第十六話:王国への招待状
前回のあらすじ
自分の研究室の教授・斎藤庄五郎の元へ赴いた疾風。ここで彼は教授から「内定を蹴って院進学しないか」と12月の段階で誘われる。
曰くAIパートナーのおかげで研究の視野が広がったこと、疾風と相性の良い後輩が研究室に来ることが決まったからだからだという。
疾風の前の前に、大きな分岐点が現れた。
~12月21日・午後 東京都・亀井田駅前~
「あ、降りてきた!」
「何で分かるんだよ。お前、違法な追跡とかしてないよな」
一晩おいて、研修会場だった駅に立つ僕とゆーすけ。あと、僕らのパートナーたち合計五人。
僕たちは、犬飼疾風を待ち構えていた。
「まさか。家の人間に、彼の所属大学から行動パターンを割り出して貰っただけだよ」
「こっわ」
僕の友人は、親が政治家で更にネット新聞の会社も従えている。
だから、昨日のうちに俺の武勇伝が日本中を駆け回った訳だが。
「ここまで来ると、お前が恐ろしいく感じるぞ」
「いやあ、照れるね。相良みたいな切れ者に恐れられるのは、最大の誉め言葉だ」
「......」
こいつ、十年前から「悪意」って感情が欠けてるんだよな。皮肉って訳でもない。
「それで、部下に徹夜で作らせた招待状を渡すの?」
「勿論。今年のうちに、君は彼と話をしておくべきだからね」
そして、全て善意で人と人とを合わせたがる。お前はお節介婆さんか。
「君は、彼を『鉄を纏った怪鳥』、僕を『光の魔獣』と言ったそうだね。これを確かめる為には、何回か僕たち三人が同じ場で話をする必要があると思うんだよね」
「まあ、それは否定しないが。色々と急ぎすぎな気がしてな」
そもそも、週末の「ユニークパートナー交流会」にゆーすけが来ていたことも知らなかった。加えて、僕とは別の場所で犬飼疾風と接触していたともな。
「まあ、何と言うか。これも一種の運命かもな」
「ははは。だとしたら、君に焚き付けられた僕も間違いじゃないのかもね」
「......僕のせいかよ」
「そうとも。僕がここまで動いたのは、君が僕を躍動させようと働きかけたから」
ゆーすけの目が、少しだけ燃えていた。ああ、あの時に戻ってきてるな。
俺の憧れた、友の目だ。
「......まあ、時代が良かっただけだよ」
「だとしてもさ。さあ、こっちに向かってきたね」
そして、ゆーすけが歩き出す。目の前には、パーカーとチョーカーの男。
相変わらず目に光はない。けれど、力はある。
「こんにちは、犬飼さん。お会いできて良かったです」
ニコニコしながら、ゆーすけはパートナー三人と共にターゲットに接触する。俺は二人の会話が聞こえる距離で隠れて待つ。
「ハニー。あの人たち、上手くやるかな?」
「安心しろ、アリッサ。営業スマイルは、あいつの十八番だ」
今日も、アリッサが背中に圧し掛かってくる。隠れながらだと、少し緊迫感が増すな。
「いや、そうじゃなくてさ。あの疾風って人、ゆーすけのパートナーと仲悪いんじゃなかった?」
「あ」
そういえば、昨日の休憩中にそんなことを言ってた気がする。
確か「オメガ・ザ・ヒーローズ」だっけ。ってことは、ゆーすけの右隣のルーシーか。
「まあ、どうせ印象悪いだろうし今更だろ。それに、個人的な事情で会話を拒否するなら僕のライバルにはならない」
僕は、奴がAIパートナーと共に巨大プロジェクトを立ちあげてくると確信している。そんな奴が、個人の好き嫌いを持ち込むはずがない。
「そーだね。これに関しては、私たちはどーしようもないね! 見守ろう」
そして、僕の下側からキリハが一言。つくづく思うが、僕のパートナーは俺に触れる場所でも決まっているかのように同じとこから話しかけてくるな。
まあ、いいや。ゆーすけたちに視線を戻そう。
「こんにちは、橋口さん。今日もご友人とお会いに?」
無難な顔で、犬飼疾風が対応する。......こいつら、昨日もここで会っていたのか。
「まあ、それもありますが。今日は貴方宛てです。駅の近くにいれば会えるかなと思い、少し待っていたのですよ」
「そ、そうですか」
警戒してる。まあ、ゆーすけの不気味さを感じてるみたいだし、当然だけど。
あと、視線がゆーすけの右側を避けているかな。やはり、仲が悪いのは本当か。
「それで、私をお持ちになって何の御用が?」
「ええ、貴方にこれをお渡ししたくて」
そして、ゆーすけが電話一本で作らせたチケットを渡す。本当、一晩で良く仕上げさせたよな。
「......『クリスマス特別! ユニークパートナー討論会』ですか。なぜ私に?」
「貴方に魅力を感じたからですよ。淀未来研究所の研修会のニュースは読みました?」
「え、ええ」
「では、お気づきになられたはずです。ここに書かれた『麒麟児』黒沼相良が言及していた『将来のライバル』が貴方であることに」
「......」
ゆーすけの直接的な誘いに、考え込む犬飼疾風。ここで何も聞かないって、慎重だなあ。
「実は、あの記事は僕の家の人間が書いたんですよ。まあ、有体に言えば僕らは古い友人でしてね。彼の想いに協力してるんです」
「お、想い?」
「AIパートナーを『相方』として、誰もが『天才』として輝ける世界です」
「ほう......」
奴の反応は、分からないな。僕の理想を理解はしていると思うが。
「それで、是非とも貴方の意見を伺いたくてですね。クリスマスに、ゆっくり食事しながら皆でこの先の世界の話に花を咲かせたいんです。如何でしょうか?」
ゆーすけは、どこまでも正直だ。下手な駆け引きを一切しない。
それでも、犬飼疾風の警戒心は溶けていない。中々、厳しいな。
「もう一押しかしらね」
「彼の考えはお兄ちゃんと似てる部分もあるし、上手くいきそう」
二人も、静かに応援している。
「まあ、AIパートナーの話だけでは肩が凝りますし、ゲームも用意しますよ。良ければ、それだけでもプレイして帰りませんか?」
「ゲーム、ですか? 一体、どんな......」
「ここで、ゲームの話だと!?」
ま、まさかお前。僕の誘い文句をそのまま......。
「『形のない王国 オリジン』です。貴方もやってましたよね『形国』?」
「そのまま使いやがったー!」
昨日僕がゆーすけを家に招いた手段そのままじゃねえか。単純すぎるぞ。
「......」
あれ。考えている。奴も、やったことあるのか。
「鎖鎌、使えますよ? まあ、未だに最弱武器候補ですけど」
「......どこまで、俺をご存じなのです? 鎖鎌の話なんて、公の場でしたことないのに」
「まあ、昔に少々。覚えてはいないでしょうけど」
「......」
ゆーすけが、含みを持ったな。ちなみに、僕もその辺はよく知らない。
けれど、奴には何か思うところがあったようだ。
「......良いでしょう。どうせ、クリスマスは予定空いてますし」
こう言うと、犬飼はチケットを受け取った。そして、ゆーすけと彼のパートナーたちに軽く挨拶をして去ってしまった。
まったく、この人を動かす奇妙な明るさ。昔から変わらないな。
そして、僕の敵わない部分だ。
「あの人、アスカさんに片膝立てたよ!」
「ど、どうゆうこと?」
ここに来て、キリハが声を大きくする。そういえば、さっき屈んでたな。
「確かに、いきなり西洋風の挨拶をするのは変だけど。奴なりの敬意ってだけなんじゃね?」
「違うよ。お兄ちゃん思い出して! 私たちの世界でアスカさんは『女王代理』をしてたんだよ」
あーーーーーー。それ、初代の家庭用ゲーム機時代か。
ってことは。
「あいつは、『形国』を初代からやっている?」
「うん。しかも、多分かなりの手練れ」
「......勘?」
「うん」
へえ。思ったより、僕と同じ庭出身かもしれないんだ。
......いや、待てよ。
「疾風、はやて、ハヤテ......鎖鎌」
何となく、聞き覚えがあるな。確か、僕がゆーすけと初めて会った日に。
あのアクションRPGで鎖鎌と言えば、幻の少女・リリィだよな。
つまり、奴は彼女に何か思う節があるのか。で、僕俺も何か記憶にあるんだけど。覚えてないな。
えーと。
「いや、やめとこ。過去に囚われても、面白くないし」
僕は、脳内検索を辞めることにした。何となく、僕自身が苦しみそうだったから。
「やっほー。お疲れ相良」
考えるのを辞めると、ゆーすけが戻ってきた。勿論、彼らのパートナーも一緒だ。
「お疲れ、ゆーすけ。上手くいったみたいで何よりだ」
「うん。あ、そうそう。この後時間ある?」
「あ、ああ」
俺も、今日は学校をサボっている。どうせ、家に帰っても暇だ。
「じゃあ、西畠さんとこで予約取ったんだ。一緒に行こう!」
「え、どうゆうこと?」
「クリスマスパーティーで犬飼さんと討論するなら、自己分析は欠かせないでしょ? 今のうちに、君の深層心理をもっと綿密にスキャンしておくべきだと思うんだよね」
ゆーすけ、さっきから行動力がえげつないな。けど、それが何となく。
怖い。相変わらず、底が見えないんだ。
けど、それを理由に友と距離を取ることは許されない。
「ま、まあいいけど」
「決まり! じゃあ、行くよ」
「おう」
ミッションが終わり、もう一つのミッションがやってきた。
大変だけど、この感じは好きだな。前を向くことが出来るから。
「......ハニー」
「お兄ちゃん」
横で、僕のパートナーたちの声がする。安心しろ。僕は確かに元引きこもりだけど、体力は衰えていないからさ。
こうして、僕たちは運命のクリスマスを迎えようとしていた。
それぞれが、ドロッドロの想いを抱えながら。
そう。
僕らの想いが、あらゆる悲劇を生み出すことになる。
ついに、三人の正義が交わる時がやってきた。
来る三日後のクリスマス。彼らは討論会と言う名のゲーム大会を繰り広げる。
そこに待ち受ける彼らの運命は、果たしてどのように世界に影響を与えるんだろうね。
次回『CODE:Partner』第十七話『記憶のミサンガ』
その愛は、プログラムを超える。




