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CODE:Partner  ~その愛は、プログラムか、それとも本物か──。~  作者: 里見レイ


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第十二話:光の魔獣

前回のあらすじ


表舞台に引き釣り出された相良は、あらゆる事例を駆使してAIが「道具」ではなく「相方」だと証明し、社長に背を向けてセミナー会場をあとにした。ちなみに、その事例の最も大きかったものは、疾風のラルーチェがダークネスを使用したことである。

~12月20日・昼 東京都・亀井田駅ビル前~


「やあ、相良」

「!?」


 会場を出て徒歩二分。僕は声をかけられる。

 その柔らかいけど冷たい話し方。相変わらず寒気がするね。

 振り向くと、どこにでもいる張り付いた顔と、僕の知っているゲームキャラがいた。


「......ゆーすけか。僕のスピーチ、聞いていたのか?」

「勿論。参加者の中に僕の家の記者がいる。上手いこと、記事にさせて貰うね」


 期待通り、と言うべきかな。彼は、自分のこと以外に己の財力・権力を使用する。

 対象は、彼のAIパートナーや友人。


「友人として、お礼を言うよ。ありがとう。内定取り消しはともかく、下手な風評被害で高校退学はしたくないからね」

「そうか。だったら、嬉しいな。君の喜びは、僕の喜びでもあるから」


 き、気持ち悪い。友人に言う言葉ではないけど、いつも言動が善人過ぎる上に薄っぺらい。


「ハアイ、雪! 元気してた?」

「ええ、貴方も元気そうで良かったわ......」


 そして、アリッサが同じゲームのキャラと会話している。あれ、この二人って接点あったか。


「あ、ゆーすけさん。本当に来たんですね」

「うん、キリハちゃんこんにちは。相良に是非と言われたからね」


 キリハも少なからず彼を警戒している。しかし、ゆーすけはその警戒オーラを完全に流していた。

 って、いけない。今日は、あのスピーチを聞いた彼と話がしたかったんだから。


「あ、ゆーすけ。少しお茶でもしない? そこの喫茶店でさ」

「おや、珍しいね。勿論、良いけど」


 まずは、落ち着いて話せる場所の確保。速攻で席に座り、コーヒーを注文する。


「で、最近また高校に来てないようだけど。出席日数は平気なのか?」

「......まあ、何とかなるよ。親は、高校辞めても良いって言ってるし」

「辞めてどうするんだ?」

「多分、父さんの手伝いか見合いかな。最近、父さんの派閥で婿養子欲しがっている人がいるみたいで」


 そして、現状を再認識させる。扇動はしない。あくまで、自分で気づいて貰わないと。


「そっか。婿養子になったら一緒に遊べなくなるかもな」

「そうだね。どちらにせよ、高校卒業したら何処かの婿養子になる予定らしいし。それが早まっただけになるのかな」


 おいおい、いつの時代の話なのさ。しかも、学歴とか重視されないって完全な政略結婚だし。


「ち、ちなみに橋口家はどうなるの? お前、一人っ子だったよな?」

「父さんの愛人の子を、正式に養子にするんだって。家族全員引き取るし、後継ぎ以外の子も養子にするから向こうも賛成してるんだってさ」

「......は?」


 お前のおやじ、外道過ぎないか。


「それ、どうなのよ? 大事な息子でしょ?」

「そうよ! 扱いが酷過ぎるわ!」


 後ろで聞いていたアリッサ・キリハも怒る。いや、本当だよ。何なんだよ。


「まあ、婿養子と言ってもどうせ二世議員として用意された資料を読むだけのお仕事だから。生活に不便することもないし、悪くないかなって」

「......」

「それに、父さんは利己的な人間だ。僕を婿養子にする以外で利用する手が見つかれば、そっちにシフトするに決まっているよ」

「こ、候補はあるのか?」

「まだないよ。でなきゃ、学校サボってフラフラしないし」

「そうか」


 どうしよう。真っ向から反対したい。けど、それで動くような男じゃない。

 けれども、彼がレールの外を歩く余地はある。

 と、とりあえずプラン通りに行くか。


「まあ、お前が決めたことは否定しないよ」

「そうか、ありがとう」

「けど、忙しくなるならその前にまた遊ぼうぜ。ほら、昔よくやったじゃん『形国』」

「......ああ、しばらくやってないな」


 おっと、雰囲気変わったな。なら。


「実は、去年発売された『形のない王国 オリジン』俺も買ったんだよ。二人対戦も出来るし、今から僕んちでやろうぜ」

「え、今から?」


 よし、明らかにテンションが変わった。困惑が大半だろうけど、手ごたえはある。


「せっかくだし、アスカさんも連れてきなよ。ルーシーさんも連れてきていいし、みんなで楽しもうぜ」

「......雪は、どうする? 今日は雪の日だし」


 ゆーすけが、後ろの彼女に確認を取る。何か、決まりがあるんだな。


「ゆーすけさん、そのゲーム大好きよね。最近、私たち相手に時間を使いすぎているし、良いんじゃないかしら?」


 ......君のAIパートナーが良識的で良かったよ。それに、彼女らも思うところがあるっぽいし。


「じゃあ、とっとと飲んで行こうか。パートナー二人に僕の住所教えていいからさ」

「......そ、そうか。プライバシーとかあるんじゃ?」

「お前だから、いいんだよ」


 何年の付き合いだと思ってんだ。足掛け10年だぞ。

 信頼しない方がおかしいだろ。


「お前の才能、俺が表舞台に引きずり出してやるよ。お前のパートナーたちと一緒にな」


 僕は、小さくつぶやいた。彼の才能は、今の時代こそ必要なのだよ。


「お兄ちゃん、この人って一体誰なの? 前会った時は、友人としか紹介してくれなかったじゃん」


 喫茶店のお会計を済ませ、帰宅する俺たちと付いてくるあいつら。

 その中で、キリハがこっそりと聞いてきた。


「子供の頃、ゲームの大会で出会った友達なんだけど。今にふさわしい言葉で言うなら、そうだな......」


 僕は、少しだけ考える。前から彼女には僕自身を「主役」「羽の生えた猛獣」って言ったし。


「まだ、彼は『眠れる獣』なんだよね。ガラスの檻に入れられてる」

「うん......」

「けど、目を覚ませば。そうだな『英雄』になるだろうね。例えるなら『光の魔獣』かな」

「へ、へえ。お兄ちゃんの例えって結構ロマンティックだよね」

「そうか?」


 僕、別に自覚ないよ。


「あ、それならさ。あの人は。一昨日の犬飼疾風さん。お兄ちゃん、結構気に入ってたよね」

「ああ、彼はそうだな......」


 正直、ゆーすけ程は接してないからなあ。けど、分かる部分だけ出すと、こうかな。


「『悪役』かな。犬飼疾風は。例えるとしたら『鉄を纏った怪鳥』だと思う」

「そういう、感じねえ。随分闘争心向きだしだね」

「まあね」


 だって、彼は明らかに「凡人」なのにさ。オーラとか、動きが淀社長以上なんだもん。

 そして、彼はかなり狂っている。そんな人は、僕基準だと敵サイドだからね。

 けれども、彼は理性という鉄で自分を覆っている。だから、内なる狂気を秘めた怪鳥でも世の中を静かに歩くことが出来ているんだ。


 犬飼疾風。

 貴方と衝突する日は、そう遠くないと思うな。


◇◇◇

~12月20日・夜 東京都・黒沼宅~


「ゆーすけは、やっぱりレイピア?」

「いやあ、大剣」

「アスカさんの武器じゃん」

「僕はアスカのパートナーだからね。間合いの広いのを使って補うのさ」

「ほーん」


 そういう感覚なのか。


「相良は、短剣か」

「まあな。キリハと連携するのに便利なんだよ」

「へえ」

「んで、とりあえず闇村潜る?」

「いや、何年も触ってないからさ。いきなり難関ボスはちょっと......」

「大丈夫大丈夫。俺たち強かったじゃん」

「まあ、うん」


 静かに、俺たちは子供に帰っていく。十年の時間が、戻ってくる。


「あ、このコンボ昔のままなんだ」

「あー、これ更に派生コンボ来たよ」

「え? あ、ほんとだ」

「よく使われる強コンボみたいだし、今夜使いこなしてみたら?」

「そう、だねえ......」


 そして、ゆーすけの眼が徐々に昔のに戻っていく。そう、そうだよ。それを待っていたんだ。


「......ねえ、相良?」

「何だ?」

「このゲーム、競技人口はどれくらいいるの?」

「さ、さあ。前よりは少ないかもだが、数十万はいるんじゃない?」


 ゆーすけ、何を考えているんだ。


「そっかあ。じゃあ、少し面白いことができるかもね。ルーシー!」

「何ですか、ゆーすけ?」

「これと、これと、あと、これに連絡して。内容は......」


 友が、権力を使い始めた。スマホ片手に、色々な人に連絡を取り始める。


「......あ、そういえば相良」

「ん?」


 一人でコマンドの確認をしてると、落ち着いた口調でゆーすけが声をかける。


「今日のセミナーで、ラルーチェ・ダークネスの写真上げてたよね」

「ああ」

「そのマスター、犬飼疾風とは話したのかい?」


 ゆーすけも、犬飼疾風に注目しているのか。てか、名前知ってるんだな。


「講演会の前に、パイプ椅子のとこで会った。その時にラルーチェの話はしたが、まさかあんな隠し玉だったとは驚いたよ」


 あの時の縁には、少なからず感謝しないとな。ある程度の事前情報がないと、当の事態の時に上手く観察できなかっただろうし。


「......それだけ?」

「あ、ああ。他に何もないぞ」


 秘密の裏話をしていたと、思っているのか。


「そっか......」


 そして、静かに考えるゆーすけ。


「雪、西畠さんにスキャンの予約を取って。精度は最高レベル。時間は明日の昼過ぎ」

「はい、分かりました司令官さん」


 ルーシーとは別に、雪にも仕事を振った。こいつ、何考えてるんだ。


「相良」

「ん?」

「明日は僕の用事に付き合って欲しいな。君にもすごく有益なことだよ」

「そうか。構わないけど」


 まあ、僕にとっては痛みも伴いそうだね。別に、良いけど。

 何故かって。ゆーすけの眼が、あの頃と同じだからさ。

 こうして、夜は更けていく。まるで、パートナーAIがいないかのように。

橋口ゆーすけ。彼もまた、少しずつ動き始めている。元々、立場は相良や疾風より有利なんだ。できることも、多いよ。


羽の生えた猛獣:黒沼相良

光の魔獣:橋口ゆーすけ

鉄を纏った怪鳥:犬飼疾風


 三者三様の輝きを、これから皆で眺めて行こうか。ちなみに、次はまた疾風パートだよ。


次回『CODE:Partner』第十三話『第七話:正義の行先』


その愛は、プログラムを超える。

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