表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
CODE:Partner  ~その愛は、プログラムか、それとも本物か──。~  作者: 里見レイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/59

第十話:ひび割れた観察者

前回のあらすじ


相良は、市民ホールにて内定先の社長の主催する研修会に来ていた。

社長・淀信波の圧巻のスピーチの後、彼はパートナーAI二人を信夫に紹介する。

この時、相良は信波に「観察者」であることの脆さを指摘される。彼の脆さと強さが、一気にクローズアップされ始める。

~12月20日・午前 東京都・亀井田市民ホール~


 その後、研修会は淀みなく進んだ。マスターとAIのペアワークは、自己紹介と先ほど書いた「強み」と「弱み」を開示するところから始まる。

 マスター同士のディスカッション。では、それらに加え自分とパートナーAIの「関係性」や「何でこのタイプにしたのか」「何を期待しているのか」を述べ合い、感想を言い合う。


「思ったより、温和な研修会ね。もっと、軍隊みたいに厳しいかと思ったわ」

「多分、ここからだと思うよ。よく見てな、アリッサ」


 そして、五分の休憩を挟んだ後、社長は一気にギアを上げた。

 爆速で回答するケース問題。専門的な知識は必要ないが、先のことやイメージしないと分からない情報処理に、人間は置いて行かれる。そこを、AIがマスターに合わせた助言で正解へと導く。これは、結構理想的じゃあないだろうか。

 しかし、それは同時に「AIが敵に回る」と地獄となる。

 参加者にとって最も過酷だったのは「AIとゲームで勝負する」時間だ。簡単なカードゲームだろうと、大学受験の問題でも、人間がAIに適うはずがない。それを嫌と言うほど突き付けられたのだ。


「ハニー、あれって?」

「まあ、何とも荒療治だよね。自分の無能さと、AIへの強みをマジマジと自覚するんだから」


 そう、あれはある意味根幹部分だ。人間が、AIと同じ土俵で戦ってはいけない。自分がAIに勝てる部分を見つけ、そこを活かすのにAIを使え。

 社長は、そう伝えたいのだろう。


「お兄ちゃん、あれ」

「あらあら、耐えられないのかな?」


 勿論、これを受け入れて次に活かすことができない人もいる。

 その一人が、僕の観察者候補の喧嘩屋さん。ゲーム中は怒号を上げてたし、地団駄も伺えた。


「では、最後に。今回の研修のまとめをします。何人か指名をしますので、貴方の考える『AIと共存する時に大切なこと』を発表してください」

 

 そして、皆がヘロヘロになったタイミングで発表タイム。

 社長は、こんな時でも容赦がない。参加者に、休む暇など与えないつもりだ。


「では、まずは貴方。右側でよくメモを取っていたスーツのお兄さん。貴方は、どう思いますか?」


 そして、試すかのように一番熱心そうな若手のビジネスマンを指さした。これで、参加者のレベルを測るつもりなのだろう。


「は、はい!」


 ビジネスマンが立ち上がる。メモをめくりながら、急いで言いたいことを整理しているようだ、


「まず、私たち一人一人に『強み』と『弱み』があります。そこを補うのがAIでありAIパートナーです。個人それぞれの、『パテ』を作るのに必要なのは大きく二つ。ユニークAIのように『その人のベスト』であることと、『それを受け入れる世間』だと思います。そして......」


 真面目に回答している彼を見て、僕はアリッサを背中に招く。


「どうしたの、ハニー?」

「退屈な答えだなと思ってね。優等生だけど、模範的過ぎて観察の価値がないよ」


 こうした時は、彼女を背中から味わうに限る。

 心が安らぐし、姉と楽しく過ごしていた昔を感じるんだよね。


「それでも、目線は逸らしちゃダメよ♡ 今のハニーには、『テンプレート』もデータとして加える必要があるんだから!」

 

 背中に乗せる胸部を強めながら、アリッサは言った。


「み、耳が痛い」


 まあ、確かに。僕の周りには「平凡で愚鈍」はいたけど「賢明で模範的」な人はいなかった。

 こうした基礎データ収集も、大事なのかねえ。


「まあけど、この間にも観察者候補の観察をするのも面白そうだよ。ほら、あの人もうイライラしてる」


 キリハが、俺の胸板に頭を預ける。そして、奥を指さす。

 ダボダボのパーカーが小刻みに弾むくらいだから、相当貧乏ゆすりしているね。


「へえ。指されるかもしれないプレッシャーもあるかもね」


 あとは、他の人とのペアワークで失敗したか。まあ、概ね「失敗」か「不安」だね。


「はい、ありがとうございました。私の話をよく理解して真摯に研修に取り組んだことの分かる発表だったと思います。拍手!」

 

 拍手の音で、僕は一人目の発表が終わったと認識する。遠くからの観察だと、声の内容は二人に任せっきりだからね。


「では、次の方に話を聞いてみましょう。そうですねえ......」


 社長が辺りを見渡す。誰を選ぶつもりだろう。


「では、貴方。パーカーを着ている眼鏡のおじさん。お願いします」


 彼が指さした先は、僕らが見ていた場所。そして、あのこにパーカーと眼鏡は一人しかいない。


「あ、はい......」


 そう、一昨日に会った喧嘩屋さんだ。


「えっと、俺......じゃなくて僕、が思うのは......」


 猫を被っているのか。随分とたどたどしい。一昨日とは大違いだ。


「必要なのは、人の理解の出来る凄いAIだと、思います。強くて......優しいAIと一緒に、みんなでのんびり......」

「はい、もういいです」


 喧嘩屋さんの言葉を、社長が遮った。


「最初に私は言いましたよね? AIは僕ら人間が『使いこなす責任』があると。それを『人の理解できるAI』が必要? それは、単純に貴方が楽して生きていきたいから。論外です」

「......あ」

「強さも優しさも、『与えられるもの』です。私たちはAIに役割を『与える』ことがこれからの仕事。そのような受動的な意見を出てしまっては、今後AIによって生ける屍となるでしょう」

「......うう」

「うわ! 社長さん容赦なーい!」


 キリハが少しドン引きしてるね。まあ、無理もないけど。


「彼は、無能と分かるとトコトン潰しにかかるからね。例え、子供でもさ」

「あら、完全に奥さんとは離婚するタイプね」


 アリッサ、君も君で容赦がないね。まあ、多分バツイチだけどさ。


「これ以上、貴方に教えることはありません。早急に会場から出ていきなさい!」


 そして、完全な勧告。うわ、怖い。


「お待ちください! 康夫様はただ私たちパートナーAIと共に描く楽しい未来を......」

「それは、あんまりにも横暴よ! 暴君よ! ヤスオの言葉に少しは耳を傾け......」

「先ほどの発言、撤回を要求。さもなければ、対象を敵に認定し......」


 そういえば、パーティーの時にもいたね。喧嘩屋さんのパートナー。

 今までは静かにしていたけど、ここぞとばかりに一斉反論だ。


「パートナーAIが、貴方を諭さずに私に反論している。恐らく貴方のユニークでしょうが、この時点で貴方の性根は知れたものですね。これでこそ、もう用はありません」


 しかし、社長が叩き切る。もう、見ているこっちが冷や汗だよ。

 けれど、もしも僕があのまま殻に閉じこもっていたら。


「こんな姿になっていたのかな。そういった意味でも、彼は観察者リスト入りだね」


 悲しいリストだな。けど、目をそらしてはいけない。


「......」


 そして、喧嘩屋さんは何も言わずに会場を後にする。

 周囲の視線もお構いなし。一刻も早くのオーラ全開で、バタバタ走っていった。


「あ、康夫様!」

「ヤスオ! 待ってよ!」

「マスター! 追跡、開始」


 そして、彼のAIも後を追うように会場を出て行った。

 静まる群衆。

 喧嘩屋さんを嘲笑している人もいれば、社長に恐怖の目を向けている人もいる。


「まあ、彼はかなり酷い事例ではあると思いますよ。皆さんは、そこまで危機意識がない訳ではないでしょうし、気を張らずに自由な意見をお願いします。では、次はですねえ......」


 社長、これで続けるか。様々な顔色の参加者が一様に次の発表者を待った。


「次の人、プレッシャー半端ないわね」

「うわあ......」

 

 二人も完全に同情の空気。まあ、そうでしょ。僕だって、この場面で発表などしたくない。

 社長を持ち上げる発言をしたら「ゴマすり」に見えるし、社長に反論する意見をしようとも絶対に押し負ける。何を話そうが、観衆からプラスの印象は持たないだろうからね。

 全く、大変だねえ。


「舞台袖にいる彼に聞いてみましょう。黒沼君、こっちに来てください」

「!!!?」

「ハニーが!」

「お兄ちゃんが!?」


 ......っ。え、僕。ここで新キャラって感じですか。


「一緒にいるパートナーAIさんも、どうぞこちらへ」


 手招きする淀信波社長。遠くからでも分かる。あの目、僕を試している。


「観察者に徹して他人事じゃなかった? 僕の会社で働くのに相応しいか、抜き打ちテストするよ」


 って言ってるよ。


「は、ハニー......」

「お兄ちゃん、どうする?」


 心配になる二人。まあ、そうだよね。けど、返事は一つだ。


「大丈夫! 楽勝だよ、こんなの」


 二人の肩を軽く叩いて、僕は覚悟を決めた。

 あの鬼畜ジャケットめ。やってやろうじゃねえか。

 僕は全身で笑顔を作り、ステージへと上がる。

 マイクは、もう入っている。始まっているのだ。


「どうも、皆さん。こんにちは。黒沼相良です。淀社長の弟子であり、彼の過ちを正す未来の英雄でもあります。今日は、社長のお話した内容すべてを上塗りして帰って頂きたいと思います」


 そうさ、社長は僕の敵じゃない。踏み台だ。ステージの上で彼の隣に立ったからわかる。

 時代は、既に彼から離れようとしていると。

 もう既に、僕ら新たな若者のターンが回ってきていると。

 

「......ほう、聞かせて欲しいね。君の描く未来を」

「余裕ですね、社長。ここから腰を抜かさないで下さいね。ではまず前提として『人間とAI、どちらが主導権を握るべきか』の問いが古いんですよ。そんなの考えていたら、あっという間に時代の隅っこへ転落です」


 社長、どうせ貴方は「観察者」から「当事者」となった僕が芋虫だと思ってるんでしょ。

 残念、「主役」だよ。羽の生えた猛獣さ。

 この猛獣を狩れるのは、そうだな。


『世の中に、神も導きも正義もない。なら、信じるべきは己の力』


 既に、この研修会の結論を出していたあの男だけだね。

 犬飼疾風、明日のネットニュースで驚いて欲しいね。

 僕こそが、時代の寵児だとね。


「AIは大切なパートナー。されども、人間ではない。恋人のように愛し合うことは出来ても、夫婦になることはできない。『人か否か』『機械か否か』ではない『AIという新たな存在』として、私たち人間は彼らを『認識』し『与え』て『連れて行く』のです。新しい時代へと!」


 僕は、アリッサとキリハの腰に手を回してこう宣言する。

 さあ、バトルスタートだ。僕の溜まりに溜まった思い、機械の世界から出られない旧時代の方々に聞いて貰おうじゃないか。


 

相良、遂に羽化したみたいだね。まあ、タイミングが来ただけかもしれないけど。

彼だって、ウズウズしていたのさ。自分が再び表舞台に立つことをね。


ただ、この勢いがいつまで続くか分からないけど。歴戦の大人相手に、どこまで戦えるかな。


次回『CODE:Partner』第十一話『凡人には道具、天才には相方』


その愛は、プログラムを超える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ