じだろ」


 熱気の満ちたバトルフィールドの裏側。僕は、全国ベスト8の大先輩から「勝負に勝つための心得」を聞いていた。まだ若いけど、凄い自分の限界に挑んて来てた顔をしてた。

 夏だったから、汗の匂いが凄かったよ。ゲームが何かのスポーツだって感じ取った瞬間だったね。


「あの人、僕よりかなり年上だったよなあ。今はもう、結婚してたりする年かもね」


 または、バリバリのエリート社員。少なくとも、何処か日陰で一生を終えることはないでしょ。


『想像してください。貴方にとって一番苦しかった時期は、いつですか?』


 次の質問か。

 言うまでもない。中学時代だ。姉ちゃんから......聞いた時だ。

 自分の生まれを、呪った。部屋に籠って、全てを拒んだ。

 この日、丁度台風訪れて休校だったんだよな。そして、僕の心に雨風が吹き込んできた日。

 家の中まで湿り気が凄くて、僕の不快感を助長させていた。


『サガちゃん! お願いだから、一緒にご飯食べよう!』

『サガちゃん! 私はずっとサガちゃんを愛してるよ!』

「......」


 この時は、姉ちゃんの言葉が何も信じられなかった。外で降りやまない雨の音で、洗い流して欲しいくらい煩わしかった。今思えば、姉ちゃんは悪くない。悪いのは、父親のはずなのに。


『うるせえ! 12年僕を騙し続けて、何が「愛してる」だ。嘘つきやがって!』

『!? ......ご、ごめんなさい。ごめん、なさい』


 姉ちゃんの涙を見たのは、これが初めてだった。強くて優しい、僕の姉ちゃんが、崩れ去った瞬間。

 僕は、家族と距離を取ることを決めた。


「あれから、どうしたっけ? 細かくは、覚えてないけど」


 拠り所は、パソコンの先のゲームだけだった。

 その頃だ。「インフィニティ・バトリオン」に嵌ったのは。けど、いつの間にかやらなくなったんだよなあ。


「何でだっけ? 凄く、苦しい思いをしたんだけど」


 その時のショックで、僕はゲームの世界にも絶望した。この反動で部屋を出て、現実で「観察者」になった。引きこもりと言う「当事者」から逃げ出すために。


『私は、誇り高き「地底の国」の兵士なんだ! 太陽の光など、いらない!』

「あ」


 そういえば、引きこもってた頃。同じように日の光を拒んだ少女がいたよな。

 誰だっけ。何かのゲームの、過去編の、えーと。

 とにかく、あの時の僕の心の支えだった子だ。よく、画面越しに愚痴を言いまくってたよな。


『小隊長のくれたミサンガを、呪いの装備だってバカにするなあ!』

「......そうだ、あの子だ。アリッサのミサンガ、あの子と似てるんだ」


 少しだけ、思い出した。「インフィニティ・バトリオン」でアリッサ以上に好きなキャラがいた。

 アリッサと同じくプラチナブロンドで、ミサンガを付けていた。目も、同じ青色だよな。

 カーテンを閉め切って、光を拒んだ僕の部屋。パソコンの光でも埃が舞っている分かるほどの、薄汚れた世界。

 こんな世界で、君の擦り切れそうな姿はとても輝いて見えた。


『私は、この「地底の国」が好きなの! どんなに他の人を傷つけたとしても、それしか生き方を知らないの!!!』

『そうだ! お前はお前の環境を誇って戦ってくれ! 僕が出来なかった、生まれに強い意志を、どんなに否定されても......!』


 生まれが呪われた者同士。僕は彼女に強く惹かれていた。周囲から非難されることを恐れて引きこもった僕に、それでも呪いを背負って戦う君が生き様を見せてくれた。

 同じような心境なのに、必死に前を進む君。君を見てると、少しだけ元気を貰えたんだ。


「でも、いつのまにか会わなくなった。なんでだろ?」


 そこが、どうしても思い出せない。なんでだっけ。確か、五年前の僕は......。

相良の過去には、色々な人が登場したね。

大切な姉、ゲームの師匠、そして思い出の少女。彼女らが今の相良を形作っている。

この因果のめぐる世界では、再開することも大いにあり得ると思うけど。

相良と今を共に歩むアリッサとキリハには、かなり邪魔な存在かもしれないね。


次回『CODE:Partner』第十七話『聖戦の幕開け』


その愛は、プログラムを超える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ