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世界の崩壊を此処で待ち望む

作者: 秋暁秋季

注意事項1

起承転結はありません。

短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。


注意事項2

行くと暫く夢心地。

それこそがお気に入りの喫茶店です。


暖炉の様な地下室に、灰の染み付いた壁、皆が想像する純喫茶の世界がそこにある。マスターは相変わず忙しなく厨を動き回り、淡々と給仕を続けていた。延々とカップを磨き続けるのは理想ではあるが、実際にはそんなゆったりとした時間は与えられていない。何時だって戦場を極めていた。

私はそこでワングレードアップした珈琲と、酸味のあるケーキを知人と嗜んでいた。知人は憂いを帯びた顔で同じ珈琲を嗜み、キャラメル色のケーキに口を付ける。

「百円出しても此方にした価値があるわ。前のも、とても美味しかった。けれども此方の方が完成されている。ストレートで戴いても、するすると喉を下って行く」

珈琲は前に頼んだものよりも苦味が控え目。脳が痺れる程の甘さを常に求める私であっても、砂糖は不要。マスターの気遣いでミルクを頂戴したが、今度からは要らないかも知れない。ほろりとした苦味が完成された刺激を与える。

初めて頼んだ三角形のケーキは、しっかりとした柑橘系の酸味がした。飴のように甘さですり潰すのではなく、果実特有の爽やかさがある。けれどもやはり、今まで頼ん来た、彼が今頼んでいるキャラメルの長方形には及ばなかった。好みの問題である。

「好きになったのなら、深堀すれば良い。きっと新しい世界が君を待っている」

彼は静かに珈琲を啜りながら、黒い目で此方を見据えてくる。

言葉の裏を読み取るに、此処のも美味しいけれども、様々なものを触れた後ならより好みに合ったものがきっと見つかる。という事だろう。

「そうね。世界は広いもの。でも美味しいと思った事は嘘では無いし、今でも十分満足している。だから無理に探す必要はないの。物足りなくなったら勝手に探すわ」

大手チェーン店の珈琲を幾つか嗜んで来た。それぞれ個性が合った。苦味の強いものも、酸味の強いものも、色々。そこに並べられた品達が悪いという訳では無い。けれども何処か求めていたものと違っていた。平たく言えば私の好みの真ん中を射抜く事はなかった。

此処では理想が広がっている。求めていた珈琲がそこにある。だからこれで良い。これ以上があっても、これ以上を望む真似は今のところ存在しない。

「沈みゆく豪華客船で、奏者達は客人を落ち着かせる為に演奏を続けたそうだけど、あれと似ているわ。此処の珈琲を嗜みながら、世界が崩壊するのをただゆっくりと待っていたいの。ずっと穏やかに、美しく、私は世界の破片と化す」

酩酊に溺れる様にそう呟くと、彼の瞳に僅かな光が宿った。

何故このタイトルか。本編余り関係ないじゃん。と思われるかも知れません。

けれども、最後に浮かんだシーンこそが、珈琲とケーキ嗜みながら常に浮かべる情景です。


地面が端から崩壊していっても、そこは深い事象ではなく、今この瞬間こそが至福の時。

地面が瓦礫に成れ果てるよりも、この時間の方が余程大切。

それ故にこのタイトルです。


飲みながら何時も浮かべるんです。

豪華客船の沈没と似たような光景を。

それでも心穏やかに過ごせる。

これって余程の事だと思うんです。


1200円でそれが買えるなら、安いものですよ。


もしかしたらそれ以上のものが存在するかも知れない。

けれどもそれを探す気が起きないから、探しません。

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